ニワカファン、胸躍る(コラム) ボクシング選手名鑑ピックアップ！ 2017/03/15
どれだけ余裕を持って会場入りしても、試合前はバタバタしてしまう。
今日組まれた試合のプログラムに変更がないか、
事前に作った資料と当日のパンフレットを見比べ、
かつて応援していたボクサーがいないか、会場をぐるりと見渡す。
観客から見える位置でミットを行う選手があれば見入ってしまうこともあるし、
客の入りや客層もやはり気になってしまう。
あれよあれよと試合開始のゴングが鳴る。
ひとたびゴングが鳴れば、あとはもう置いて行かれないように必死。
瞬きの瞬間に試合が決まってしまうこともあるわけで、
リングから視線を切るなんてことができなくなる。
最初の3分間が終わってのインターバル。
セコンドの動きや表情もまた、その試合のエッセンス。
4R判定…インターバルを含めた16分が終わり、勝利者コールが上がる。
選手の勝利者インタビュー。
たまに地方の会場ではわけの分かんないエコーがかかってメチャクチャ聞き取り辛いことがある。
スナックのカラオケでも歌わせる気か！？なんて心の中で呟きながら…
でも、聞き逃さないよう必死。
勝者がリングを降りると、間髪おかずに次の試合の選手が上がってくる。
…また同じサイクルでリングに集中することとなる。
セミファイナルの前には眼は血走り、あふれだしそうになる疲労感を
後頭部に押し込むような気持ちで集中し続ける。
判定決着が延々と続く日は、自分がある種のマゾヒストに思える瞬間さえある。
その日の進行具合…KO決着の具合によって休憩の時間が気まる。
一旦休憩に入ると、ドッと疲れが溢れ出る。
しかし休んではいられない。
ロビーで売られる飲食を漁り、遅れて到着した元選手などの懐かしい顔を遠巻きに眺め…
パンフレットをにらんでこれまでの試合を振り返る…。
そして…長い長い8回戦や10回戦のリングが始まる。
不思議と、すべての試合が終わった後、疲れはほとんどない。
ボクシングの無情さと哀愁と、そして熱気の過ぎ去った寂しさに胸がいっぱいになり…
徐々に徐々に解体され、骨組みになっていくリングを眺める。
あの選手は引退してしまわないだろうか…。
あの選手はどこまでいけるだろうか…。
あの試合の流れを変えたのは…ちょっとしたことで勝敗が入れ替わった…。
頭の中をグルグルグルグル、ボクサーのことが回り続ける。
それは帰り道でも…。
家に帰り、その日の試合の感想をまとめる。
一つ一つ、試合を振り返る。
記憶はとても曖昧だ。
残しておかなければ…まったく思い起こせなくなる試合もある。
それがつまらない試合だったか…そんなことはない。
人間の記憶力の不完全さは驚愕もの。
かつてのメモを見て、
「こんな激戦、忘れてたな…なんてことも。」
いつものルーチンを終えて布団にもぐりこんだ後もまた、頭の中をグルグルグルグル。
期待で胸から喉にかけてこみ上げるゾワゾワした感触。
鼻の奥にツンとくる興奮。
思わず叫んでしまって枯れた声。
手に残るのは握りしめ続けて生温かくなった手すりの感触。
言葉にできない感情が体の中を行ったり来たり。
眠れなくなることもしばしば…
起き出してオールドタイムのボクシング動画を漁る。
もう何度も何度も見たはずのお気に入りの試合。
また、何度も何度も見てしまう。
4回戦から世界王者まで、リングの上には強い男たちしかいない。
「ホンモノを知らないからそんなことが言える」
…そんなことを言われたことがある。
なら、知らないほうがいい。
上から目線で選手を寸評するのは、僕の役割じゃない。
ずっとニワカで居続けたい。
下から見上げて、すげぇ！すげぇぇっっっ！！…って。
ボクシング愛とか、そういう大業なものではないけれど、とにかくボクシングが好き。
そんなことを思いながら、また、一日を振り返り…
「あぁ、ボクシングが好きでよかった」
そんな感じで眠りに落ちる。
…妻はいつも…呆れている。
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