刈谷伝説の4回戦第一章 マンモス 和則(中日)② ボクシング選手名鑑ピックアップ! 2020/01/13

刈谷伝説の4回戦第一章 マンモス 和則(中日)② ボクシング選手名鑑ピックアップ! 2020/01/13
 
 

 

2017年の新人王レースは、ミニマム級が激戦区だった。
「例年のレベルなら全日本新人王」と言われる選手が4人もエントリー。

東日本新人王決勝に勝ち進んだ、赤羽根 烈(角海老宝石)と和田 優麻(REBOOT)。
さらに、西部日本には抜群の才能を振り撒く仲島 辰郎(平仲)
マンモス 和則(薬師寺)を含めたこの4名が、同一階級に集結し、
大混戦の全日本新人王レースが予想された。
 

この4人のうち、最初にぶつかるのが、マンモスと仲島だった。
 
 

2017年9月17日。
1年ごとに、西部と中日本で開催地を入れ替えながら行われる、中日本・西部日本新人王対抗戦。
勝った方が、西軍代表決定戦へとコマを進めることとなる。

この年は、中日本開催の年。
刈谷あいおいホールで優勝候補二人が激突した。
事実上の全日本新人王決定戦とまで言われた試合である。
 

試合が始まると、ディフェンスをしっかり固めた仲島は、
マンモスのパンチをもらっても単発に留め続ける。
貰えば即座に距離を取り、後続打は貰わず…。

仲島の手数が少なかった1Rはマンモスが獲ったと思えたが…。
2Rにはディフェンスの意識高く、小さくパンチをまとめる仲島が獲り返す。
そんな中…突如異変が…。

強打に頼って振り回し続けたマンモスが、3Rで一気に消耗を見せる。
大きな空振りを繰り返した結果、ズルズルに疲弊してしまったマンモス。
様々な武器を失い、ただ、奇跡の一発に賭けて振り回し続ける。
そんなマンモスに、仲島の細かいパンチが幾度も浴びせられる。
…以降試合はその展開のまま。
自身の拳を信じ続けるマンモスだったが、奇跡の一撃は叶わず…試合終了のゴング。
 

ジャッジは三者ともに37-39。

スタミナの無さ、ペース配分の稚拙さをあらわにし、プロのリングで初の敗北を喫した。
 
 

破格のパンチ、スピードもある、実は足も使える。
強さの要素をいくつも持ち合わせながら、それら全ての長所が台無しになる程に大きな欠点。

「ガス欠癖」

ここからのマンモスの道のりは、この解りやすすぎる弱点がキーとなっていく。
 
 

ちなみに、この年の新人王は、まさかのダークホース、井上 夕雅(尼崎亀谷)が制している。
他地区の新人王全員が優勝候補として名前が挙げられる中、
唯一名前が挙がってこなかった、西日本新人王。

前評判をその拳で覆した井上…僕が現在、”西のカリスマ”と呼ぶ選手である。
 
 
 

マンモスが破格のパンチ力を見せつけ、
そして破格の弱点まで見せつけてしまった新人王戦。
終わった直後に、マンモスに対して名指しで対戦を希望する選手が現れる。

やはり…弱点をさらせば、狙われる。
中日本新人王MVPという実績を得て、その強さを印象付けながら、
攻略する方法もはっきりしてしまったマンモス。

これほどにおいしい相手もいないだろう。

そう思って、名乗りを挙げた選手の名前を確認する。

太田 アレックス(西遠)
 

静岡のブラジル国籍の選手。
戦績は綺麗ではないが、この年全日本新人王を獲得した井上 夕雅とも対戦し、
互角に近い撃ち合いを演じている強者。

…猛烈な違和感に襲われる。
太田は激しい撃ち合いをする選手。

距離で行けば、わずかにマンモスが遠いようにも思えるが、
二人が戦う距離はかなり似ている。
スタイル的には、確実にマンモスと噛み合うハズ…。

アレックスがどうやってマンモスの消耗を…?
まさか…。
 
 

会場で会えば挨拶を交わす仲だった二人。
好印象を抱いていたアレックスが自分を指名したことに対して戸惑うマンモス。
ナメられたのか…本当は嫌われていたのか…。
 
 

2017年11月26日
二人の試合のゴングが鳴るとともに、アレックスの意図ははっきりした。
前に足を進めて向かっていく…やる気だ…。

出てくるアレックスに対して、マンモスの方が足を使う。
ピリピリとした緊張感の中のファーストコンタクト。
お互いの右フックが交錯した瞬間、そのまま両者の腰がストーン!と落ちる。

両者なんとか踏みとどまったが…あわやダブルノックダウン。
「刈谷あいおいホール伝説の4回戦」が幕を開けた瞬間だった。

ダメージが深いのはマンモスの方。
ふらつきながらクリンチに逃れようとするが巧く抱きつけずに、リングに転がってスリップ。
1Rの間、そんなシーンが何度も訪れる。
 

2R開始早々、叩き込まれたマンモスの左ストレート。
失神してもおかしくないと思えるような威力のパンチをまともにもらいながら、
アレックスは攻め返して右ストレートでマンモスの顔面を跳ね上げる。

お互い迂闊に手が出せない緊張感の中、離れた距離から、一気に距離を詰める瞬間を探す両者。
プレッシャーをかけるアレックス、旋回するマンモス。

ラウンド終盤、またもマンモスの左ストレートが炸裂。
しかし、もらった瞬間、逆に一気に攻めに転じたアレックス。
マンモスは劣勢に立たされ、ガードを固めてやり過ごす。
 

3R、攻勢を強めたマンモスが大きく右フックを振り出す。
スウェーで交わしながらアッパーをフルスイングするアレックス。
お互いに空振りに終わるも、戦慄が走るようなパンチの交錯。
あまりに大き過ぎる右フックに、マンモスはリングにすっ転ぶ。

再開後も、マンモスは大きい右フックを振るう。
威力は凄まじく、肩口に当たるだけで体を持っていかれるアレックス。
その直後、勝負を賭けたかのように、マンモスをロープに追い込んでラッシュをかけたアレックス。
ここまで優勢に進めながら、真っ向からマンモスと撃ち合う意思を見せる。

このラッシュを丁寧にガードしていくマンモス。
手を出せるタイミングを選んでカウンターをとっていく…。

そして…突如振るわれた大きな右フックが、アレックスの顔面を捉える。
カウンターで突き刺さった猛烈な強打で千鳥足になるアレックス。
ここからいつものKOパターン。
嵐のような強打の連続からトドメの左ストレート…。
顎を貫いた一撃でアレックスがリングに沈む。

数えられるカウント…
「止めろぉぉぉぉぉ!!!」
衝撃的過ぎるダウンシーンに、思わず叫んでしまう。
カウントは途中で止まり、勝者の宣告を受けるマンモス。
 

大逆転KO劇に会場は興奮の坩堝。
内容に満足していないか…「すいませんでした」とリング上で詫びるマンモス。
 
 

これまで、マンモスの強打と真っ向から撃ち合えた選手はいなかった。
しかし、この日、アレックスはそれをやってのけた。
マンモスの強打と真っ向から対峙し、そして上回りながら、最後はその強打に沈んだ。
 

致命的な弱点をさらけ出したマンモスに対し、おいしいと思ったわけではないはずだ。
消耗を狙う素振りは一切なかった。
3R、アレックスが攻め立てた場面、マンモスのスタミナはもう限界だったように思える。
そのまま流せば着実な勝ちを拾えた試合…アレックスは倒しに行き、そして逆転の一撃を浴びた。

マンモスの強さを真正面から引き出して、さらにそれを上回ろうとしたアレックス。
ただ、「強い男とスリルのある殴り合いがしたかった。」
この試合で見せたアレックスの姿を見れば、対戦要求の答えはそれしかなかったように思える。
 
 

試合後、勝ったことに嬉しさを抑えきれないような感じで、マンモスがやってくる。
自分の隣で観戦していた家族に歓喜の勝利報告。

隣にいる自分にも声を掛け…
こうしようと思ったら、こうされて…どうでした?
どうしたらいいと思います?
興奮したまま素人相手に質問攻めにしてくるマンモス。

内容に納得のいっていなかったような「すいませんでした」が嘘だったかのよう…
あまりに素直な子供のような喜びっぷりに、デビュー戦で感じた、ヤンチャなヒール感など忘れ去ってしまう。
当初に抱いた印象と全く真逆…話してみるまで、その選手がどんな奴かなんてわかるはずがない。
そんなことを痛感させられた。
 
 

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