サパタのクリンチ 張正九(韓)② ボクシング選手名鑑ピックアップ! 2016/02/13

サパタのクリンチ 張正九(韓)② ボクシング選手名鑑ピックアップ! 2016/02/13
 
 

さて、本日はチャン・ジョング(韓)のピックアップ第2回。
 

アウトボクシングとコリアンスタイル、両者を混ぜ合わせたスタイルの3種類を駆使し
元世界王者2名を討ち破ったところまで紹介しました。
 
 

元世界王者をわずか8ヶ月という短い期間に2人も撃破したジョング。

ここまで来るともう世界しかない。

ウルスア戦から2ヶ月後、友利 正(三迫)からベルトを奪っていた、イラリオ・サパタ(パナマ)へ挑みます。

このサパタ、中島 成雄(ヨネクラ)と戦った試合なんかが有名ですかね?
巧みなサウスポーで、友利、中島…いずれも僅差の判定で敗れています。
具志堅 用高(協栄)との対戦が流れたこともあった。
日本のファンからは結構な嫌われ者。
しかしながら昨年殿堂入りも果たした名ボクサー。

嫌われるってことは強いってことの裏返しでもあるとは思うんですよね。

さぁ、そんなサパタに挑戦が決まったジョング。
 
 

しかし、このタイミングでトラブルに襲われます。

試合直前にジョングがガラス片を踏み負傷。
世界戦をやるには大金が動く…そして挑戦する側にとってチャンスは限られたもの。
負傷した足を引きずって世界戦に挑みます。

…とか言いつつ実は映像では全く怪我してるなんて思えない。
とっても元気なジョングさん。
 
 
 

それは置いとき世界初挑戦。

サパタは本当に巧い選手。
ロングレンジを維持しつつ、距離が詰まるとクリンチに逃げる。
そして離れ際にいくつかのパンチを放り込みパッと離れる。

ボクシングのお手本のような技巧。
 

ジョングは自分より10cm以上は背が高いと思われるサパタの懐に
鋭い踏み込みでスタンっと入って乱打戦に持ち込もうと試みますが、
長い腕を器用に折りたたんで応戦しながら、まるで軟体動物のようにからだをくねらせて被弾を避けるサパタ。
ロープに詰めてもスルリと体を入れ替えられてしまいます。

サパタは時折長い腕を生かして放り込む、大きく鋭いロングアッパーで簡単には踏み込みを許さず。
ジョングも流石の物で、時折その難易度の高い踏み込みを見事に決めて距離を潰す。
しかしクリンチに絡め取られ…。

身長差はそのままサパタの懐の深さとなり、階級違いにも見えそうな体格差に
ジョングがまわされてしまいます。
 

そこでジョングは豊富な引出しを使います。
中盤からは完全なコリアンファイターにスタイルチェンジ。
多少の被弾を覚悟で、頭から体ごと突っ込み…ボディを中心にサパタ攻略を試みます。

しかしやはりここでもクリンチに絡め取られ…
強引に振りほどきにかかるものの流れを寸断されてしまいます。
 

ラウンドが進むと、押し合いのインファイトで若干消耗してきたサパタ。
流れが少しずつジョングに傾いてきます。

ここでサパタは流れを取り戻すため、ちょっとダーティーにプッシングを使い始めます。
頭低く入ってくるジョングを、上から押さえつける形ですね。
これはあまりに行き過ぎると減点を取られる反則行為。
しかし、ジャッジに減点を取られるまでは、多少汚くてもテクニックの一つ。
流れを引き戻します。

後半に入るころにはある程度ポイント差が開いた状態。
ジョングの中盤のボディ攻撃がここで利きはじめ、消耗したサパタの足が鈍り始めます。

察知したジョングは、コーナーやロープに強引に持っていき、ボディ!ボディ!ボディ…!
サパタはプッシングで流れを潰すのが精いっぱい。

長身選手はボディが薄いなんて言われたりします。

同じ体重で戦うボクシング。
長身選手は縦に長い分、筋肉量は少ない選手が多い。
比較すると長身選手のボディは、ボクサーにとっての鎧である腹筋が薄くなると…。

定石通りの攻めで後半を一気に盛り返します。
逃げたいが逃げられないサパタ。
巧みな技巧をジョングが飲み込みかけます。
しかし…後半2Rはサパタも回復し…

結果は2-1の判定でサパタ。
 
 

しかし、この結果でジョングは自信を深めます。
足が問題なければ勝てる相手。
 

足が癒えた3ヶ月後に再起を飾ると、2ヶ月後には具志堅への挑戦経験もあるティト・アベラ(比)と対戦。
1Rから激しい撃ち合いになったこの試合。
撃ち合いとは言いつつ、近距離でアベラのパンチをほとんど被弾せず、
ヒットするのはほとんどがジョングのパンチ。
2Rにはボディが効いたと見るやひたすらボディに強打を重ね、2RKOで沈める。

フィニッシュは顔面へのアッパーですが、その前の強烈なボディが効いての前のめりのダウン。
うつぶせのままテンカウントで試合終了。
 

そしてそのわずか1カ月後…
前回の対戦からわずか半年の期間でサパタへ再挑戦。

1R印象的なシーン。
空振りした左腕を頭に絡めて、押さえつけた上で右の強打。
まさに、とっ捕まえて…。
ちょいとダーティな手段ではありますが、強引にでも捕まえる…そんな意思が見えます。

2Rには同じように頭に腕を絡めてロープ際まで引きずるように持っていき…
ボディの強打を連発。

迎えた3R、既に足が止まりかけたサパタ。
インファイトでクリンチに逃れても強引に振りほどいて滅多撃ち。
ジョングは1戦目でクリンチに絡め取られた展開を踏まえて、入念に対策したよう。
見事に状況を打開。

溜まらずレフリーがスタンディングダウンを取ると、サパタは再開には応じず。
まだまだやれそうにも見えますが、打開策が無いのか試合放棄気味のストップ。

世界王座奪取劇にリング内にはセコンドや関係者が飛び込み、もみくちゃにされるジョング…客席は熱狂。
今は閑散としてしまった韓国のリングですが…、この頃の熱さはとんでもなかった。
 
 

世界王座を獲得したジョング…。
実はこの1戦目がジョングのターニングポイントとなっているように思えます。
クリンチに苦戦したジョングが、クリンチワークへの対策を極めてサパタを3Rで棄権に追い込んだ。

この近距離の攻防がこの先、ジョングの大きな武器となり、
ライトフライ級15度防衛という当時の世界記録を撃ち立てていった…。
ジョングの試合を追っていくと、そのように見えてきたりします。
 

敗北を力に昇華した典型的な事例。
運のいい敗北を喫したとも言えるのかもしれません。
 

今日はそんなところで…
明後日からはジョングの防衛ロードを…
 
 

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