北陸の原石 英 洸貴(カシミ) ボクシング選手名鑑ピックアップ! 2018/09/13

北陸の原石 英 洸貴(カシミ) ボクシング選手名鑑ピックアップ! 2018/09/13
 
 

 

今年の中日本新人王、U-15を3度制した肩書をひっさげて
名古屋のリングに登場した英 洸貴(カシミ)

準決勝の対角コーナーには溝越 斗夢(緑)
デビュー戦でノーガードの1RKO勝利を飾り、見ている者の度肝を抜いた期待選手だった。
普通なら、押しも押されぬ優勝候補に推されておかしくない選手。

今年のスーパーバンタム級は大混戦のサバイバルレースだった。

試合が始まると、まだ、肩書しか知らない英に驚かされる。
強く重たそうなジャブ、反応の良さと撃ち分け…。
何よりも、次の動作に移る前の確認事項がしっかり整理されているように見える。
何試合も何試合もプロのリングを重ねたようなエッセンスをわずか3戦目の選手が振りまく。
一つ一つのパンチは格別、あとはそれらが一つにつながるだけ…。

対する溝越は持ち前のタイミングの良さとカウンターセンスで試合を拮抗させる。
減量の影響からか、最終ラウンドに失速してしまうものの、
4回戦では怪物レベルの相手に充分に対抗する。

試合は英から見て1-0のドロー。
開いた口が塞がらなくなるような才能の片鱗と、まだまだ磨かれるべき部分が混在する…まさに原石。
この日の英の印象だ。
 

中日本、中日本と騒いでいながら、中日本の一部である北陸のボクシングは
距離の遠さからおざなりになっていた。
まさかこれほどの才能がいるとは…。
 
 

英のこれまでの経歴を振り返ってみる。

2010年度U-15全国大会小学生の部30Kg級優勝
2012年度U-15全国大会中学生の部35Kg級優勝
2013年度U-15全国大会中学生の部40Kg級優勝

幼少期からその世代のトップとして活躍。
高校3年生の頃には、現在が歴史上もっともレベルが高いと言われる高校ボクシングでインターハイベスト8。

アマチュアでは27戦19勝8敗の戦績を残している。
 

兄は元日本ランカーのユキヤ ハナブサ(カシミ)
2013年度中日本フライ級新人王で、全日本新人王決定戦にまで勝ち進み、
現日本ライトフライ級ユース王者の大保 龍斗(横浜さくら)に敗れている。

その後はアジアの強豪との対戦を重ねており、次戦で戦ったシャン・ジン(中)
その10か月後にはWBOアジア太平洋フライ級王座を獲得し、世界ランクを手に入れている。
2015年の新井 雄大(渡嘉敷)とのリマッチに敗れた試合を最後に、足の怪我で引退。

残念ながら、僕自身が観戦の機会に恵まれたことはない。
 

英 洸貴のデビューは、兄の最終戦から1年半後。
アマチュア時代に27戦を戦った英が、「この時の相手が一番強かった」と語る。

ツァン・ファンイュン(中)…2015年にWBCフライ級ユース王座を獲得し、
この時点で既に8勝3敗1分の戦績を刻んでいた選手。
どの試合がタイトルマッチに当たるのかは不明だが、中国王者の肩書もあったようだ。

明らかにデビュー戦で戦う相手ではない。
無謀にも思える試合だが…英はこの相手に、フルマークの勝利を飾っている。
 

さらに2戦目では2017年の西日本新人王トーナメントの
ファイナリストとなった松谷 日雅(井岡)と対戦。
この試合は4RTKOで勝利している。

ここまで、充分にえげつない相手と拳を交えてきている。
プロ2戦の濃密さに驚きを覚えた。
既に石川のTV局は彼に注目し、彼の試合は地上波で流されている。
 
 

中日本スーパーバンタム級新人王戦、決勝戦の相手はシードで登場する後藤 憬(中日)
デビュー間もないころは、近い距離での回転に秀でた印象。
それが試合を重ねるうちに、カウンターパンチャーへと変貌していき、
1勝3敗から引分を挟みながらの3連勝を飾る。

「やりにくいサウスポー」というキーワードで、一番最初に顔が浮かぶ選手だ。

3連勝の中には既に6回戦で戦っていた久保田 祐介(岐阜ヨコゼキ)への勝利も含まれ、
新人王戦前にはフェザー級で決勝に勝ち上がっている中野 元気(トコナメ)と引分。
まぎれもなく、中日本の4回戦でトップクラスの選手。

英の強さは充分に感じたうえで、僕はなお、優勝予想に後藤を挙げていた。
負けながら積み重ねた強さ…簡単には崩れないはず…それがたとえ抜群の才能であっても…。
 

試合のゴングが鳴る…。
そこから12分間、リングの上には後藤を圧倒する英の姿があった。
後藤が何もできない…正直ショックだった。
…まさに魅せつけるような試合だった。

英が新人王期間中に磨かれれば…全日本新人王を高い確率で獲って来ると口にしていたが…。
この日見た英は…想像を遥かに超えていた。

KOを狙って撃ち合った4Rは質を落としたものの…
早く倒したもの勝ちがよくある三賞、判定勝ちでの技能賞獲得はその実力が認められた証でもあった。
ある意味、MVP獲得よりも難しいことをやってのけたように思う。
 
 

これだけの力を魅せたのであれば、否が応でも全日本新人王への期待は高まる。
獲って来てくれ…ではなく、獲って来てくれなくては困る。
そんな感覚に陥ってしまう。
 
 

この2週間後、英の地元である金沢でカシミジムの興行があり、
現地で英に関する様々な情報を聞くことができた。
さらに、中日本新人王戦の衝撃もあり、英のことが話題に上がることも多くなった。
 

そんな中で…英を評して「あれこそスパーリングチャンピオン」と言う言葉も聞いた。
 
 

現在、カシミジムの面々は充実している。

国内で唯一、井上 尚弥(大橋)のスパーリングパートナーが
務まると言われる、ゼネシス・カシミ・セルバニア(カシミ)

スパーリングではセルバニアに匹敵する実力を見せると言われるピッコロ・ボリバー(カシミ)
ボリバーはスイッチも使いこなす、何でもできるテクニシャンでもある。

相手の嫌がることを熟知するハリケーン 風太(カシミ)

世界クラスの強豪たちに揉まれながら発揮する実力は、実際のリングで魅せる倍以上と。

「スパーリングチャンピオン」という言葉は、「試合で弱い」という揶揄だが…
裏を返せば、試合で見せる以上の実力を備えていることを指す。
あの試合でこんな言葉を使われてしまう英…
本来の実力がどれほどのものなのか…背筋が冷たくなるような気がした。

もちろん、本来の実力をリングで発揮できずに消えていくボクサーも多くいる。
しかし、リング上で魅せた溝越戦から後藤戦のジャンプアップを見る限り…。
これから徐々に、英の力がプロのリングで解き放たれていくのだろうと思う。

彼が100%の力をリングで発揮したとき、原石が宝石へと成り代わる。
それがどんな色の輝きかさえまだわからない。
 

北陸に、世界を狙うべき男がいる。
ここからの戦いは、彼自身を磨く戦い…そして、その実力を全国に披露していく戦いとなる。
 
 

これからミュージシャンのツアーのように転戦する全日本新人王への旅。
全国のボクシング生観戦ファンに、我らが中日本の英 洸貴を見定めてもらいたい。
9月末から…中日本の才能が全国へ飛び出していく。
 
 

 

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