滾る血の気 田中 蓮志(トコナメ)① ボクシング選手名鑑ピックアップ! 2020/03/21

滾る血の気 田中 蓮志(トコナメ)① ボクシング選手名鑑ピックアップ! 2020/03/21
 
 
 

その日の刈谷あいおいホールは、いつもに増して好勝負が繰り広げられていた。
来年の新人王トーナメント参戦を睨み、4回戦ボクサーの中でも
好素材と思える選手たちが激しい試合を繰り広げていた2018年12月2日。
 

興行の途中に設けられた休憩時間、
しばらくブランクを空けている中野 元気(トコナメ)の姿を見かける。
軽く頭を下げた僕に対して、「あ!」と声を出し、隣にいたボクサーを紹介してくれた。

両眼をパンパンに晴らしたボクサーの名は、田中 蓮志(トコナメ)
この日まで1戦1敗。

デビュー戦を見逃していたので初見だったが、その時の対戦相手が、
「刈谷あいおいホール伝説の4回戦」を演じた太田 アレックス(西遠)だったこともあり
気にしていたボクサーだった。
 

この日の第2試合、デビュー戦の後藤 圭人(タキザワ)と対戦。
抜群のバランスと丁寧さ、巧さもありながら打撃戦を演じる好選手。
そんな相手に対し、離れた距離を完璧に制した田中だったが
撃ち合いに持ち込まれてのドロー。

もったいない…しかしながら両者とも、今後の軽量級の注目株になる…。
そんな予感を存分に感じさせてくれた二人の戦い。
 

目の前の田中に思わず興奮そのままに「いい試合したねー!」と漏らしてしまう。

言った瞬間、「しまった!」と思った。
あと僅かで獲り損ねた初勝利。
勝利を得られなかったボクサーの心はデリケートなものだ。
 

そんな心配とは裏腹に、素直に嬉しそうな笑顔を返す田中。
「人懐っこい子だな…。」

それが田中の第一印象だった。
気になって、田中のデビュー戦を観戦したファンに試合内容を尋ねてみた。

「試合の入りは抜群。撃ち合うなら、もっとディフェンスを磨いて欲しいよね。」
 

この日の田中の試合ぶりも、まさにその通り。
長い距離で抜群のセンスを発揮しながら、ストロングポイントとは別の近い距離で勝負する。

撃ち合わずに戦えば、この選手はかなりいいところまで行くはず。
ただ…撃ち合いを磨いていく選択肢もある。
結局、勝ち上がれば撃ち合いを避け続けることはできない。

まだデビューして1年に満たない選手…選択肢は無数にある。
どれが正解かはキャリアを終えるときに分かること。

新しい掘り出し物を見つけたような気分だった。
 
 

2019年の中日本新人王戦。
トーナメントのライトフライ級に田中の名前を見つける。

準決勝からの登場となる田中の対戦相手は…元同門の先輩、ブル 弘師(HEIWA)
つい最近までジムメイトとして切磋琢磨したブルの移籍初戦がこの試合。
相手を選べない新人王トーナメントの無情さを感じるカードだった。

運命を交錯させるのが何より大好きなボクシングの神様は
ときに意地悪なドラマを用意するものだ。
 
 

いきなり詰めたブルの左をもらったオープニング。
田中はいったん距離を取ってリセットすると、抜群のタイミングで捉えて行く。
しかし…ラウンド終盤、田中ははっきりと制していた距離を捨てて撃ち合いに応じる。

リスクを増幅させたものの、
田中は右ストレートを突き刺して、鮮烈な1RTKO勝利を挙げる。

リングで涙に濡れるブル。
複雑な表情を見せる田中。

何とも言えない感情に駆られる中、リングが勝負の世界であることを痛感させられる。
 
 

「これで未勝利なのか!」

そんな感嘆が上がる客席。
この試合で田中を認知したファンも沢山いたことだろう。

スピードも、タイミングもある。
離れた距離での駆け引きも、試合の入り方もいい…。
懸念するのは、撃ち合う時のディフェンスの悪さ。
そして…有利な立場にいても、撃ち合いに身を投じてしまうスタイル。

抜群の強さと危うさを併せ持つ選手…魅力的に感じて仕方なかった。
 
 

勝った試合では、試合後に褒めて欲しい子犬のような眼をしてやって来る田中。
人懐っこさと、素直さを感じさせる可愛い若者だが…
リングの上では、気の強さを抑えきれない獰猛さを感じさせる。
この日以降、僕は田中のことを「中日本で最も血の気の多い男」と呼ぶようになる。

勝ちを拾うボクシングをさせれば、間違いなく全日本新人王候補。
ただし…その姿は田中の望む姿ではないようにも感じる。
勝ちを選ぶか、撃ち合いの美学を貫くか…。

直接かける言葉に、野暮なものを選ぶのはよしておいた。
田中が歩んで行く道を見守っていたいと感じていた。
 
 

8月4日、中日本新人王決勝戦…相手は中村 潔(ARITOMI)
当時、10戦3勝(2KO)7敗の負け越しボクサー。

中村は強い選手ではない。
しかし、7敗のうちの4敗はのちの日本ランカーとなる選手。
巧くない、強くない、速くない…ただひたすらに”頑張る”ボクシング。
それで3つの勝利を挙げて来た選手だ。

中村の展開に巻き込まれればこの上なくやっかい。
この選手を圧倒した選手はみな、その後結果を残している。
ある意味、リトマス試験紙のような選手。
 

田中は中村を圧倒してみせる。
1R開始早々に行けると判断したか、一気に攻め立てて獰猛に襲い掛かり
耐えて耐えて手を返そうとする中村がついに腰を落とした瞬間、レフリーが割って入った。

セコンドからは「無駄に撃ち合うな」の指示がしきりに飛ぶ中で、一気に詰めきった田中。
昔に比べれば伸びたとはいえ、決して長いとは言えない競技寿命。
その道を行くなら、貫いて欲しい…そんな思いが試合を見るたびに増していた。
 
 
 

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