燃え尽きる場所を求めて 松井 敦史(薬師寺) ボクシング選手名鑑ピックアップ! 2018/09/23

燃え尽きる場所を求めて 松井 敦史(薬師寺) ボクシング選手名鑑ピックアップ! 2018/09/23
 
 

相手がロープに吹っ飛んだ。
日本国内では重い階級に当たるウェルター級。
その質量がまるでなかったことにされているかのように…。
 
 

ゴングとともに猛烈に突っ込んでいった志田 幸人(姫路木下)
西日本からやって来たこの男はプロテストに落ちた回数二桁という逸話の持ち主。
しかし、念願のプロになってからは4戦3勝(1KO)1敗。
この試合に勝てば、デビューからわずか1年でのB級昇格となる。
魅力的な背景を携えて、中日本のリングに乗り込んできた。
 

しかし…相手が突き出した右ストレート一発でロープに吹っ飛ぶ。
志田を吹っ飛ばしたのは、この日がデビュー戦の松井 敦史(薬師寺)
そのまま、志田を逃すことなく、ロープ際のラッシュで飲み込みダウンを奪取。

立ち上がった志田…これまで何度も挫折しながらつかみ取ったプロのリング。
これまで歩んできた道のりからしても、あきらめの悪い選手なのは容易に想像がつく。
しかし…そのまま足をふら付かせてしまい、レフリーは試合をストップ。
ダメージは試合の続行を許さないほどに深かった。
 
 

デビュー戦のリングでその強さをはっきりと誇示した松井。
正確な回数は解らないが、アマチュア時代には社会人選手権3位を複数回(多分3回)記録している。

プロテスト合格は昨年の3月。
そこから1年以上の期間を待っての4月のプロデビュー戦だった。
 
 

既に発表されている中日本新人王トーナメント。
ウェルター級にエントリーした松井はシードで決勝から登場。
この試合は、来るべき8月の中日本新人王決勝に備えてのものだった。
 

3名エントリーのウェルター級、決勝で松井と戦う相手を決める準決勝が6月に行われた。
松井と同じく、この新人王戦でデビューした廣中 大介(とよはし)が、
インファイトで山田 泰之(MSG平石)を飲み込んで3RTKO勝ち。
延々とラッシュを続けるような廣中のボクシング。
猛烈な手数を出していけるスタミナは凄まじい。

一撃で倒した松井と、圧力で飲み込んだ廣中。
決勝のカードは、種類の違う力と力がぶつかる試合となった。
 

松井のデビュー戦は素晴らしかったが…この時点でスタミナなどは全く見えていない。
圧力に削られれば、技術ごと廣中に潰されてしまうことも考えれらえる。
脳内で再生するのが面白過ぎるカードだった。
 

しかし、決勝戦はわずかな時間で終了する。
予想通り前に出て行く圧力型のファイター廣中だが、
松井のディフェンスが上手く…思うように回転が上がらない。
松井が左ボディから右を返すと、明らかにこれが効いてしまった廣中。

デビュー戦と同じく、勝負所を逃さなかった松井。
一気のラッシュに踏ん張る廣中だったが、止まらない松井のラッシュに潰れるようにダウン。
立ち上がって再開に応じる廣中だが、はっきりとダメージが残っている。

再開後、松井がまたも一気のラッシュで仕留め切って1RTKO。
 

圧倒的に試合を…そして中日本ウェルター級新人王を制した。
 
 

松井がアマチュアの頃に3位を記録したのは、その名の通り、社会人が参加する社会人選手権。
当然、アマチュアの中でも平均年齢は他の大会に比べて高くなる。
そこで実績を上げてプロ転向した松井。
はっきりとした生年月日は知らないが、かなり遅いプロデビューと聞く。

「最後に燃え尽きる」
その為にプロのリングを選んだと聞いた。
この選手は、きっとプロのリングで長いキャリアを積むことは考えていないのだろう。

遅いプロデビューで、一気に駆け抜けてリングを去る。
今、そのためのリングに上がっている。

辞め時を誤れば人生を棒に振るボクシング。
そのキャリアは選手それぞれの価値観に沿ったものになるのがベスト。
望む道を望む限り走って欲しいと願う。
 
 

デビューからの2試合で、中日本では圧倒的であることを示した松井。
では…全国ではどうだろうか。
 
 

今年の全日本新人王獲得に対して、中日本で最も可能性があるのは
スーパーバンタム級の英 洸貴(カシミ)だと思っている。
そして、その次に可能性が高いのが、松井だと思っている。
 

エントリーの兼ね合わせもあり、絶対がほとんどアテにならないのも新人王戦だ。
しかし、例年の平均値で考えれば、充分に全日本を獲得できる実力者だと思う。
攻撃力も、防御力も高い…そして、勝負所を逃さない。
効いたとみるや、ラッシュを浴びせて仕留め切った二つの勝利。

スタミナがない選手の場合、1Rから勝負と見てラッシュをかけることはかなりの恐怖なはずだ。
躊躇なく仕留めにかかった松井は、スタミナにもそれなりの自信があるように見える。
プロになって数分間しか戦っていない分、ピンチに陥った時の対処など、
未確認の部分がまだまだあるのは承知の上だが…。
 
 

そして、その勝敗以上に…松井自身が、自分を燃焼させる試合に出会えるのか。
ここもまた、見どころの一つのように思う。

聞いた話で勝手に語ることにはなってしまうが…
勝敗の白黒と合わせて、松井に付随するストーリーもまた全国のファンに楽しんで欲しいところ。

燃え尽きる場所を目指す男のドラマ。
選手の思いをくみ取るような目線で見れば、ここから戦っていく松井のリングがどれも、
タイトルマッチ以上の価値を持つ試合になる可能性がある。
彼がこれから紡ぎ出すドラマは、とてつもなく面白いはずだ。

我らが中日本ウェルター級新人王。
プロボクサーとしての生き様を、各地の観衆に焼き付けてきて欲しい。
 
 

 
 

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