因果応報 矢吹 正道(緑)② ボクシング選手名鑑ピックアップ! 2020/03/27
キューバのトップアマに敗れ、またも世界ランキングに入ることの叶わなかった矢吹 正道(緑)。
再起戦を敵地韓国で勝利すると、
日本上位ランカーだった大保 龍斗(横浜さくら)との対戦が組まれる。
老舗緑ジム、意地のマッチメイクでまたも矢吹にビッグチャンスを与える。
この試合は相手の怪我で一旦は流れかけるも、延期の上で開催。
インターバル中にコーナーで右が折れたことを報告した矢吹に対し、
「じゃあ左でやれ。」と軽く返した松尾会長。
指示通り、左手一本でTKOに持ち込んだ。
勝負所に弱いと言われた男が、この勝負所で数々のトラブルを乗り越えて結果を残す。
その強さを知らしめ、いきなり日本ランキング上位に入ると最強挑戦者決定戦に…。
強さの響いていたホープ、芝 力人(RK蒲田)を何度も倒しての圧倒劇で4RTKO。
右に不安が残る中、ほぼ片手での超人技で日本タイトル挑戦権を手に入れた。
今年3月、挑戦予定だった日本タイトルマッチはコロナウイルス流行の影響で延期を重ねている。
現在、5月6日にセットされているものの、コロナ肺炎は
世界的な流行を見せ、未だ予断は許さない状況だ。
本来であれば、もっともっと若くして高みに登っていてもおかしくなかったボクサー。
プロとしてリングに上がるその前から、矢吹のキャリアは紆余曲折だ。
待つことには慣れているはず。
思うようにいかないことの連続を、
その強さで切り開いて来た男が矢吹である。
彼がもし、順風満帆な道のりを歩いていたなら、
既に世界タイトルマッチの舞台に上がっていてもおかしくなかっただろうと思う。
それがなぜ、デビューから4年かかってこの位置なのか…。
ここまで、運に恵まれない部分が多かったと言われれば、それはそうなのかもしれない。
ただ…僕自身はそれだけではないように思っている。
初めて矢吹と会話したのは、移籍先で悩んでいる時だった。
僕は「東京に行って欲しい」と伝えた。
ヒト、モノ、カネ…すべてが不足すると言われる地方ボクシング。
“勝負するなら東京”は地方ボクシングが好きで好きで仕方のない自分から見ても、
今時点では現実と言わざる得ないと感じている。
しかし、矢吹は名古屋の老舗、緑ジムを移籍先に選んだ。
「こっちで応援してくれる人がいるから。」
緑ジムを選んだから遠回りしたわけではない。
緑ジムは矢吹のその思いに全力で答えるように、世界二階級制覇王者の
戸高 秀樹(緑)を見ていた加藤 博昭トレーナーを呼び戻し、
マッチメイクでは矢吹にチャンスを与え続けた。
移籍前、トレーナーがいない時間には、自分の練習時間を削って後輩のミットを持ち
自身の試合が近い時期でもセコンドに入るなどしていた矢吹。
彼の選択には「応援してくれる人の為」「後輩の為」…自分以外の誰かの為の選択が多くあるように思う。
あくまでも遠因ではあるが、”そんな男”だからこそ、多くの遠回りを重ね
その実力に比べて、登っていくのに時間がかかっているようにも見える。
ただし反面、”そんな男”だからこそ、多くの人を夢中にさせている。
チャンピオンとは何なのか…そんなことを考えるとき、
その背中が、これほどその肩書に相応しい男がいるだろうかと感じてしまう。
スパーリングパートナーが不足すると言われる地方ボクシング。
近い階級の選手では相手がいない状況だが、4つも5つも階級上の選手を相手にするなどして補い
他ジムの4回戦の選手とも手加減しながらではあるものの、頻繁に拳を合わせている。
そうやって矢吹と手を合わせた数々の選手が、彼に尊敬を抱く。
矢吹の東京の試合には、本人には内緒で隠れて観戦に駆け付ける
“隠れ矢吹ファン”のような選手さえいる。
強さだけではない。
背負えるものの全てを背負い、憧れと尊敬を膨らませ続けながら
「修羅の道」とも言われたボクサーズロードを歩いて来た男。
順風満帆な道のりでは決して得られなかったドラマを纏って
伝統の日本タイトルマッチのリングに向かう。
彼のトランクスには、3年前に事故で逝去した4回戦ボクサー、荒川 高志(緑)と
今年3月初旬に急逝した田中 蓮志(トコナメ)の名前が刻まれる。
田中の訃報を聞き、矢吹は即、田中の名をトランクスに入れることを決めた。
時を同じくして訃報を聞いた自分が、しばらく泣いてばかりいたのとは対照的だ。
矢吹のその姿に、どれだけ救われたことだろうか。
「自分は自分にできることをしよう。」
そんな思いにさせてくれたのは、間違いなく矢吹の姿だった。
また、矢吹は大きな思いを背負う。
自分が今、数々の選手たちの憧れになっていることもきっと解っている。
自分の勝利がどれだけの人間に喜びを与えるかもきっと解っている。
背負えるものを全て背負い、高みを睨む。
因果応報…いつか矢吹がこの言葉を使っていた。
悪いことを指すときに使われることが多い言葉ではあるが、
この言葉には、「良いことをすれば良いことが返って来る」という意味もある。
関わる人々に様々なものを与えながら進んできた道のり。
もし、矢吹が窮地に陥れば、矢吹に何かを与えられた人々がきっと彼の背中を支える。
“声援が力になる”…それが本当なら、
もうこれ以上、矢吹に遠回りはさせない。
俺たちのヒーローが、チャンピオンになる日が、着々と迫っている。
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