蓮志の美学 田中 蓮志(トコナメ)② ボクシング選手名鑑ピックアップ! 2020/03/23

蓮志の美学 田中 蓮志(トコナメ)② ボクシング選手名鑑ピックアップ! 2020/03/23
 
 

 
 

晴れて中日本新人王に輝いた田中 蓮志(トコナメ)
次戦は9月15日。

西部日本新人王と、西軍代表決定戦への出場権をかけての戦いだった。

相手は脇山 望(FUKUOKA)
アマチュアでも8戦を踏んでいる選手。

1Rに強烈な右ストレートを効かせた田中は、足を使う脇山に強烈なプレスをかけ
ボディで追い込んで行く試合展開…下がり続ける脇山は逆転の一撃を狙い続ける。
試合は追い込む田中と、下がり続ける脇山の形を保ったまま終了。

ほぼフルマークで田中が制した試合だったが、逆転に賭けたかのように見えた脇山の左フック。
最終ラウンドにこれをしっかりと貰っていた田中には、やはり危うさを感じた試合だった。
 

下がり続ける相手を倒せなかった…。
試合後に顔を合わせた田中は、まるで恥ずかしい姿を見られたかのように悔しがる。
倒したい…その欲求を包み隠さず表に出す田中。

ここから、西日本新人王と対決する西軍代表決定戦。
それに勝てば、東日本新人王と対決する全日本新人王戦。

「自身の美学を貫き、そのうえで勝利を手にする。」
自分の進む道を客席に誇示して、この先の戦いに旅立っていくように見えた。
 
 
 

11月10日、西軍代表戦に挑んだ田中。
試合は見れていない。

激戦だったと評判の試合は、ダウンを奪われた末、3者とも1ポイント差の判定負け。
全日本新人王の高みには届かず…しかし、観戦した人達の声からは
田中蓮志なんたるかをしっかりと示したように感じた。

試合前半、ジャブと右ボディでペースを奪う中、右の一撃でダウンを奪われた田中。
ポイントリードを許して迎えた最終ラウンド。
捨て身の攻撃で盛り返すも、ダウンの分、ポイントは届かず。

田中は劣勢に陥る中、その気の強さで勝利に迫った。
相手の表 祥(SFマキ)はこの年の全日本新人王を獲得。
最も強かった相手として田中の名前を挙げている。
 

新人王戦を区切りにし、スッパリと辞めてしまう選手もいる。
旅に出た選手の帰りを心待ちにする身としては、いつもそれが何より心配になる。
そんな気持ちを見透かしてか、試合後のTwitterには負けてヤケ食いする姿。
これなら大丈夫…ホッと胸をなでおろしたのを覚えている。
 
 

翌年も新人王にエントリーすると宣言していた通り、
2020年2月に発表された新人王トーナメントには田中の名前。

2戦目で田中が引き分けたもう一人の注目株、
後藤 圭人(タキザワ)のエントリーは無かったが、
その後藤のテクニックとスピードをねじ伏せた各務 海都(尾張水野)がエントリー。

近い距離で勝負ができる山崎 隼人(名古屋大橋)と、
綺麗なアウトボクシングで魅せる森川 祐輝(緑)の二人の長身サウスポー。
さらに、元同門で2019年に田中と拳を合わせたブル 弘師(HEIWA)

ライトフライ級は背筋がゾクゾクするような超大激戦区となった。
そんな将来有望な面々が並ぶ中でも、昨年勝ち上がった経験は確実に力になっているはず。
僕は優勝予想に田中の名前を挙げた。
 

2月半ばには中日本のボクシングが開幕。
3月、いよいよ本格的にシーズンが幕を開ける時期だったが
コロナウイルス流行の影響で3月中の興行が全て中止となり、ボクシング界もパニックに。
そんな大混乱の最中、訃報が届く。
 

令和2年3月6日
田中 蓮志

享年22歳
 
 

将来を期待される選手が、突然この世を去った。
言葉が出なかった。

「全日本新人王を獲ったら、ボクシング選手名鑑にトランクススポンサーになって欲しい」
そんなお願いをしに来るつもりだったそうだ。
 

僕は一人に絞って選手を応援することはできない。
試合を2,3試合見ると、その選手のドラマを見たような気分になり、だいたい好きになってしまう。
だからもう、そのあたりは最初からあきらめて、
出てくる選手はみんな好き…なんて思いで試合を見ている。

それでも、やっぱり田中蓮志は特別だった。
長い距離で魅せる抜群のセンスと、強烈な気の強さ。
ときにジレンマを感じ、ときにその姿に美学を感じ…。
試合のたびに感情を揺さぶられるボクサーだった。
 

見れていない最後の試合。
交流のある、朝日新聞の伊藤雅哉記者が現地にいた為、感想を聞いてみる。

ボクシングマガジンでも記事を書かれているプロの方。
自分が記事を書かせてもらっているフリーペーパーWINにも
次回号から参加いただく強力な仲間だ。

事情を話し、田中の最後の試合について教えて欲しいと頼むと、
当日メモを取ったノートを即引っ張り出し、
自分の記憶と照らし合わせながら、その試合ぶりを教えてくれた。

以下の内容は伊藤記者がラインで送ってくれたもの。
————
この日は試合が多いので、僕も写真撮ったりでめまぐるしいので
Twitterで速報する階級を4つ決めていたんです。
それが、ライトフライ級があまりにも激戦だったのでツイートしました。

1回の空いているところに次々当てる美しい攻撃と
リードを許した4回に捨て身で向かっていった姿に感動しました。
あの気迫を出せる選手は少ないと思います。
 

当然、僕は田中蓮志選手は初見で、前評判も知りませんでした。

1ラウンド
表君はぐいぐい前に出るファイターですが、足で距離を取りながら
空いているところ(左ジャブ、右ボディー)を当てていきました。
美しいボクシングでした。

2ラウンド
先行を許した表は中に入ろうとするが、なかなか入れない。
それがラウンド終盤に右を当て、田中に膝を着かせる。
表は勝負根性があり、ここというチャンスを逃さないところがあります。
その一発で形勢逆転。

3ラウンド
表が開始からラッシュ。スリップとノートに書いてますが
おそらく蓮志選手がバランスを崩したと思います。
表がガードを固めて突進。近い距離で攻め続け、表のラウンド。

4ラウンド
僕が感動したのはここ。
はっきりポイントで負けている蓮志選手が、思い切り攻めて出ました。
写真を撮っていたのか細かい記述がノートにないんだけど、
ツイートしたように捨て身の攻撃だったと思います。
なかなか四回戦で、腹くくって打っていける選手は見た事が無くて印象に残りました。
もちろん蓮志選手のラウンドで、結果的に2ラウンドのダウンの差で1ポイント負けでした。
————
 

刈谷あいおいホールで見てきた田中が目に浮かぶようだった。
長い距離での強さが際立つ分、攻めて出て行く田中の気の強さは
欠点に見えてしまうこともあった。

しかし、最後の試合、田中はその気の強さで試合を捲り上げた。

行くべきときに行けること…それは誰しもができることではない。
 

田中が目指す理想の姿と、持ち得た抜群の才は別のところにあったように思う。
彼はリングの上で、才を活かすことより、理想に向かって走ることを選択した。
なりたい姿を求めるようにファイトした。

そして大阪で、初見の観戦者に感動を与えるようなボクサーになった。
 

本人が自分の戦いぶりをどう思っていたかはわからない。
意図してそうしていたのかもわからない。

ただ、リングの外側から田中を見て来た自分にとって、
田中は理想を追い続け、そのうえで勝つことを目指したボクサーだった。
田中蓮志のボクシングとは…をこれ程強烈に脳裏に植え付け、
客席のファンに語らせることのできるボクサーも多くはないだろうと思っている。

彼がリングの上で指し示した「戦う男の美学」を、僕は一生忘れない。
 
 

大好きでした。
とにかく寂しいです。

ご冥福をお祈りいたします。
 
 

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