米国進出の門番(コラム) ボクシング選手名鑑ピックアップ! 2016/01/15

米国進出の門番(コラム) ボクシング選手名鑑ピックアップ! 2016/01/15
 
  

経済大国である日本。
不景気が続き、弱体化したその経済も、未だに世界の上位に位置することには変わりない。
円は基軸通貨としてアジアの経済の中心となり、
中国の不安定な超規模経済に対抗する安定性を保っている。
 

経済大国であるが故に、アジアの東側において、為替レートでは円の価値は依然高く、
東南アジアでは円を稼ぐことが様々なステータスになる。

それはボクシングにおいても同じことである。
東南アジアの選手たちは、いかに日本の選手と日本で戦うかを考える選手が何人も存在し、
その為に自分に見合った商品価値を手に入れようとする選手もいる。

そして日本のリングに立つことを叶えた選手は、
自国のリングとは比べ物にならないファイトマネーを手に入れる。
 

国内で行われる分不相応な戦いでも、ときにはOPBFランカーと…ときには世界ランカーと…。
圧倒的に不利な戦いであれ、一度でもアップセットを収めれば、
手に入れたランキングを出汁に日本で試合ができる。

または、運とコネクションで自分より圧倒的に強い選手と日本のリングで対峙することもある。
 

南米でも欧州でも同じような構造が出来上がっている。
南米選手にとっての米国、ロシア圏や中東にとって、ドイツや英国のリングに立つことは
東南アジアの選手が日本のリングに立つことと同じことを意味する。

その中でも米国はケタが違う。
ファイトマネーの違いから考察すれば、ボクシングは米国のスポーツと言っても過言ではない。
そして米国の生み出すビッグマネーに群がるように
南米のボクシングの裾野は広大に広がっている。
 

ボクシング史を振り返れば、その中心を彩るのは、
重量級では米国選手と欧州選手、中量級では米国選手と南米選手、
軽量級ではアジア選手と南米選手という図式に行きあたる。

人種による骨格の差、その国々が作り上げたボクシング文化の差…そのあたりが相まって、
他の様々なスポーツがグローバル化する中、ボクシングは未だにこの図式を描いている。
もちろん時折現れる、特別な才能による例外を除いての話ではあるが…。
 

近年、世界的な人気を獲得したマニー・パッキアオ(比)
ボクシングにあまり興味のない人が、彼の偉大さを果たして説明できるだろうか?
差別と戦い、信仰の自由と戦ったモハメド・アリ(米)
偉大さなら説明できる人は沢山いるだろうが…。
 
 

パッキアオについて。
軽量級から中量級に階級をまたがって
世界を制覇したという超人的な部分ももちろん偉大ではある。
彼の単純な強さも、また偉大ではある、
ただし、何が最も偉大かと言えば、先に述べた図式…
いわばボクシングの歴史を覆したことと言って間違いない。

アジアの選手が中量級の世界王座を獲得する…珍しくはあるが、これまでもあったこと。
彼は中量級の名だたるボクサーの中心となり、
彼の動向次第で誰と誰がタイトルを争うのか…が決まっていった。
中量級にこれほどの影響を与えた選手は、ロベルト・デュラン(パナマ)
トーマス・ハーンズ(米)…等、長い歴史の中には何人も存在するが、
いずれも米大陸の選手たちであった。
 

フィリピンは東南アジアの国である。
数年前までは沢山の選手がジャパンマネー目当てに日本のリングに立っていた。
それがどうだろう、今フィリピンの有望選手が向かうのは東京ではなく、メキシコシティだ。

メキシコの為替レートはそれほど高くなく、日本に比べてたいした金にはならない。
それでも…である。
 

パッキアオが世界的人気を獲得した理由のひとつに、
彼がいた階級に多くのメキシカンがいたという幸運が挙げられる。
彼はレコードを進めるうちに、多くのメキシカンをリングに葬り、
いつしかメキシカンキラーと呼ばれるようになっていった。
 
 

米国のカリフォルニア州は、白人よりもヒスパニックが多い州だ。
ヒスパニックとは、“スペイン語を操る人”の意味。
つまり南米にルーツを持つ人々のことである。

米国のヒスパニック達は、自らのルーツである南米のボクサーたちの動向に敏感だ。
そこで突如として現れた憎きメキシカンキラー。
彼が米国のリングに登場するのは必然の流れだった。

そこで見せたパッキアオのセンセーショナルな戦いは、
米国のボクシングファンを味方に付けた。
パッキアオと戦えば金になる、歴史に名を刻める、最高の栄誉が手に入る…。
動機は様々だったが、数々の強敵が彼との戦いを望んだ。
 
 

それを次々に沈めたパッキアオは、フィリピンの英雄から、アジアの英雄へ…
そして全世界のパッキアオファンの英雄へと昇華していった。
 
 
 

彼が米国のリングで叩きだしたビッグマネーは、
日本国内で幾度となく世界王座を防衛した王者達も敵わないほど。
世界戦を100試合やってもきっと届かないであろう天文学的数字である。
 

米国のリングは手に入る金額も、名誉も、地位も…規格外だ。
 

彼の功績は日本のトップボクサーたちにも強く米国を意識させることとなった。
数々の日本人世界王者がラスベガスの名を口に出す。
そして、そこで必ずと言っていいほど出くわすのが、メキシカンである。
 
 

米ドルの価値は円よりも高い。
米国人ボクサーが、金の為に日本まで来て試合をすることはまずない。
金なら米国のリングで事足りる。
何より市場規模が全く違う。

日本のプロモーターが破格のファイトマネーを積めば別の話ではあるが…
そうそう毎回金を積むにも限度がある。

そんなことをせずともいい標的がいる。
南米選手、特にメキシカンである。

まだまだ南米であれば円の価値を利用することができる。
何より、パッキアオがメキシカンを切り口に米国へ進出していった実績がある。
そして、選手層がとにかく厚く、倒しても倒しても、湯水のごとく実力者が沸いて出てくる。
 

彼らは彼らで、米国進出を夢見るアジア選手を、その入り口から引きずり出すには充分な実力を備えている。
リングの中心に立てる人数には限りがあるのである。

自分達が主戦場としてきたリングに、アジア勢が雪崩れ込もうものなら、
おいしいリングに立つ確率をアジアの面々と分けあうことになってしまう。

そういった意味でも、そこには熾烈な争いが存在し、
今後、アジア勢と南米勢の戦いはますます面白みを増しそうである。
 

アジア勢がメキシカンを標的にする現在の状況は、メキシカンにとっても、歓迎される。
ランキング15位以内に入れば、アジア人の世界王者はメキシカンを優先して挑戦者に迎える。
チャンスの数が圧倒的に増えたのだ。
 

さらに他にもメキシカンが重宝される理由がある。
それは、アジアほど地元開催にこだわらないボクシング文化にある。
地元判定、リング外の妨害など、アウェイの地が不利な戦いをもたらすことは百も承知。

彼らはそれでも臆することなく、全世界を飛びまわり、熱戦を演出している。
一つでも多くのチャンスを手に入れるべく…。
 

これまで国内に閉じこもっていた日本人選手たち。
IBF、WBOのベルトが認可され、世界が広がった今、格段にチャンスの数は増えた。

ただし経済的にメキシコが先進国の仲間入りをしようとしている現在、
もしかすると、自国に来てもらう日本と、世界に飛び出してチャンスを得るメキシコ。
この立場が近いうちに逆転する可能性も考えられる。
 

そうなれば、海外で戦う文化のない日本ボクシングがしばらくの間、
苦戦続きになることは想像に難くない。
過去に比べれば、海外での試合に臨む選手が増えたとはいえ、
まだまだスタンダードとは程遠い現在。

対策を立てるには、痛い目を見るのが一番である。
もしかすると、日本人ボクサーが目指すべきはラスベガスより先に、
南米やタイ、フィリピンなど…
地元判定やアウェイの境遇に立たされる場所なのかもしれない。
 

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…なんて、今日は気取った文章。
書けてますかね?

たまにはこういうのもアリってことで…。
 
 

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