山中×ネリのタオル問題について(コラム) ボクシング選手名鑑ピックアップ! 2017/10/23
※その後のドーピング問題については別件として、この記事では触れません。
山中 慎介(帝拳) vs ルイス・ネリー(メキシコ)
WBC世界バンタム級タイトルマッチとして行われたこの試合。
王者の山中 慎介が日本タイ記録となる13連続防衛に挑む試合とあって、
日本中で注目を浴びた一戦である。
この試合の結果は4RTKOでネリーがTKO勝利。
山中 慎介は日本タイ記録の達成ならず、王座を陥落した。
このとき、猛攻にさらされた山中を救おうと、チーフトレーナーの大和 心がタオルを投げ、
そのままリングに傾れ込んだ。
この救出劇に対し、解説の具志堅 用高は「(タオルが)早い」と発言し、
帝拳ジム会長の本田 明彦会長も激怒。
「一瞬、魔が差したんだと思う。普通であれば試合を止めていいか聞いてくるはず。
頭が真っ白になったんだろう」
こんなコメントが翌日のスポーツ紙に掲載された。
この試合のストップに関しては、僕は適切だと考えている。
なぜなら、チーフトレーナーという権限が持つものがそれをそう判断したからだ。
試合をストップする権限のある人物は3名。
レフリーと、両コーナーのチーフトレーナー。
このうち誰か一人が無理と判断すれば、試合は止められる。
いわば、ストップ権限においては本田会長は部外者なのだ。
早いストップはボクシングの魅力を削ぐと言うが…
これまでどれだけの有望な選手が命を落とし、選手生命を断たれ、
遅過ぎるストップの為に、ボクシングの魅力が削がれてきたことだろう。
大袈裟に聞こえるだろうか…。
リングで起こる事故のことをリング禍という。
死亡、または深刻な障害を負ったときに使われる言葉だ。
毎年死亡する選手が現れ、そしてそれ以上に開頭手術をする選手がいる。
QR クイーン・オブ・ザ・リング -リングの安全-
https://qr.livedoor.biz/archives/51905060.html
このブログを見ていただきたい。
立ち技系女子格闘技に特化したブログだが、女子格闘技以外にも、
リングで起こる事故に対して、かなり詳しく書き残してある。
是非関連する記事、また山中vsネリーに関する記事も読んでみてもらいたい。
僕は彼のブログの内容全てに100%賛同するわけではないし、あがめているような者でもない。
ただし、この分野においてこれほど突っ込んだ内容と記録を残す方を僕は知らない。
リング禍はしょっちゅう起こっているのだ。
併せて、このタオル問題が勃発するわずか4か月前、
OPBF東洋太平洋スーパーウエルター級王者の大石 豊(井岡弘樹)が
ラーチャシー・シットサイトーン(タイ)に12R 1:36でTKO負けを喫した直後、意識不明に陥った。
開頭手術にまでは至らなかったものの、脳内に出血が認められたことで、
彼は今後二度とリングに上がることはできない。
ポイントリードしており、あと1分半乗り切れば王座を防衛できていた試合。
状況がどうであれ、選手が競技人生を断たれてしまった以上、ストップが遅かったと言わざる得ない。
お茶の間は、きっとこのことも、そして頻繁に起こる事故のことも知らないのではないだろうか。
知っていて言っているのであれば、選手をゲームのキャラクターか何かだと思っているのだろうか。
「早過ぎるストップなどない」
世界的名レフリー、リチャード・スティールの言葉だ。
僕は絶対的にこの言葉を支持する。
選手は誰もが力尽きるまで戦いたい。
だからこそ、何かが起こる前に誰かが止めなければならない。
選手にどんな覚悟があろうと、ボクシングはスポーツだ。
野原の野蛮な殴り合いではない。
原点は殴り合いだっただろう。
そこにルールを与え、スポーツとして昇華させた。
そして、そのルールの監視人としてのレフリーがいる。
スポーツとしてのルールの中に、チーフトレーナーの権限が認められているのである。
チーフトレーナーの目にそう見えた時点で試合は終了である。
…と、このストップの早い遅い関しての僕の見解を書き記したが。
ここまではある程度、ファンが意見を持っていい部分だとも思える。
僕は”早い”と感じる試合のストップに関しては、ファンが口を出すべきものではないと思っているが
他にも考え方はあるだろう。
この問題にはさらに大きな問題があると思っている。
それは、日本のボクシング界に置いて大きな権力を持ち、”天皇”とさえ呼ばれる本田氏が
タオルが早いと指摘したことである。
これがどうして問題なのか…
説明するにあたってこの試合を知ってもらいたい。
グレート 金山(ワタナベ)vs川益 設男(ヨネクラ)
韓国からの輸入ボクサーだったグレート 金山。
ラフなスタイルに、国籍、そして憎らしいほどの強さ。
数々の不遇に合い、後楽園ホールの悪役として敵視され、
それでも日本王座のベルトを守り続けていた金山。
そこに将来を期待させるソウル五輪代表だった川益が挑んだ試合。
明らかな地元判定だった。
全てのダウンがスリップにされた。
怒りのファンの署名活動により、二人は再戦。
その再戦で、金山はリング禍に合い、命を失った。
このリマッチ、もし…早めのストップだったなら…。
ストップが早い、またも地元判定と関係者は叩かれたことだろう。
そして、この再戦の直前、金山はジムを移籍している。
果たして、コーナーは彼の状況をどれほど把握していただろう。
金山は、”雰囲気”という曖昧な理由の、”ストップのない”危険なリングに上がり、命を落とした。
僕はそう考えている。
日本のボクシングにおける第一人者である本田会長の言葉は重い。
彼がタオルが早いと叫んだあと、コーナーは適切にタオルを投げられるだろうか。
業界トップの的外れな発言に、最前線であるコーナーがブレることはないと信じているが…。
仮に、「セコンドの早いストップ厳禁」といった世論が出来上がってしまっていたらどうなっていたことか…。
きっと事故はローカルな場所で起こる。
世界戦の何十倍もローカルな試合はあるのだから、その確率の方が高い。
タオルが早いと叫んだTVの前のファンたちは、きっとそれが起こっても、
それを知らずに、タオルが早かったと言い続けるのではないだろうか。
本田会長の発言はあまりにも危険な発言だったと思う。
ストップを躊躇させるような空気は作っちゃいけない。
そして、帝拳ジム代表の浜田 剛史(帝拳)がこんなコメントを残している。
「選手の健康面の責任は全て俺が取る。トレーナーは勝つことだけ考えて、
タオル投入の時は俺に確認してほしい」
馬鹿な…瞬間スポーツのボクシングなのに。
業界批判みたいなものは書きたくない。
しかし…この問題についてだけは絶対に書いておきたいと思った。
チケットを選手から買ったら、試合後に挨拶に来てくれたりする選手もいる。
話しかけたら、気軽に応対してくれる選手が大半。
これほどプロスポーツ選手がファンに近いスポーツがあるのだろうか…。
これほど選手を愛させてくれるスポーツがあるのだろうか…。
好き勝手な放言を受け入れ、にこやかに応対してくれる選手たち…。
犠牲になるのは、そんな身近にいる選手の中の誰かかもしれない。
そんなふうに思うから…この問題だけは、黙っていられない。
最後になるが…。
なぜ、僕が今頃こんな話をしているのか…。
たった2か月前のことなのに、忘れてしまっていないですか?
選手の命にまつわる大事な問題です。
僕は未だにこの問題に対して、怒っています。
直近の事故からしばらく時間が経ちました。
これまでの定期的な事故の発生から行くと、また再起不能か…死亡か…そんなボクサーが出る頃です。
今度もひっそりとでしょうか。
それとも、yahooニュース程度にはなるでしょうか。
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