レジェンド終焉 張正九(韓)⑦ ボクシング選手名鑑ピックアップ! 2016/02/23
本日でラストとなるチャン・ジョング(韓)のシリーズ…。
約半月…ほんとに長かった…。
いや、本当はもっと掘り下げればね、これだけの内容で収まるはずがないんですよ。
間引いて間引いてこのボリューム…そんな意味でもチャン・ジョング…恐るべし!!
さて、前回は引退から復帰したジョングが、ソット・チタラダ(タイ)とのクロスゲームに敗れたところまで。
この試合が、あまりのクロスゲームだった為にWBCより再戦が命じらたわけです。
ソットは1戦挟んでジョングとの再戦を計画。
挟んだ相手は、ムアンチャイ・キティカセム(タイ)。
元IBF世界ライトフライ級王者で、軽量級の大スターマイケル・カルバハル(米)にタイトルを奪われた選手。
このキティカセムとの防衛戦…なんと6RTKOでソットが陥落してしまいます。
本来、1勝1敗のソットとの決着戦になるはずだった試合。
ジョングはソットからベルトを奪った、ムアンチャイに挑むこととなります。
シャープにジャブを放つムアンチャイに対して、ジョングは慎重に踏み込みのタイミングを計ります。
前回の敗戦からか、強引に攻め込むことはせず、時折飛び込んで連打を見舞うジョングと、
その入り際に合わせるムアンチャイ。
一進一退の攻防が続きますが、5Rにはムアンチャイの体が伸びてしまったところに
タイミング良くジョングのフックが刺さってムアンチャイがダウン。
再開後に攻め込み、ラッシュの中のアッパーで2つ目のダウン。
二階級制覇をぐっと引き寄せます。
しかし一気にジョングに流れがいくかと思いきや、次の6Rにはムアンチャイが冷静に、速やかに、
自らのボクシングを取り戻します。
7Rには両者の激しい撃ち合いとなりますが、この展開では互角。
この撃ち合いで行けると判断したか…
ダウンを奪われて劣勢のムアンチャイ、前に出て逆転KOを狙います。
7Rでボディに強打を集められたジョング…。
踏み込みは鈍り、自分が撃ち合いたい距離にわずかに届かない。
5cmほど身長の高いムアンチャイの距離で撃ち合うことになり…
8R以降、ムアンチャイの強打に晒されるジョング。
上へ下へ…いくつもの強打を浴びせられます。
まさに滅多撃ちに近い状態。
2度のダウンで奪ったポイントも吐き出してしまったように思える11R。
開始直後にジョングの右のショートがヒット。
スリップ気味にムアンチャイがダウンします。
しかしタイミングで取られたダウン。
ダメージはそれほど無く、再開後の撃ち合いで優勢にも見えるムアンチャイ。
3度のダウンを奪ったものの、ポイント的には拮抗していると思われる12R。
疲弊したジョングは前に出ていきます。
おぼつかない足取りで前へ…前へ…
このラウンドは動画で見ると、泣いてしまう…。
撃ち合いで劣勢に立ってしまったジョング…。
全盛期のジョングが無敵を誇った、密着状態での撃ち合いの中、
ムアンチャイの右アッパーでふらつき、追撃の右の撃ち降ろしで後ろ向きに崩れます。
立ち上がるもののふらついてロープへ倒れ込む効きよう。
信じられないことに再開された試合…、右アッパーをもらって5秒持たずに2度目のダウン。
ここで試合が止められます。
レフリーストップ。
善戦の末の逆転KO負けと言われればそうではありますが、壮絶なKOシーンは時代の終わりを感じるもの。
この試合を最後にジョングは今度こそリングを去ります。
最強を誇った王者が無残に負けてリングを降りる…。
ボクシングの魅力を詰め込んだようなジョングのレコード。
僕がこのジョングを改めてピックアップした理由…それは戦い方の変化にあります。
離れてよし、近づいてよし…のジョングは大橋 秀行(ヨネクラ)との1戦目を境に、
典型的なコリアンファイター化していきます。
この時点での衰えを指摘する声もありますが、僕にはちょっと違うように思える。
まだまだ20代中盤ですし。
僕にはこの試合で、ジョングが大橋との撃ち合いにハマってしまったように見えるんです。
この試合以降、ジョングは大橋戦のような激闘をリングの上に求めるようになった…と、そう見えます。
大橋第2戦は夫人との離婚騒動で、関係の精算の為にファイトマネーが必要だった。
大橋陣営の出した条件が好条件だった為に飛びついた…と言われています。
また、日本開催の理由は海外防衛でマスコミを見返したかったとも。
確かにそうなんでしょう。
でも…それだけでは説明のつかない大橋第1戦からのスタイルの変化。
もしかするとその辺りから騒動が始まっており、コンディションに影響していた…かもしれません。
しかし…真実は曖昧。
熱くなれる方で語った方がいいですよね。
ジョングにとって大橋がどれほど大きな存在だったか…
それは大橋がWBC世界ミニマム級王者のチェ・ジュンファン(韓)に挑むときに送られた手紙にも見て取れます。
「チェは韓国人だが、二度も死闘を演じた君に勝って欲しい」
現在では二人は親友、訪韓、来日の度に顔を合わせているようです。
ジョングが本当に衰えを見せたのは、1年のブランクを挟んだ後。
踏み込みのスピードがわずかながらに落ち、それがジョングの生命線であった為に圧倒的な強さを失った。
クリンチ際では沈み込むようにして、膝を使ってホールドを振りほどいていたジョング。
下肢が衰えた復帰後では、クリンチ際の攻防を思うように展開できていないようにも見えます。
その為にソット戦は悲しい戦いとも言われたりしますが…。
僕にはそうは思えない。
時を経て過去の伝説となった両雄が、ドロドロの根性戦を展開する…。
お互いの全盛期では成立しなかった精神力のぶつかり合いなんですね。
そして最後のムアンチャイ戦…あとわずか1R、ポイントを獲れれば王座に返り咲ける…
そんなラウンドに喫した自身初のKO負け。
それも壮絶という言葉がふさわしい倒れ方…。
全盛期のジョングを振り返れば、とにかく引出しの多いボクサーでした。
これはジョングと対戦したウンベルト・ゴンサレスやソット・チタラダなど、
他の名選手にも言えることなんですが、自分の土俵以外にも充分に戦えるんですね。
ボクシングって相性も重要。
この時代に防衛数を稼いだ選手って、様々なスタイルと戦う必要があるので、とにかくボクシングの幅が広い。
じゃんけんで相手がグーを出したときにちゃんとパーが出せる。
たまにチョキしか出せない選手が、グーを出してる選手に圧倒的なチョキで上回る
…なんてのもあるにはあるんですけどね。
(なんのこっちゃ…)
ジョングというボクサーが凄い王者だった…。
これは大橋戦1試合見るだけでも充分わかること。
しかし彼がどれほど儚いボクサーズロードを歩いたか…。
これはレコードを辿らないと見えないことです。
たかが戦歴、されど戦歴。
ジョングという伝説を、沢山の人に知ってもらいたい。
そんなこんなでジョングのピックアップはおしまい!
また…明後日!
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