止まらない前進 松本 一也(松田)① ボクシング選手名鑑ピックアップ! 2016/03/05
話はいつのことだったか記憶が曖昧になるほど遡る。
当時まだ新興だったタイトルを獲得したホープの話。
挑戦時には深夜枠ながら特集が組まれていた。
きっとタイトル挑戦をきっかけに売り出していく予定だったのだろう。
見事にカッコよくタイトルを奪取したその選手の初防衛戦。
地元名古屋で開催されたその試合、僕は試合会場にいた。
メインで組まれたその試合で、外国人ボクサーを相手に、ホープは圧倒的に試合を支配された。
判定決着の公表された採点は…
ホープの勝利だった。
まだまだ青臭く、大人の事情が受け入れられない未成年の自分は、
それ以来名古屋で行われる試合を見なくなる。
バイト代をつぎ込んででも東京の後楽園ホールへ足を運んだ。
後楽園ホールでそういった判定が皆無だったか…と言えば、そうでは無かったと思う。
しかしながら初めて経験した「That’s BOXING」の衝撃は凄まじく、
僕の足が名古屋のリングに向くことは無かった。
今…僕は猛烈に後悔している。
その後、何年か経って後楽園ホールで見た試合。
ヘスス・ロハス(ベネズエラ)が大好きな僕は、ロハスを破ったセレス小林(国際)への思い入れも深い。
どの試合を見に行くか迷った時、セレスジムの選手が出る試合を選ぶことが多い。
その試合、出場していたのは林 徹磨(セレス)。
前年の全日本新人王に輝いていた彼は、僕の期待の選手だった。
リングの対角に立っていたのは名古屋からやってきた選手。
童顔のノーランカー。
ゴングが鳴ると一気に距離を詰めようとする相手をうまく捌く林。
次々に林のパンチがヒットしていく。
1Rが終わった時点で実力差が見えたような試合。
応援している林有利の状況にホッと胸をなでおろす。
しかし2R…ある異変に気付く。
1Rから、状況が変わらないのである。
相手の入り際に強いカウンターを幾度も浴びせる林。
いつ倒すか…という興味が、相手が止まらないことに対する強烈な違和感に代わる。
向かい合っている林は見ている側よりも強くその違和感を感じていたに違いない。
日本ランカーの林の表情が変わっていく。
3R…あいも変わらず前進を続ける相手。
幾度も幾度もパンチを浴びながら、時折強烈な右フックで林を襲う。
まさか…、そんな不安が襲い始めたころ、試合は終焉を迎えた。
林のオーバーハンドの大砲が、愚直に前進を続けたノーランカーを沈めた。
気がつけば、後楽園は熱気に包まれていた。
沸き上がる大きな拍手は林だけでなく、そのノーランカーに対しても送られていた。
2008/07/19 ●3RTKO 林 徹磨(セレス)
彼の戦歴として記載された1行。
10分足らずのこの試合がどれだけ僕を熱くさせたか…。
それはこの1行ではどうあがいても表現できない。
あるファミレスで待ち合わせした、元ボクサー。
この試合で大きな拍手を浴びた彼は、すっかり落ち着いた雰囲気をまとって現れた。
引退後、約4年半を経た松本 一也(松田)である。
21:00に待ち合わせをし、彼と別れたのは深夜1:00をまわっていた。
まるで吐き出す場所を探していたかのように、熱を込めて質問に答えてくれた松本。
「迷惑をかけないように1時間程で終わらせます」
こちらからしたそんな約束は、結局は僕の興奮と彼の熱でどこかに置き忘れられてしまった。
時に身振りを加えながら、「こうパンパンパンと…」「こんなオーバーハンドをもらって…」
自分の歩いた道を懸命に振りかえる彼のまなざしの先には、その時対戦した相手が浮かんでいた。
試合の時の表情、そのままである。
きっとこうしていたら勝てていた、この選手には勝てなかった…。
その時の試合を懸命に頭に思い浮かべ、必至に言葉を紡いでいた。
彼の言葉はまっすぐで、童顔の風貌と違わず少年を思わせた。
「どんなふうに書いて欲しいですか。」
「ありのままに書いてください…」
彼の要望どおり、遠慮せずに書かせてもらう。
彼は強いボクサーだった。
僕の記憶に刻まれた松本 一也の姿。
どれほど偉大なノーランカーだったか…。
彼の娘が大きくなった時、僕の記憶の中の勇敢な彼の姿が彼女の目に触れることを願ってやまない。
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