僕はラクマンを忘れない(コラム) ボクシング選手名鑑ピックアップ! 2016/02/25
この選手はこの選手より強い…。
実際に戦っていない二人が実際に戦えばどうなるか?
想像するのは実に楽しい。
注目の一戦が開催される前、ネット上ではボクシングファンたちが必死に持論を展開し勝敗予想をする。
かたやボクシング雑誌の誌面でも、様々な専門家たちが予想を書き連ねる。
元世界王者、ベテラン記者、編集長、芸能人…。
たまに、予想が圧倒的に偏ることがある。
そして、その予想が大きく裏切られることもある。
アップセットである。
ジョー小泉氏、元世界王者、ベテラン記者…
競技に深い嗜好を持つ人間でも、予想の類はアテにならないのである。
それも当然の話。
実際に予想通りであれば、実力の証明は不要である。
王者は戦わずして王者である。
予想を裏切る展開があるからこそ、強さの証明の為に、選手は戦う。
オマール・ナルバエス(亜)はもう終わった選手…。
カルロス・クアドラス(メキシコ)はたいした王者ではない…
そういったファンたちの予想が果たして当たるのかどうか…。
ボクシングというゲームはこれまで何度アップセットを繰り返し、劇的なドラマを産んできた。
アップセットに葬られたボクサーが、弱者の烙印を押されることもしばしば。
そんな時に思うのである。
負けたボクサーを弱いと見下すより先に、倒したボクサーを称えるべきでは…と。
レノックス・ルイス(英)を5RKOで破ったハシーム・ラクマン(米)をどれだけのファンが憶えているだろう。
再戦でルイスが勝利したこともあり、ラクマンのKOはルイスの大ポカと片づけられた。
忘れてはいけない。
ルイスはその当時ヘビー級最強のボクサーだった。
彼を1度でも倒したラクマンの拳は、再戦までのわずか半年とは言え、最強の拳だったはずだ。
アップセットの犠牲になるのはときに敗者だけではない。
予想を裏切られたファンが抱く…「何かの間違い」という思い。
それは時に、遥かなる強敵に挑み、勝利をもぎ取った英雄さえも犠牲にしてしまう。
僕はラクマンを忘れない、絶対に。
例えば、井上 尚弥(大橋)がダビド・カルモナ(メキシコ)との試合に敗れたとしよう。
まず一番最初にすべきことはカルモナを称えることだろう。
今はまだ、井上が勝つ姿も、カルモナが勝つ姿も、空想でしかない。
可能性が低そうな空想が現実になることもある。
それがボクシングだ。
クロスゲームが予想通りの結果をもたらさなかったとき、地元判定、買収…などと騒ぎ立てる風潮もある。
クロスゲーム…どう転んでもおかしくない試合である。
接戦になればなるほど、マイジャッジと実際のジャッジの点数がずれることはある。
採点しながら試合を見て…翌日同じ試合を見ながらもう一度採点。
何試合かやってみてもらいたい。
きっと、点数が変わることがあるはずだ。
少なくとも、僕にはよくある。
ジャッジの付ける点数は印象点である。
1Rが拮抗した展開の場合、前評判が高い選手の方にポイントが振られる可能性は圧倒的に高い。
その時の心境や見る角度によっては、変わってしまうラウンドなどいくらでもある…不安定なものなのだ。
その試合の採点に唯一無二の決まった答えがあるのなら、ジャッジは3人いらないはずである。
クロスゲームとは、二人の力の拮抗する選手たちのギリギリの戦いである。
それはどんなレベルの戦いにおいても素晴らしいもの。
ネット上が悲しい言葉で埋まるのは、見ていて辛い。
どんな視点で見るか、何を期待するか…それはファンに許された自由である。
KOを楽しむも、技術戦を楽しむも、選手のボクサーズロードを楽しむも…。
だからこそ、これは持論になってしまうのだが、僕は楽しめない試合など存在しないと思っている。
見どころは探せばいくらでも見つかるし、泥試合だって楽しめる。
KOしか面白くない、KOには魅力が無い…。
それぞれ好みはあるだろう…が、もしボクシングを見る心に余裕があるなら
少しだけ踏み込んでみてもらいたい。
自分が面白くないと思う試合を、面白いという人間がいる。
そういった人間は何を面白いと思って見ているんだろう?
だいぶ手間のかかる作業である。
KOが大好きなファンが、クリンチの頻発する泥試合を考えながら眺める…もしかしたら苦痛かもしれない。
ただし、もしそれを楽しめるようになったとしたら、見る試合全てが面白い試合になる。
これほど幸せなことはないのではないだろうか。
こう見るべき!そういったルールはない。
僕がしているのはこう見てみては?という提案だ。
何故そんな提案をするか…それは僕自身がボクシングを見ることに幸せを感じるからだ。
この思いがもし理解してもらえれば…
きっとこのブログを読んでいる人に、同じ幸せを感じてもらえるのではないか?
そういった考えからである。
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