ヒーロー 矢吹 正道(緑)① ボクシング選手名鑑ピックアップ! 2020/03/25

ヒーロー 矢吹 正道(緑)① ボクシング選手名鑑ピックアップ! 2020/03/25
 
 

会場に麻倉未稀のヒーローが鳴り響く。
この曲を入場曲に使う選手は過去にも現在にも何人かいる。
しかし、刈谷あいおいホールにこの曲が響くとき、
現地に足繁く通うファンにとって、思い浮かぶのはだだ一人だろう。
 

矢吹 正道(緑)
5月6日、戦い慣れた刈谷あいおいホールで日本タイトルマッチに挑む。
 
 

関係者の間ではデビュー前から彼の名は鳴り響いていたそうだ。
いや、地元三重では彼が高校生の頃から…。

1992年産まれ。
既に27歳、二次の父でもある。
高校生の頃にはその名を鳴り響かせていた有望選手のデビューは遅く24歳。

若くして結婚し子供を授かった矢吹は、プロデビュー前、東京へ出ている。
三重の片田舎で「このままじゃダメになる」と感じた矢吹は家族を連れ、
弟の力石 政法(緑)と共に東京の名門ジムへ向かおうとした。

この辺りの経緯はWIN ROUND1にも掲載しているので是非読んでいただきたい。
 

当初の計画は狂い、東京での生活は苦しく、仕事に忙殺される日々。
東京でのプロデビューを断念し、矢吹は地元に近い、名古屋へ戻って来る。
様々な紆余曲折を経て、ようやく24歳でデビューした。
ここに書ききれないほど、彼が歩いた道は険しいものだった。
 

デビュー時点の関係者たちの期待通り、矢吹は新人王トーナメントを駆け上がる。
しかし、全日本新人王決定戦…東西MVP対決となった中谷 潤人(M.T)との戦いを落とす。
相手の中谷は、コロナウイルス流行の影響で流れはしたが、この春に世界挑戦が決まっていた選手である。

1R、KO寸前に追い込みながらの敗戦。
普段の矢吹を知る者たちは、矢吹のパフォーマンスが明らかに落ちていたことを感じていた。

「普段の矢吹であれば勝てていた試合…」

客席のそんな言葉は、負け惜しみとしてではなく、中谷が勝ち進むごとに、
「矢吹も同じ土俵で勝負できるのではないか…」
といった期待の言葉として使われるようになる。
 

その後、勝ち星を重ね、順調にA級に昇格するが、なかなかチャンスをつかめずにいた矢吹。
その力に見合う相手が少ない…そして、所属ジムの移籍。
この頃、「本当はこんなにも強い」矢吹の先行きが見えずにいることに
周囲のイラ立ちも高まっていたように感じる。
 

無事、名古屋の老舗、緑ジムへの移籍が決まった直後、
矢吹の対戦相手にユーリ阿久井 政悟(倉敷守安)が名乗りを挙げる。
現在の日本フライ級王者…この頃は将来を期待されるホープとして
倉敷から全国に名を轟かせていた頃。
 

中谷に苦杯を喫した二人の対決だった。
有望ホープと目された三名のうち、頭一つ飛び出した中谷。
残された二人は、生き残りを賭けるように倉敷のリングで激突した。
この試合、試合開始早々のユーリの右ストレートが決着をつける。

一瞬の攻防で、二つ目の黒星を喫した矢吹。
「勝負所に弱い」

そんな言葉も聞こえるようになったのはこの試合が大きいように思う。
 

プロデビューさえすれば一気に駆け上がるハズ。
そう考えていた人々は大勢いたはずだ…しかし、その大勢が考えていた以上に
リング上は厳しいものだった。
 

この場面で、誰より矢吹を信じたのは緑ジムだった。
再起戦、対戦相手には世界挑戦したばかりのヒルベルト・ペドロサ(パナマ)を呼び寄せる。
未だノーランカーだった矢吹だが、この試合に勝てば、世界ランキングも日本ランキングも手に入る。

大勝負だった。

しかし、試合数日前にペドロサがWBC15位圏外にランク落ち。
チャンスが突然、リスクだけの試合になる。
この試合、ボディ一撃で勝利を飾ったが、やはり見返りは少なく
手に入ったのはWBC15位圏外のランキングとOPBF東洋太平洋のランキングのみだった。

海外の報道も、矢吹の台頭を伝えるものではなく、
ペドロサ敗戦による世界戦線脱落を報じるもの。
 

ここで、緑はへこたれることなく、さらに強豪を呼びよせる。
WBAラテンアメリカライトフライ級王者、ダニエル・マテリョン(キューバ)
当時はまだ日本国内で無名だったキューバのトップアマ。

アマチュア時代の井上 尚弥(大橋)に世界の壁を知らしめたアマチュア世界王者、
ヨスバニー・ベイティア(キューバ)にも勝利を挙げている選手であり、現在のWBA世界ライトフライ級暫定王者だ。
 

後楽園ホールでの試合、矢吹はこの強豪にスプリットの判定を落として3敗目を喫する。

「あの時はまだ少し早かった…」
この試合について尋ねたとき、緑ジムの松尾会長はそう言って奥歯を歯ぎしりさせた。
決して届かない相手ではなかった…そして今ならば…。
そんな思いがありありと感じられた。
 
 

 

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