カット跡 小林 タカヤス(川島)④ ボクシング選手名鑑ピックアップ! 2016/03/29
本日は小林 タカヤス(川島)のピックアップ4日目。
前回は初の日本タイトル挑戦に失敗後、最強後楽園で優勝。
2度目の日本王座挑戦権を手に入れたところですね。
清水 智信(金子)への雪辱を目指して…と行きたいところですが、
清水は3度目の世界挑戦を目指して王座を返上。
2度目の日本王座挑戦は決定戦となり…
対戦相手は…アマでは高校4冠、元日本フライ級暫定王者であり、
のちに第39代WBC世界フライ級王座に就く五十嵐 俊幸(帝拳)。
アテネ五輪強化選手にも選ばれたスーパーアマエリートだったりもします。
2度の挑戦がいずれものちの世界王者。
ついていないとも言えますが、これはしょうがない。
日本の軽量級はそれほどのレベル。
そこでランク1位を獲得した…これがどれだけ凄いことかっていうのが
日本タイトルで挑んだ王者のレベルからうかがい知れます。
サウスポーの五十嵐は、小林のボディへ左ストレートを撃ち込み、小林が右で応戦する展開。
しかしこのボディは五十嵐の張った複線。
3Rに狙いを顔面に変えて左ストレートを振りぬき、コーナーまで飛んだ小林を追撃。
ここでレフリーが割って入ってTKO。
2度目の挑戦も実らず…。
ここから1年近くの期間を開けて、再起戦が組まれます。
2週間を切ってから決まった山口 桂太(八王子中屋)との試合。
三度目のランカー挑戦となる山口。
この試合、ジャブで突き放そうとする小林と、徹底したボディで攻める山口。
徐々に距離は接近し、密着した撃ち合いになる両者。
自身を「不器用な昭和のボクサー」と形容する小林。
がむしゃらな前へ向かうボクシングは激戦を作り出し…
山口へバッティングの減点、小林へホールディングの減点がそれぞれ課される展開。
もう一度王座へ挑むには負けられない小林。
そして3度目の正直となるランカー入りへ後がない山口。
両者の熱闘は判定に委ねられます。
結果は全員が1P差の際どい判定で山口の勝利。
結果が全て…とは言え、どちらに転んでもおかしくない判定だったはず。
この再起失敗後、ロードワーク中に肉離れを起こした小林。
治りきる前にまた再発させるなど、この怪我が長引くこととなってしまいます。
そしてまた、この怪我が癒えてもなかなか試合が決まらず…。
ここから1年以上の空白が空くこととなります。
焦りの中でも、いつ決まってもいけるように準備していたという小林。
この期間にランクを失ってしまっており、連敗脱出とランク入りを賭けて…1年3ヵ月ぶりの試合。
相手は日本ランク9位につけていたホープの久保 幸平(セレス)。
スピードで上回る久保のカウンターをもらいながらも、気持ちのこもった右でやり返す小林…。
しかしこの試合を決めたのは…右目上のカット。
3Rにカットした傷が、5Rに開いてしまい…。
ヒッティングによるものとしてストップされてしまい、5RTKOで敗戦。
この頃には前に出ての激戦が続いたこともあり、
試合の前からすぐに切れてしまう古傷が出来上がってしまっていました。
5ヶ月後の森川 真一郎(VADY)戦でもその傷が悪化してストップ負け。
この試合を終えた直後、彼は引退を決意します。
彼のブログに残された言葉。
「すぐにカットしてしまう状態ではボクサーとしてリングに上がる資格はない。
そしてもうこれだけでも十分ではないか、と足りるを知る心が必要だと感じ判断しました。」
ボクシングは言い訳のできない勝負。
減量に失敗するのは自分に負けている証拠。
それは相手も同じ条件。
しかし、すぐに切れる古傷というハンデを抱えて勝負に挑むのは…
毎回応援に来て下さる方に申し訳ない。
彼の誠実さが、引退を決意させた形です。
こう戦績を並べながら…彼のその時々に残った痕跡を追うとですね…。
プロになると決意したときから、ずっと彼はブレないんです。
20歳の頃に固めた決意…それを彼は一貫して貫いているんですね。
実は11連勝の最中、職場を生協から都内大手の弁当屋さん、株式会社玉子屋へ移していた小林。
大量の弁当を配達する重労働でしたが、昼食にはバランスの取れたお弁当を食べることができ、
リズムも凄く良かったそう。
引退するまでここで働き続けた小林の試合には、スタッフや上司、事務員さん、社長、会長も駆けつけ…。
日本王座初挑戦前の特集番組のなかで、顔が溶け落ちそうなほどの笑顔を見せながら
「彼、いい子だよ」と答えるのは配達先の会社社長。
もう、ほんっとに小林のことが可愛いんだろうなって、
ほんっとに小林が注目されて嬉しいんだろうなって笑顔で。
最初のバイト先の焼き肉店 牛鉄 カプサイシンでは横断幕まで作ってもらい、
2つ目の職場だった生協(パルシステム)では職員達と合わせて、お客さんまでも…
そして玉子屋では大勢の人間が総出で…
小林という人間を応援していた。
この3つの職場で時間を共にした方々と、今も交流している小林。
人間関係が切れずに続くこともまた凄いこと。
これは彼の後輩の談。
—-
真面目で周りに気遣いができて恩義を大事にする人ですね。
社交性も高く、できた人としか言いようがないです。
少し繊細なところもありますが、よっぽどひねくれた人でない限り上も下も好きになりますね。
—-
小林の誠実さ、真面目さ…そういったものに魅かれた人間を、彼は一切裏切らなかった。
それはリングの中、外に関わらず…。
実はこの文章を書くにあたって、小林選手にお話を聞くことができました。
そこでもらった返答の中に、引退後の体について。
「視力はかなり落ちはしたものの目は見えています。」
ボクシングのファンである僕に対して安心を与えてくれたこの一文に、彼の心遣いを感じます。
引退後の彼はラーメン店を営んでいます。
らーめんこじろう526渋谷店の常連だった小林。
その店の店長も小林を応援しており…
引退の挨拶に行ったところで『ラーメン屋をやりなよ』と声をかけられ…。
そこから渋谷店で修業を積み、大人気だった系列店「ラーメン二郎鶴見店」が閉店したのをきっかけに、
同じ場所で「らーめんこじろう526 鶴見店」を新規開業した形。
選手時代に応援してくれた株式会社 玉子屋の上司には経営についても、
アドバイスを頂いたり相談を聞いてもらっているそうで。
リングを降りても、小林は小林。
応援したくなる彼の誠実さは変わりない。
「社会に出ていろんな事を経験して全部勉強になっていますが、
現在の自分の視野や取り組みが変わったのも株式会社 玉子屋で働かせてもらった経験が
今を作っている一つの大きな要因です。」
僕がこの記事を書くために、いろんな質問をぶつけた中の回答の一つ。
あの配達先の社長の満面の笑みが思い浮かんだりします。
あ…そうそう、彼のことを色々調べているうちに出会ったブログでね、ひとつ凄く気になるものがあって。
最強後楽園の決勝で、引分けながら優勝を飾った直後の内容だと思うんですけど。
小林のことを下手って一刀両断してるんです。
魅せる戦いができてなくてプロ失格だと…。
文面から行くと、小林のことが好きで好きでたまらなくて…
周りにも認められるボクサーになって欲しい…
なんて思いがにじみ出ているような内容なんですけどね。
書いた人はきっと小林のことをずっと見続けた人なんだろうな…と思えて、
それに比べれば僕の書くことは凄く浅いんだろうな…とは思うんですが、それでもちょっと書いておきたい。
「小林 タカヤス」だけを見てしまうと、歴代の世界王者だとかから比べれば、
彼はタイトルに届かなかったわけだし…。
倒し屋なんて呼ばれる選手に比べれば、彼の試合はスリリングではないかもしれない。
ただ「小林 孝康」の部分まで見て行くと…。
これほど周りに愛される選手…というか人間、どれほどいるんだろうと思ってしまう。
魅せることがプロであるのなら、自身のファンを裏切ることなく走り続けたこの選手こそ
正真正銘の”プロ”ボクサーだと…僕は思ってしまうんです。
…って、僕が言うまでもないか(笑)
その方はきっと、僕なんかより深く強く、その辺りを感じていると思います。
足跡を追うのが、こんなに面白い選手もそう多くはないもので…。
飯を食うのも忘れて、一気に漁って、一気に書いてしまいました。
多分だけど、この人は、いつどこにいてもプロであり続ける人。
そんな印象を受けます。
…今はとにかく、そんなプロの作るラーメンが食べてみたい(笑)
僕と同じ気分になってしまった方の為に…一応。
らーめんこじろう526 鶴見店
住所:神奈川県横浜市鶴見区岸谷2-13-7
営業時間:11:30~15:00、18:00~21:00(日・祝は昼営業のみ)
定休日:月曜日(祝日の場合も休み)
らーめんこじろう 526公式HP:https://www.ramen-kojirou526.jp/
最後にちょっとボクシングの話に戻って…
升田戦に挑む前のタイミングで、彼のイメージトレーニングについて触れたんですけど…。
イメージを高めていくと、勝つときは必ず勝つイメージができる…って話ですね。
そういったイメージを作れるようになった彼は
「夢をかたちに!」「未来は想像出来る!」などというありふれたキャチコピーが、
それは本当の事だったと感じるようになったと言います。
さて、リングを降りた彼は今、どんなイメージを見ているんでしょう?
実際に彼のお店へ行ったら、ぜひ聞いてみたいな…なんて思ってます。
お腹…空いたな…。
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