世界戦線後退 ドワイト・ムハマド・カウイ(米)⑯ ボクシング選手名鑑ピックアップ! 2016/08/15
ドワイト・ムハマド・カウイ(米)、16日目。
前回はイベンダー・ホリフィールド(米)への世界再挑戦へ失敗したカウイが
ヘビー級に上げてジョージ・フォアマン(米)に完敗したところまで。
これで2連敗となってしまったカウイ…。
しかしそれでもあきらめることなくクルーザー級に戻して再起。
のちにIBC世界ヘビー級王座に挑戦するオリアン・アレクサンダー(米)、
のちのWBO世界クルーザー級王者タイロン・ブーズ(米)に連勝を飾ると、
WBC米大陸クルーザー級王座決定戦に出場。
相手は1年半前にNABF北米クルーザー級王座に挑戦しているアンドレ・マッコール(米)。
この試合を圧倒的な判定で飾り、初の地域タイトルを獲得。
ノンタイトル戦を1戦はさんだところで、またチャンスが訪れます。
タオヒク・バルボリ(仏)が王座を返上したために空位となったWBA世界クルーザー級王座。
これを争ってロバート・ダニエルズ(米)と対戦…
この試合、カウイはひどく衰えていた…と言われます。
階級を一度上げた選手が、振りまわすようになってしまい、輝きを失ってしまう…。
そんなよくあるパターン。
ロイ・ジョーンズJr(米)や、ノニト・ドネア(比)もそんな選手に数えられる。
現在、未だ世界王座を保持するドネアですが…振りまわす悪癖を身につけてしまい、
かつての圧倒的さは失われた…と言われることもあります。
タフネスに秀でた上の階級で戦ったことで、カウイもそういった悪癖を体に刻んでしまう。
どちらのホームでもない第3国、フランスで行われた試合。
スプリット(1-2)の判定で返り咲きならず…。
再起戦にはマイク・ハンター(米)を迎えてWBC米大陸クルーザー級王座の防衛戦。
ハンターはこの時期、のちのWBC世界ヘビー級王者、
オリバー・マッコール(米)に勝利して以降4連勝と波に乗っていた時期。
ハンター自身もUSBAヘビー級王座も獲得することとなる強者。
薬物で身を滅ぼしてしまいましたが、そうでなければ世界王者になっていたであろう選手。
序盤から撃ち合いに来るハンター。
力を込めて振るうことに主眼を置き、技術豊かなジャブが消え伏せたカウイ。
ボディワークは健在で、近距離でハンターの強打をかわしながら撃ち合う。
強烈なカウンターを合わせ、健在っぷりを示していく…。
しかし、中盤以降、ハンターが距離を置こうとすると…。
伸びるジャブを撃たないカウイは、ただひたすらにハンターを追いかけ、
飛び込んでの強打を狙うばかり…。
ジャブの名手とさえ呼ばれたカウイの姿はそこにはなく…。
時折強烈なフックがハンターを捉えても、ハンターは後続打を許さない。
一撃で切って落とすタイプではない、カウイ。
その後延々と捌かれ続ける展開。
この試合…カウイは0-3の大差判定で落とし…まさかの連敗…。
1年のブランクを作ってしまいます。
これで終わりかと思いきや…再起を果たしたカウイは怒涛の4連勝。
ウエストバージニア州クルーザー級王者のバート・グラブリー(米)
WBCインターナショナルクルーザー級王座に挑戦経験のあるトミー・リチャードソン(米)
USBA全米ライトヘビー級王座に挑戦経験のあるジェームズ・サレルノ(米)
過去に2度世界挑戦の経験があるエディ・テイラー(米)
このうち3つが前半KO…衰えを指摘されながらも、まだまだ世界戦線で戦えることを証明していきます。
そして再起から半年、WBC米大陸クルーザー級王座決定戦のチャンスを手に入れます。
地域タイトル返り咲きを狙っての試合、相手はリッキー・パーキー(米)。
元IBF世界クルーザー級王者で、ホリフィールドとの王座統一戦に敗れて陥落。
その後、アパルトヘイトに対するボクシング界の政策で、
南アフリカで試合をした選手からランキングを剥奪する…というかなり厳しいルールが施行。
その犠牲となってしまった選手の一人。
しかし、直近の試合ではマイナータイトルながら、WBF世界クルーザー級王座を獲得している選手。
そんなパーキーを8Rでギブアップさせて、WBC米大陸クルーザー級王座を獲得。
次戦ではノンタイトル戦。
元バージニア州クルーザー級王者のリック・ラインハート(米)を1Rで粉砕。
徐々にランキングを上げてくると、のちにIBF世界クルーザー級王座を獲得するアーサー・ウィリアムズ(米)と対戦。
なんとこの試合、不覚の判定負けを喫ししてしまいます。
このとき、既に39歳となっていたカウイ。
間をおかずにすぐに再起…
この試合の直後にカナダヘビー級王座を獲得するデイブ・フィドラー(カナダ)に2RTKO勝利。
さあここからキャリアの作り直し…というところで…
のちにWBA世界クルーザー級王座を4度防衛するネイト・ミラー(米)に判定負け…。
世界戦線から大きく後退し、もうすぐ40歳。
ようやく踏ん切りがついたか…カウイはこの試合を持って引退。
グローブを壁に吊るしました。
しかし、それから4年半後、驚きの復帰戦を無名選手と2試合行い2連勝。
復帰しての世界戦線浮上には懐疑的な目が向けられる中、
3戦目でトニー・ラロサ(米)…マイナー王座のさらに地域タイトル…
IBOインターコンチネンタル王座の獲得経験しかない選手に8R判定負け…。
このチャレンジはわずか半年で幕を閉じ、本当にキャリアを終えます。
その後はしばらくトレーナーとして活躍した後、ドラッグやアルコール中毒者のリハビリセンターで働いているカウイ。
武装強盗から世界王者になりあがった、身長の低い大柄な男は…
罪を犯しながらも苦しむ人々に寄り添う仕事を選んだようです。
世界戦戦績:9戦5勝(5KO)4敗
ホリフィールドに敗れてから12年間、世界王座に届くことはなくとも戦い続けたカウイ。
世界戦戦績だけ見ればパッとしないものの…
2004年には国際ボクシング名誉の殿堂入りを果たしています。
彼が王者だった期間はトータルでもわずか3年弱。
僕にはこの数字が、わずかな数字にどれだけのインパクトを濃縮させたかが分かる数字に思えて仕方ありません。
ライトヘビー級では無類の強さを誇ったカウイ。
人々にはクルーザー級の名王者と刻まれています。
クルーザー級での世界戦戦績は2勝3敗。
マイケル・スピンクス(米)を圧倒的に葬った試合。
ホリフィールドとの超ハードな打撃戦で敗れた試合…。
もしかすると、カウイを思い出すとき、人々の頭に浮かぶのは、この2試合かもしれません。
たった2試合だけで、歴史に名を刻んだ…。
個人的にはカウイの魅力をより強く感じるのはライトヘビー級時代で、
ジョニー・デイビス(米)とのライバル関係、エディ・デイビス(米)との大激戦。
二人のデイビスは本当に強い相手で、そして魅力的。
これまでずっと撃ち合いを回避されてきたカウイに、真っ向からの撃ち合いを挑んだエディ。
キャリアの中で、下がらずに足を使わずに撃ち合ったのは、ジョージ・フォアマン(米)とエディくらい。
世界を獲れずに無名選手とはなってしまいましたが…
彼が演じた世界タイトルマッチは、その舞台にふさわしいものでした。
そして超人気王者のマシュー・サアド・ムハマド(米)への圧勝…。
なにはともあれ、今回も長くなりましたが、階級の壁を破壊したマニー・パッキアオ(比)やマイケル・スピンクス、
ロイ・ジョーンズなんかを思い浮かべるとき…
フレームの壁を破壊したドワイト・ムハマド・カウイの姿がもしセットで浮かんでくれるようなら
なんだか嬉しいな…なんて思います。
ときには汚い戦いを犯しながらも勝利に対して執着し、自分より大きな相手を打倒して言った名選手。
そんな彼は、逆説的になりますが…
「歴史に名を残すには、勝ち続けなければいけないわけではない」ということを証明したようにも思います。
激戦を生み出していけば…名前は付いてくる。
しかしそれは、勝利に執着したからこそ…だとも思えるんですけどね。
つまりは、必死に勝ちに行った試合なら「負けにへこたれるな」ってことです。
今を戦うボクサーが、彼から学ぶことはたくさんあると感じるのです。
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