香流の怪物 佐藤 康平(薬師寺)より引退のお知らせ① ボクシング選手名鑑ピックアップ! 2019/01/11

香流の怪物 佐藤 康平(薬師寺)より引退のお知らせ① ボクシング選手名鑑ピックアップ! 2019/01/11
 
 

「引退します」
 

刈谷あいおいホールでの観戦中、隣にいた佐藤 康平(薬師寺)が呟いた。
観戦記を書く為に、目の前の試合の内容をボイスレコーダーに吹き込んでいる最中。
うまく反応できない。
 

佐藤が静かに続ける。
「もう、目がダメです。」
 

言葉が出ない。
飛び切り打たれ強かった佐藤に対して、見る側としては“壊れる”ことに対する怖さがあった。
だから素直にその気持ちを伝える。

「目が先でよかったと思います。お疲れ様でした。」
 
 

その後、色々言葉を交わした後…。
「今度ご飯でも行きましょう、ゆっくりお話を聞かせてください。」

その日はそうして別れた。
 
 

後日、交換したLINEでメッセージが届く。
「もう、会長にも伝えたので、引退のこと言っていいですよ。」
 

佐藤本人はSNSなどをやっておらず、発信する媒体を持っていないという。
できれば、本人の口から伝えて欲しい…そんな思いで、
「せきちゃんライブで伝えてくれませんか?」と持ち掛ける。

“せきちゃんライブ”とは、たまに僕がどうでもいい話を垂れ流しているTwitterライブだ。
動画配信サービスだが、画像は固定で声だけ流している。
 

僕が佐藤、佐藤と騒いだせいか、遠方のファンでも佐藤を気にしてくれるファンがいる。
やはり、節目の報告は本人の口から伝えて欲しい。
一緒に食べる約束だったご飯の日、その時間を少し伸ばして動画を配信する算段。
 

お互いに少し遅れて、約束の飲食店に到着。
佐藤の家の近所に、自分が昔よく通ったお店があり、この日はそこで集合。

大盛りの飯を平らげ、少し話をした後、いよいよ配信開始。
…しかし、設定が悪いのか、ソフトウェアの不具合か、音声が出ていないようだ。
一時間ほど四苦八苦するも改善せず、この日は配信を諦める。
 

「後日、僕のブログで今日の話を掲載させてください」

そう約束して話をしてもらった。
 

————————–
 

2016/12/04
戦績:2戦2敗

福島 貴広(HEIWA)との対戦。
 

僕が初めて佐藤を見たのはこの日だった。
 

フェザー級にしては大きな体格、相手が一回り小さく見える。
体格差を利用して相手を抑え込んで行き、試合はもみくちゃに…。
雁字搦めの福島…綺麗なボクシングはさせてもらえない。

3R、クロスを撃ち込まれ揺らされた佐藤だったが、福島の抵抗もここまで。
このラウンドのレフリーストップで佐藤は初勝利を手に入れた。
 
 

撃ち合い、倒したい…
「いい試合」がどういうものか分からないけれど、そういう試合をする選手が多い。
倒すことに拘る選手もいる。

佐藤は、そういう選手には見えなかった。
とにかく…下手糞で格好の良くないボクサーだった。

相手にしがみつき、抑え込んで相手の自由を奪い、
腕が伸び切らない近い距離で、「グリグリ」っと勢いのないストレートを撃ち込んだりする。

カッコをつけずに、ただ目の前の相手に勝つ為に、必死に相手にしがみついていた。
その姿は、僕の目にはとても純粋に映った。
 
 

―こんなこと言ったら申し訳ないですけど…誰よりも面白くない試合をしてたと思うんですよ。

そんな失礼な言葉に…笑顔で答える佐藤。
「それ皆に言われます。」
 
 
 

「デビュー戦は倒しに行ったんですよ、カッコつけて。…で、結局ガス欠で。」

2016/03/27 ●4R判定 0-2(37-39、37-39、38-38) 横山 栄光(岐阜ヨコゼキ)
 

「藤本 翔平(中日)さんにスパーリングしてもらっていて、
 格上の選手と何度も何度もスパーリングしたことで自信がついて…。
 だから、デビュー戦は楽しみで楽しみで仕方なかったですね。
 1Rで倒しに行って、獲ったと思ったんですけど、2~4はもう…。」
 
 

「逆に2戦目はやる前から怖かったですね。
 相手が蟹江ジムって時点で強いイメージがあるし、
 デビュー戦でも松田ジムの選手に勝っていたので…」

2016/07/24 ●4R判定 0-3(36-40、36-40、37-39) 高瀬 衆斗(蟹江)
 

2017年、全日本新人王決定戦まで駆け上がり、日本ランカーまであと1勝に手をかけた選手である。
この日の数日前に、高瀬も引退を表明していた。

―実際戦ってみてどうでしたか?

「一番強かったです。2R目くらいでこれは倒されないなとは感じましたけど、
 でも、自分のやりたいことはさせてもらえなかったです。
 高瀬は完敗した試合でも悪い試合はしないですよね、
 安定していて強いボクサーだと感じました。でも…」
 

少し悔しそうな表情をチラリと見せながら佐藤が続ける。

「あの当時なら、ビビりすぎてなければ、勝てる可能性もあったと思います。
 最悪でもドローには持ち込めたんじゃないかと思います。」
 

―もう叶わない空想の話ですけど、もし今、4回戦でやるとなったらどうですか?

「やりたいです!カモられると思いますけど。」

この辺りはやはり、ボクサーの血が流れているんだろうと感じる。
 
 

3戦目、初勝利を挙げた…僕が佐藤を見つけた試合。

2016/12/04 ○3RTKO 福島 貴広(HEIWA)
 

この試合辺りから、突如、減量が苦しくなったという。
「この試合は、もう命かけましたね。東京から友達が見に来てくれて。
 勝たなきゃダメだと思ってたから、勝って喜ぶのもなかったですね。」

プロボクサー人生、唯一の勝利。
さぞ嬉しかっただろうと思いきや、佐藤は勝利の喜びは未体験ということになる。

その試合後から突然、視界が狭まり始めたという。
試合の三日後、下った診断は網膜剥離。
飛蚊症もないまま突然だった。
初勝利と引き換えに、ボクサー生命を脅かす怪我を負うこととなる。

この時、ボクシングを辞める選択肢は全くなく、治療を進め、
動くことに対して医者の了承が出るとすぐさまジムに通い始めた。
 

初勝利から約1年、11月の試合に向けて準備してきたが、そこで復帰はできず。
2018年の新人王に向けて準備することとなる。
 

この年の新人王、激戦区となったフェザー級。
わずか1勝の佐藤は、トーナメントの中でキーとなる存在感を放つこととなる。

その辺り…また次回。
 
 
 

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