畑上 昌輝(長崎ハヤシダ) 【ボクシング選手名鑑生配信表彰 ベストインパクト賞】(選手紹介) ボクシング選手名鑑ピックアップ! 2022/03/07

畑上 昌輝(長崎ハヤシダ) 【ボクシング選手名鑑生配信表彰 ベストインパクト賞】(選手紹介) ボクシング選手名鑑ピックアップ! 2022/03/07

 

まだ会場には関係者しかいない時間帯。
いかつそうな髪の毛の真っ青な男が、
その見てくれとは裏腹に丁寧に丁寧に紐を括りつける。

畑上 昌輝(長崎ハヤシダ)
この日のメインイベンター本人が、自分の横断幕を括りつけていた。

 

対戦相手の丸木 凌介(天熊丸木)とは2012年新人王トーナメントの同期。
決勝で1P差2名の0-2で敗退した畑上に対し、
丸木は全日本新人王決定戦まで勝ち上がっていた。

のちに中日本中量級の中心選手となる丸木は翌年3連勝。
順調にA級へと昇格し、A級初戦のリングも華々しく1RKOを飾っていた。

畑上はB級での初戦を落としたものの、2戦目で5RTKO勝利。
A級昇格まであと1勝と迫った。
しかし、ここで彼のキャリアはいったん停止する。
ここから約6年、彼の戦績に新たな行が追加されることはなかった。


2019年、ようやく畑上のキャリアが再開される。

「ボクシングは麻薬」

一度辞めた選手が戻って来るのはよくある話。
ただし、その多くの選手が葛藤を乗り越えてリングに舞い戻る。

プロとしてリングに上がる為に積み重ねたものを一旦捨て去る決断。
自分の多くを捧げたものを失った苦悩。
そして、もう一度立ち上がる覚悟。

「よくある話」は、決して小さくない何かを乗り越えてのもの。
彼もきっとそういった何かを乗り越えた上でリングに戻って来たに違いない。
何か思いを込めるようにも見える、横断幕の紐をくくりつける後ろ姿に、そんな印象を勝手に抱く。


6年の歳月を越えて迎えた復帰戦は4回戦でドロー。
相手の相徳 恒彦(橋口)はその1年後、刈谷あいおいホールのリングで丸木に敗北。
37歳のボクサー定年により、その試合が最後の試合となっている。

選手数の多くないスーパーウェルター級。
ありとあらゆるところで因縁が絡み合うのもこの辺りの階級の面白みだ。

畑上は3ヶ月後の次戦で6回戦のリングに上がって勝利。
これでA級昇格となった。

過去、潰えた道をその拳で取り返し、刈谷あいおいホールに乗り込んで来た格好だ。


初めて西部日本を離れてのリング。
初めてのランカー挑戦。
8年ぶりのメインイベンター。

遠く離れた場所での戦い、応援の数も多くないリングイン。
一挙手一投足から、覚悟か決意か、迫力じみたものがにじみ出る。

ゴングが鳴ると、そこには日本上位ランカーを相手に攻めに攻め立てる畑上がいた。
自らのすべてをぶつけるように、我らがメインイベンター、丸木に襲い掛かる。
時折強烈にボディをえぐられ動きを止められる。
効いていないハズがない…しかし、その攻めは止まらない。

前半のポイントを根こそぎ奪い取り、3RにはあわやTKOかを思わせる場面も。
ストップもあり得るか…まさか、丸木が…。
レフリーの動きを気に掛ける時間帯も出て来る。

4Rも畑上が攻勢。
このラウンドを奪われれば、ダウンがない限り、判定での丸木の勝ちはなくなる。


後楽園ホールでいい試合をすれば、そこに待ち構える玄人ファンの話題に上がる。
昨今、SNSやWeb上でその雄姿が拡散され、一気に知名度が上がる。
しかし、地方ではまだまだその拡散力は弱い。
特に西部にはまだ見ぬ魅力的なボクサー達が多く潜んでいる。
この日、試合前から畑上というボクサーを認知していたファンがどれだけいただろうか。

誰も知らない…突如現れた勇敢なボクサーに、会場の空気も変わり始める。
特に丸木に思い入れのない観客にとって、主役は畑上になっていただろうと感じる。


そんな中、試合の終了は突如として訪れた。
これまでの大勢とは逆の形で。

前のラウンドのインターバル、兄でもある天熊丸木ジム会長、丸木 和也(天熊丸木)から
「フックを下目に」とアドバイスを受けた丸木。
そのフックが炸裂し、完全に意識を飛ばされた畑上はまさに糸が切れたようにダウン。
試合はそのままストップされた。

たった一瞬で、全てが吹き飛ぶ…大逆転の衝撃的KOシーン。
ボクシング選手名鑑生配信表彰のKO賞にも選出された場面だ。


幸い、自分の足で立ち上がった畑上。
激戦への余韻が会場を包む中、淡々と挨拶し、リングを後にする。
これまで剥き出しだった感情が、どこかへ飛んで行ってしまったかのよう。
ほんの数分前まで、熱気溢れる戦いを繰り広げていた人物とはまるで別人のようだった。

 

観客が退場し、選手たちも引き上げていく刈谷あいおいホール前。
日本ランカーまであと一歩と迫った畑上は笑顔だった。
全てを出し切ったのだろうか…だとしたら、それもいい結末だった。
そう感じた次の瞬間だった。

丸木の顔を見つけた畑上が、満面の笑顔で叫ぶ。


「勝ちたかった!!!」


悔しくないハズがない、気持ちが晴れるハズがない。
そんなものを全て押し込んだような笑顔でぶつけたその台詞。
丸木もまた、それを理解したかのように笑顔で受け止めていた。

端的に見れば、スポーツマン同士の爽快なやり取り。
その背景にある感情を慮れば、複雑すぎる程に難解で胸を打つ。
「拳友」という言葉の爽快さと複雑さを突然認識させられる。
ボクシングがこれ程、魅力的に思える場面にはそうそう出会えない。


ボクシング選手名鑑で生配信を行った試合のうち、
中日本地区外から、中日本のリングに乗り込んで来た選手の中で
最も印象に残った選手へと贈られるベストインパクト賞。

今年は中日本・西部日本対抗戦もあった為、多くの選手が候補となる中、
最多得票は、敗者とはなったものの、日本上位ランカーをあと一歩まで追い詰めた畑上。
その試合を見た、多くのファンが、勝ち負けではなく、
彼の雄姿を脳裏に刻んだ結果だと思っている。

 

なお、実はこの投票結果が出る前に、既に畑上の刈谷あいおいホールへの再登場が決まっている。
次の相手は全日本新人王、能嶋 宏弥(薬師寺)だ。
日本ウェルター級13位、この地区の中量級では現時点、丸木の次に位置する選手。

畑上をもう一度見たい、もう一度見せたい…。
それがあってこそのマッチメイク。
関係者にもファンにも、畑上の雄姿はしっかりと認知された。

3/20、この試合もボクシング選手名鑑では生配信予定。
彼の雄姿を、また配信として多くのファンに届けられることに、
どこか誇らしい思いを感じている。

3/20 配信予定
SPLENDID BOXING

 

 

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