香流の怪物 佐藤 康平(薬師寺)より引退のお知らせ② ボクシング選手名鑑ピックアップ! 2019/01/13
佐藤 康平(薬師寺)の引退報告に合わせてお話を伺いました。
前回の続きとなります。
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2018年、新人王トーナメントの組み合わせが発表される。
フェザー級のエントリーには、佐々木 政城(天熊丸木)、中野 元気(トコナメ)の名前。
勝ち抜く力を持ちながら、あと一歩のところに位置する二人。
そして新顔の3名…新勢力vs実力者の構図に、”誰がやってもやりにくい”佐藤が強烈なスパイスとなる。
この年のフェザー級は飛び切り面白い顔ぶれになった。
佐藤を相手にして、自分のボクシングを展開するのは難しいはず。
有望選手を食ってしまう可能性を充分に孕んでいるのが佐藤というボクサー。
1勝2敗のボクサーが、このトーナメントのキーになるように感じていた。
佐々木と中野がシードで準決勝からとなった組み合わせ。
準々決勝から登場する佐藤の相手はデビュー戦の高田 雅人(とよはし)となった。
「試合が決まったときは嬉しかったですね。
この試合が僕のベストバウトです。
網膜剥離になってからの1年間が長かったです。」
■2018年度中日本フェザー級新人王準々決勝
2018/04/01 △4R判定 1-0(39-38、38-38、38-38) 高田 雅人(とよはし)
この試合の佐藤を指して、僕は”ケンカボクシング”という言葉を使っている。
二人が密着して絡み合い、がむしゃらに手を出していった試合。
かと言って激しい撃ち合い…でもなく、洗練なんか一切されていない、ぐちゃぐちゃの泥仕合だった。
“ボクシングの技術”みたいなものを放り出し、ドロドロに絡み合いながら撃ち合った二人。
試合は佐藤から見て1-0のドロー。
優勢点が佐藤について、佐藤が準決勝へ勝ち抜けを決めた。
準決勝では中野との試合。
■2018年度中日本フェザー級新人王準決勝
2018/06/17 ●2RTKO 中野 元気(トコナメ)
タフ過ぎるほどにタフだった佐藤が初めて倒された試合。
「楽しみだったんですよね、中野とはプロテストが一緒で、
デビュー戦の日も一緒で、ずっとやりたかった相手だったんです。
1R終わった時点で、やばいな…巧いな…と。
で、2Rからスイッチ入れて行こうと思った矢先でしたね。
びっくりしました。効いてしまって。
まさか自分が倒されるなんて思ってなかったので…。
ヤバいな…とりあえず立とうと思って立ったらそこで止められました。」
―1R、少し距離をとってましたよね?
「足を使いました、警戒してたんで。
そこから自分のボクシングをしようとした矢先でした。
決勝でテル のび太(緑)とやりたかったですね。」
対抗ブロックを勝ち上がって来ていたのはテル のび太(この頃はまだ本名の嶋田 光高)。
近距離で丁寧にディフェンスをしながらもパワフルに撃ち合うブルファイター。
この新人王でデビューし、連続1RKOで佐々木をも撃破。
銀縁メガネの風貌からは想像もできないド突き合いを展開。
2018年中日本新人王の台風の目と言える存在だった。
―お互い近い距離を得意とする二人ですけど、やってたらどうなってたと思います?
「佐々木より、のび太の方がいいなと思っていたので、
のび太が勝った時はチャンスだと思いました。
実はスパーリングしたんですよ、2回。
その時は足を使ったら巧くハマりました。」
中野との試合を振り返った後、中野vsテルのび太の話題になる。
試合は壮絶な撃ち合いの中、テルが判定を制して中日本新人王を射止めた。
この試合は相手を見過ぎる癖のあった中野が、生粋のファイターであるのび太と
猛烈な撃ち合いを展開した試合。
中野に、佐藤を倒したことでついた自信があったからこそ、
あれほどの激闘があったように感じる。
新人王戦敗退となった佐藤。
その後、準々決勝で引分けた高田との再戦が組まれる。
2018/11/25 ●4RTKO 高田 雅人(とよはし)
「この試合が決まった時は気持ち的には楽でしたね。
1度試合していることもあったので。
でも、試合直前に前回倒されたトラウマ感と言うか…
負けることに対する恐怖も産まれていました。」
この試合の2R、佐藤はダウンを奪われる。
あれほどタフだった佐藤が…。
3Rには目に異変を感じる。
その後も抵抗し続けた佐藤だったが、一方的な展開に4Rストップ負け。
試合後、初めてボクシングを辞めることが頭を過ぎったという。
悩んだ末、もう一度やろうと決断、まずは病院で目の検査を受けた。
そこで、医師から「もう、辞めた方がいい」と告げられる。
「ちょうど辞めようと悩んだこともあって、
医師から告げられた瞬間に気持ちが決まりました。」
―初めての負けではないですし、前回の網膜剥離の時には辞めようとは微塵も思っていなかった。
それがこの試合で、悩んだ理由っていうのは何かあったんですか。
「ボクシング自体は嫌いじゃないですよ。まだ続けたいとも思います。
負けたことに対して色々言われたりとかもあって、それが少し…」
この辺りはだいぶ言いづらそうだった。
基本的に佐藤はマイナスなことは言わない。
だから、こういうことをとても言いづらそうにする。
ここで、少し話を変えてみる。
プロボクサーを目指した経緯について。
元々の佐藤はワルでもなければ、ボクシングオタクでもない。
TVで見た薬師寺 保栄(松田)を”カッコイイ”と思った程度の普通の青年だった。
喧嘩もしたことのない佐藤、母親は学校教師。
暮らす場所は名古屋市内でもそれなりの「いい土地」に当たる場所。
育ちの良さも感じる…ただし、勉強はからっきしだったそうだ。
佐藤の人生を変えたのは、ガールズバンド「SCANDAL」。
大ファンになった佐藤は、どうにかSCANDALにお近づきになる方法がないかを考える。
そこでひらめいたのがプロボクサーだった。
プロボクサーになって有名になれば…「SCANDAL」とスキャンダルを起こせるかもしれない。
近くのアマジム「チームゼロ」に通いはじめ、不埒な下心で過酷な練習を耐え抜き、
薬師寺ジムからプロデビューする。
ある日、僕が他のファンからこんな言葉を耳にする。
「佐藤、トランクスに住所入れてるんですよ。変わってますよね。」
確かに、佐藤のトランクスには「香流」という地名が入っている。
僕が暮らす場所から15分程の場所…。
まさかと思いながら、本人と初めて話したときに確認してみた。
すると…
「トランクスに住所入れるの、夢だったんですよね。
プロになったら、絶対入れようと思ってたんです。」
…珍しい夢だ。
“香流の怪物(カナリアンモンスター)”と囁かれる理由がなんとなく解った気がした。
このぶっ飛び加減は、なかなかのものだ。
「この前の試合、ああいう展開になったのは何か意図したことがあったんですか?」
…そんな質問をすると、ほとんどの回答は「本能です!」。
話せば話すほど、佐藤と言うボクサーの魅力に取りつかれていくように感じた。
だから、やっぱり寂しい。
「ボクシングは諦めるんですけど、SCANDALの方は諦めません!」
…そう高らかに宣言した佐藤。
SCANDALと交流のあるミュージシャンで、ランニングが好きな人物がいるらしく。
そのミュージシャンは、ランニングで自分について来られた人と友達になってくれるという。
ロードワークで鍛えた足腰をフル活用して彼と友達になり、そこを経由してSCANDALにお近づきになる…。
そんな作戦を熱く語ってくれた佐藤康平…カナリアンモンスターここにありだ。
その後は、大好きなお母さん自慢のお話。
手料理がどれ程うまいかを語ってくれた。
本当に優しくて、人柄の柔らかい青年だと感じる。
最後に、Twitterの僕のアカウントから、佐藤が引退の報告をする。
「佐藤康平です。
ボクシングを引退します。
理由は、網膜剥離再発の危険せいがあり、医者からはボクシングをやらない方がいいと言われました。
11月の試合に負けてもう一回やろうか、引退しようかと考えていた時に医者から言われました。
その時点で気持ちはハッキリしました。
今日せきちゃんライブで言おうとしましたが、twitterの調子が悪く言えませんでした。
今まで僕に関わってくれた人ありがとうございました。」
寂しがる僕に対し、引退の悲壮感もなく、すこぶる明るく話してくれた佐藤。
本当に本当に優しい人間だった。
店を出る直前、ポロリと漏らす。
「もうジムに行かなくていいので、楽ですね。
ボクシングはつらかったです。
好きだから、本当はまだやりたいですけど。」
4回戦で消えていく多くのボクサーたち。
そして次々と登場する新しいボクサーたち。
だけど、誰一人として代わりになるボクサーはいない。
僕は佐藤康平というボクサーを知っている。
それが、ファンとしてとても誇れることに思える。
誰よりも才能に欠落し、誰よりも相手にしがみついた。
6戦1勝(1KO)4敗1分。
佐藤康平と戦うと皆、道連れ式にカッコ悪くなる。
そんなボクシング。
必死に相手にしがみつく、カッコ悪い佐藤康平がとにかくカッコ良かった。
本当にお疲れさまでした。
彼の夢、SCANDALへのお近づきがどうか、叶いますように。
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