酒井 孝之(協栄)が東京にいる(コラム) ボクシング選手名鑑ピックアップ! 2018/11/07
昨年の春、酒井 孝之(協栄)の所属は(中日本ボクシング協会)となっていた。
何らかの事情で所属ジムを失った選手が、「協会預かり」としてリングに立つ時の表記だ。
彼が所属していたのは岐阜県各務原市にあったジム。
C級からB級に昇格して最初の試合が決まり、その当日のリングに立つまでの間に…
彼の所属ジムはトラブルから閉鎖された。
地方のジムの閉鎖が与える影響は大きい。
都会と違い、近隣に別のジムはない。
この閉鎖以降、リングに上がらなくなったボクサーもいる。
隣の市にボクシングジムは存在しているが、歩いて行ける距離ではない。
毎日通う負担を考えると、各務原市に1件だけのジムが果たしていた役割は小さくないはずだ。
このジムが無ければ、プロのリングに登場しなかったボクサーもいることだろうと思う。
ボクシングという競技に触れることのなかった人たちも多くいるはずだ。
協会預かりの酒井はその日の試合に判定勝利。
ポイントとしては大差がついたが、帰り道の酒井のマブタは青紫に変色し、まさに戦った男の顔だった。
小さな女の子を抱っこしながら帰路に着く酒井を心底カッコ良く感じた。
そして、この選手の試合がまた見たいと心底願った。
しかし、そこから時間は過ぎ去っていく。
酒井がどうなったのか、知る術は無く、組まれない試合に諦めの気持ちが湧いていた。
酒井の名前を見つけたのは、刈谷でのラストマッチから1年が経とうとする頃。
所属ジムの表記が(協栄)となって、後楽園ホールでの試合が組まれている。
「東京に行ったのか!!」
驚きとともに喜びが溢れる。
気付いたのが遅く、スケジュール的にも試合には行けず。
名古屋から勝利を祈る。
酒井が勝ったことを知った時の思いもまた格別だった。
これでB級2勝…A級昇格の権利を手に入れた。
次戦は今年、5月5日の後楽園ホール。
亀田 興毅(亀田)とポンサクレック・ウォンジョンカム(タイ)が
エキシビジョンで拳を交える、注目度の高いリングの前座に立った。
残念ながら試合は6回戦。
この日、元々はホールには向かわない予定だったが、
相変わらず続くネットでの亀田家への罵倒にイラつきながら
こんな思いをするくらいなら、現地に行って楽しんでしまえばいい!と新幹線に飛び乗った。
もちろん、酒井の試合が見たい思いもそこにあった。
超満員の後楽園ホール、バルコニーも埋まってしまい観戦スペースを見つけるのに一苦労。
普段、チケットの売れる興行は避ける傾向にある自分にとって、なかなか珍しい体験。
赤コーナー側の花道の脇で隠れるようにリングを眺める。
酒井はタイ人を相手に1RKO勝ち。
久々に見る酒井の姿に胸が熱くなる。
勝利者インタビューで、泣き出す酒井。
「あぁ…よかった、酒井は頑張ってる。」
そんな安堵の思いと、これからへの期待が溢れる。
11月12日。
酒井がまた、後楽園ホールのリングに上がる。
初のA級のリング。
メインはアビガイル・メディナ(スペイン)vs亀田 和毅(協栄)のWBC世界スーパーバンタム級暫定王座決定戦。
前座にも亀田 京之介(協栄)vs溝越 斗夢(緑)と話題性の高い1戦。
酒井の試合は8回戦ながら、京之介vs溝越の一つ前の試合として組まれている。
相手は上村 優(ドリーム)。
三重県で産まれ、デビューから東京で戦い続ける選手。
1年ぶりの試合で、こちらも初のA級のリングに挑む。
3度挑んだ新人王戦では東日本新人王戦では準決勝が最高。
その後、B級トーナメントを制した後、A級昇格の権利を手にしながら、6回戦をさらに2試合追加。
いずれも敗れてしまってはいるが、直近の相手は利川 聖隆(横浜光)。
現在日本ランキングに名を連ね、11月10日には日本ライト級ユース王座に挑む選手だ。
決して順調とは言えない二人の道のり。
紆余曲折…プロボクサーのうち数割しか辿り着けないA級のリング。
諦めなかったボクサーだけが辿り着ける場所。
もちろん世界戦も楽しみ、京之介vs溝越も楽しみ。
だけどやっぱり、酒井が東京で繰り広げる第2章も楽しみ。
勝ってくれ、活躍してくれ…
自分が観戦に通う中日本のリングから離れてしまった以上、次が見れるかどうか分からない酒井の試合。
より強い思い入れと祈りで、この試合を見ることになるだろうと思う。
彼とは面識など全くない、人となりだって何も知らない。
酒井に限らず、そんなファンに応援される…有名、無名にかかわらず、そういうものだ。
自分の知らない誰かに応援されている。
きっとすべてのボクサーに、そんなファンがいる。
それが当たり前…プロなんだから。
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