突然の終焉 ヒルベルト・ローマン(メキシコ)③ ボクシング選手名鑑ピックアップ! 2015/12/11
さて、本日はヒルベルト・ローマン(メキシコ)の第3回。
世界戦12連勝中だったWBC世界スーパーフライ級王者渡辺 二郎(大阪帝拳)を、
クリンチ際のダーティー込みの超絶テクニックで判定負けに追いやり、
初の世界タイトルを獲得したところまでですね。
世界ランクを獲る前からとにかく巧く、メキシコではパンチャーとしても知られていたローマン、
才能に溺れ始めていたそうで…。
トレーナーのイグナシオ・ベリスタイン(メキシコ)の回顧によると、
このあたりから良くない連中と付き合い出したと…。
そこで、ベリスタインは対策を打ちます。
それも単純明快な…
題して「遊ぶ暇ないくらい試合させよう作戦!」
最初の防衛戦はエドガル・モンセラット(パナマ)。
お互いにとって第三国となるフランスでの試合。
世界王座獲得からわずか1ヵ月半後のことです。
モンセラット、WBA世界スーパーフライ級のカオサイ・ギャラクシー(タイ)に挑み、2RTKO負け。
その後再浮上してきた選手。
この初防衛戦を2-1の判定でクリアします。
スプリットデジジョンではありますが、ローマンに振ったジャッジは7P差と5P差。
際どい試合でも無く、なぜモンセラットに振ったジャッジがいたかよくわからないような試合。
ジャブ(ヒット)を優先するのか、ダメージを優先するのか…様々な見方がありますので
ある程度、ジャッジによって分かれるのは常。
たまに、偏ったジャッジ3人が集まってしまい、疑惑の判定なんて言われてしまうことも。
まぁ…ときには顔の綺麗さなんかで決まることもありまして…。
そのあたりは日本ボクシング 暗黒の時代を参照ください。
さ、初防衛戦をなんとかクリアしたローマン。
ルーベン・コンドリ(亜)戦での明確な判定防衛を挟んで対峙したのがサントス・ラシアル(亜)。
彼のキャリアの中で最も重要な人物です。
WBA世界フライ級王座を9度防衛して階級を上げて来た、アルゼンチンのスーパースター、ラシアル。
たった3ヶ月の間に2戦をこなし、しっかりバンタムの体を作ってきていました。
この3度目の防衛戦を1-1の引分でなんとかクリアするんですが、ポイント的には分の悪い引分。
ローマンに振ったジャッジが1P差に対してラシアルに振ったジャッジは5P差。
今ならダイレクトリマッチになっておかしくない点差です。
しかし、この試合に関してはアルゼンチンで開催されたこともあり、
ジャッジがラシアル有利に働いたのでは…という疑念が残る内容でもありました。
その後、のちにカオサイ・ギャラクシーを最も追い詰めることになる男
コントラニー・パヤルカン(タイ)をも明確な判定で破り、
次戦のアントワーヌ・モンテロ(仏)を敵地で9RTKO。
WBC世界フライ級王座からの2階級制覇を狙ったフランク・セデニョ(仏)も
手玉にとってポイントアウトします。
ここまで6度の防衛。
タイトル獲得からちょうど1年…つまり2ヶ月に1度のハイペースで防衛数を重ねています。
ここで、3度目の防衛戦で引分けたサントス・ラシアルと再戦します。
前回の引分が敵地での地元判定が疑われる内容だった為、中立国フランスでの試合。
この試合、10R終了時点でジャッジは3人ともローマンを支持。
残り2Rのうち1Rでも取れば、ローマンの防衛が決まる…というところで、
11R、パンチによる大きなカット…。ドクターの判断は続行不能。
不運な形でラシアルに逆転TKO勝ちを許し、王座を手放します。
試合内容では決して劣っていなかったローマン。
その後、再起戦に勝利したローマンは、ラシアルからベルトを奪っていた
シュガー・ベビー・ロハス(コロンビア)に挑戦。
王座陥落から1年という期間が空き、この間の試合ペースは2ヶ月に1試合から
半年に1試合まで落ちていました。
しかし、特にブランクを感じさせることなく、判定で王座を再獲得。
そして通算7度目の防衛戦…2度目の来日を果たします。
相手はハードパンチャー内田 好之(上福岡)。
実績不足のミスマッチなどと囁かれた内田ですが、
4Rに軽く突き出したような左で、超絶のテクニシャンであるローマンからダウンを奪います。
カウント8で立ち上がったローマン。
突然猛攻を仕掛け、このラウンドの後半、内田にとんでもないアッパーを浴びせます。
ダメージを引きずった内田は5R開始直後、ローマンの左でダウン。
再開後は全力の右ストレート、カウンターの左フックを浴びて2度目のダウン。
なんとか立ち上がるものの、レフリーの判断はストップ…。
そもそもメキシコではハードヒッターで鳴らしたローマン。
初の判定負け後にスタイルを変更し、負けないボクシング、
リスクを冒さないことを貫こうとしていたんですね。
それが内田戦では、ダウンを挽回するために、ハードヒッターとしての実力をむき出しにしたんです。
ローマンの怖い、強さの底深さはここにあります。
判定で勝てると思ったら全く無理をしない。
ただし、危ないと見るや、強烈なパンチを撃ち込むハードヒッターに突然変化する。
いつでも倒せる実力がありながら、ダーティーな戦法も辞さず、クレバーに試合を運ぶんですね。
常日頃から技巧派のイメージを植え付けておくことで、強烈なパンチ力を奥の手として使う。
まさに戦略家、ベリスタインの選手…といった感じです。
さて、この次は初めて名古屋から世界挑戦を果たした
のちのWBC世界スーパーバンタム級王者 畑中 清詞(松田)との一戦。
これはローブローの減点で2Pを失いながらも3-0の判定勝ち。
完全に畑中を翻弄しきった試合でした。
ちなみにこの来日時に、ローマンのスパーリングパートナーを務めたのが
第23代WBC世界バンタム級王者の薬師寺 保栄(松田)。
この時日本ランキング10位だった薬師寺は、
ローマンに触れることさえできなかったと、のちに語っています。
その後は、再浮上してきたシュガー・ベビー・ロハスとの再戦にも明確な判定勝利。
この時期に次の指名挑戦者を決める決定戦がサントス・ラシアルと
フアン・カラゾ(プエルトリコ)の間で行われ…カラゾが勝利。
ローマンとしてはラシアルへのリベンジを望んでいたことでしょうが…
勝ち上がってきたカラゾを手のひらで転がすように試合を支配し、判定勝利でこの試合をクリア。
次戦ではラシアルを挑戦者に指名し、ラバーマッチに挑みます。
1戦目は地元判定が疑われる試合で引分け。
2戦目はほぼ勝ちを手中にしながら、不運なカットでTKO負け。
このラバーマッチ、2度目の王座獲得後のローマンでは最高の出来で、完全にラシアルをポイントアウト。
試合を通じてラシアルを翻弄し続けたローマン、不運続きだった因縁の対決を制します。
積み上げた通算防衛数は11度。
ここで現れた挑戦者が「ガーナの超特急」ナナ・コナドゥ(ガーナ)
のちには、タイの英雄、ウィラポン・ナコンルアンプロモーション(タイ)を
2RKOで倒すことになる超強豪です。
「ガーナの超特急」と言われると、足の速いアウトボクサーをイメージしてしまいますが…
この試合でコナドゥが見せたボクシングはプレッシャーで追いつめ強打を振るう姿。
歴戦のローマンを翻弄し、黒人のバネ丸出しのスピードに乗ったパンチを振るう。
距離を取ろうとしたローマンの逃げ道をステップでふさぎ…
1Rから幾度も倒されたローマン。
ローブローに、バッティング…肱を突き出し、巧妙なダーティーテクで
なんとかペースを引き戻そうとするものの…
結局大差判定負けで王座陥落します。
この時点、全勝のアフリカ王者だったものの全く無名だったコナドゥが
世界を震撼させた試合…時代は新しい世代へと移り変わっていきます。
その後、WBC世界バンタム級のベルトはムン・ソンギル(韓)へ移動。
前回の敗戦から半年後、ローマンはソンギルへ挑戦します。
しかしこの試合で8R終了TKO(棄権)で敗北。
当時軽量級を占領していたコリアンファイターとメキシカンファイター…。
メキシカンファイターはガチャガチャ来るコリアンファイターに苦戦することが多く、
この試合もまさにそんな試合。
ローマンは劣勢に立たされつつ逆転を狙う展開…でしたが、8R終了時に突然の棄権。
何かのトラブルだった可能性もありますが、ちょっと韓国語が解らず、原因の追及断念…。
(誰か解る人いたら教えて!!!)
とにもかくにも世界再挑戦に失敗。
挑戦者として敗北した以上、ここからしばらく積み上げ直しを強いられる可能性が高い。
しかし、まだ28歳のローマン、ここから生き残りマッチを制し…なんて展開がありそうなものですが、
これがローマンのラストファイトになります。
ローマン事故死の報が世界を駆け巡ったのは、この試合からわずか3週間後。
自動車事故によるものでした。
のちに様々な人間が彼を回顧した時に必ず出る言葉。
「彼は巧すぎた。」
ベリスタイン、ジョー小泉、渡辺二郎…
渡辺との対戦時、既に煙草をくゆらせていたそうで。
あまりの巧さにボクシングをナメてしまった。
本当はもっともっと凄い選手だったと…。
このローマン、ベルトを奪ったときに戦った、渡辺 二郎側からの目線で見ると更に凄さが掘り出せる選手…。
次のシリーズでは渡辺 二郎をピックアップしますので、また、そのときにでも…。
と、いうわけで本日はここまで。
また明後日。
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