響き渡る炸裂音 マンモス 和則(中日)⑤ ボクシング選手名鑑ピックアップ! 2020/01/19
試合がセットされたのは12月…リングネームをマンモス 和則(中日)に戻しての再起戦が決定。
前戦からちょうど一年の月日が経過していた。
この間、顔を合わせるたびに、早く試合がしたい…と焦燥感を募らせていたように見えたマンモス。
試合が決まった喜びと、得体の知れない相手に対する恐怖心。
試合前に会話しに来てくれたマンモスは、その背中に緊張感を漂わせているように思えた。
刈谷あいおいホールで試合を観戦するときは、
僕はいつも後楽園ホールで言うところの東側バルコニーの位置にいる。
西側の位置には選手控室もあり、ミット撃ちをする選手もいる。
入れない興行もあり、入れる日でも、邪魔をしてしまうような気分でどことなく入りづらい。
後楽園ホールでも、いつも東側バルコニーにいる為、やはりここが居心地がいい。
西側のバルコニーに目をやると、トレーナーのジェフ・ピーターのミットで体を温めるマンモス。
その前にたたずむ東会長…話したことはないが、
いつもどことなくピリッとした空気を持ち合わせているように見える東会長が、
何か落ち着きなく、ソワソワしているようにも見える。
先にも述べたように、マンモスは試合の組みづらい要素をいくつも持った選手。
ここでの負けは、かなり痛く、着実に1勝を挙げたい立場。
6回戦で2勝を挙げれば、A級ボクサーへ昇格する。
そうなれば、対戦相手の候補は大きく広がる。
まずは6回戦で1勝目を…しかしながら、相手は実績のある選手。
やはり…心配なのだろうか。
4回戦の3試合が消化され、リングに向かうマンモス。
緊張感と、闘争心が両立した表情にまずはホッとする。
試合開始のゴングが鳴ると…。
お互いにけん制し合う緊張感に満ちた立ち上がり。
マンモスの強打を上体柔らかく躱しながら撃ち終わりを狙うラードチャイ。
判定が不利になる可能性がある海外の試合で、タイ人選手がよく使う手段。
撃ち終わりの一撃で倒しに来る…間違いなく勝ちに来ている…。
この試合で、ラードチャイの距離にとどまることは一切なく、
各ラウンドしっかりと明確なヒットを奪いポイントをピックしていくマンモス。
3R終了間際に左ストレートを炸裂させ、ラードチャイが腰を落とした場面でも
わずかな残り時間に無理攻めすることなく、冷静に引く姿を見せる。
狙いを完全に封じられたラードチャイは、4R以降、自分から仕掛けざるえなくなる。
そして…その時が訪れる。
5R、ラードチャイが放った右ストレートを鼻先で躱したマンモスが踏み込む。
ラードチャイのパンチの引きより早く、ラードチャイの顎に辿り着いたマンモスの左オーバー。
凄まじい衝撃音と共に、糸が切れた操り人形のように後ろへと倒れるラードチャイ。
レフリーは試合を即座にストップ。
一撃での失神KO劇…。
右手を挙げてリングを旋回するマンモス。
リングに上がって来たトレーナーのジェフ・ピーターと抱き合うと、セコンドの東会長の元へ。
タオルを被せられ、抱きしめられる。
6回戦に上がってからここまで…長い長い時間だった。
きっとみんな分かっている。
ちょっといい加減で、お調子者のマンモスが、一つの勝利の為に様々なことに耐えた。
その見返りのように、この日の勝利を手に入れ、周囲の愛情に包まれる。
ジェフや東会長の心底嬉しそうな顔は、まるで自分の子供が初めて何かを達成したときのよう。
試合開始2分でスタミナ切れしていたボクサーが、6回戦に充分に適用できる姿となって帰って来た。
さらに狙い済ました一撃は、相手の攻撃に対する抑止力となる。
どんな相手を前にしても、可能性を持つのがハードパンチャーである。
仮に今の状態でタイトル挑戦したとして、あの一撃さえ…そう思えばチャンスがある様にも思える。
ギャンブルマッチにはうってつけの選手だ。
しかし、マンモスを受け入れた中日はマンモスをギャンブルに賭ける選手にはしなかった。
若いマンモスの1年という貴重な時間を、強いマンモスを創り上げる時間に費やした。
誰もが羨むようなマンモスという素材を預かってのことである。
1年試合が無ければ腐る選手もいる。
陣営にとっても勝負の1年だったに違いない。
その間にしっかりと信頼関係を構築し、選手とその周りが共に苦しい時期を乗り切った。
歓喜に湧くコーナーを見て、マンモスがこの陣営に出会えて本当に良かったと思える。
試合後、いつも通り満面の笑みで家族に勝利報告するマンモス。
隣で観戦している僕にも、やっぱり満面の笑みで勝利報告。
1年前、負けたマンモスに「自分を信じろ」と言葉を賭けた。
あの時、泣き出してしまったマンモス。
何か変わっただろうか…。
強さを増したリングの上の姿と違って、リングを降りたマンモスは今もそのまま変わらない。
嬉しさも、悔しさも、真っ直ぐに表現するマンモス。
会長がこんなこと言ってくれたんですよなんて話を嬉しそうにする。
マンモスが勝てば、みんな嬉しい。
みんなを喜ばせたいマンモスは、一生懸命勝とうとする。
コール&レスポンスのように、マンモスの周りには人が集まっていき、
その人々に答えるように強さを増していく。
きっとこれからもそれが繰り返される。
今はまだ、チャンピオンになれる可能性を持つ選手。
だけど、この先、沢山の人の夢を背負って、チャンピオンになってくれと願われるようになる選手。
敵地後楽園ホール、劣勢に陥ったマンモスが、起死回生の一撃で日本チャンピオンベルトを強奪。
観客はその迫力と痛快な逆転KO劇に魅了される。
高橋 ナオト(アベ)を越える劇的勝利に、その試合はその先、何年も語り継がれる。
日本チャンピオンベルトを肩にかけて凱旋の刈谷のリングに立ったマンモス。
初防衛戦も痛快なKO勝利で飾ると…いつも通り満面の笑みで…。
今と変わらぬちょっと腑抜けた笑顔で勝利報告にやってくる。
何年先になるだろうか…そんな夢を見てしまう。
叶うか、叶わないか…。
いや…今のマンモスじゃ、高橋越えはハードルが高すぎるか…。
でも、これだけは言えると思うのは…
もし、この選手がチャンピオンになったら、誰より試合の面白いチャンピオンとして…
客席から強く愛されるチャンピオンとして…多くのファンの記憶に残るだろうということ。
マンモスが好きすぎて、希望的観測も存分にこもるけれども…。
そうあって欲しい…きっとそうなる。
まだ中日本以外のリングで試合をしていないマンモス。
来年か、再来年か…。
A級ボクサーとして、日本ランカーとして凌ぎを削るようになれば、
後楽園ホールや、西日本のリングにも立つことになるはず。
各地で多くのファンを魅了してきて欲しい。
マンモスがマンモスでいれば、それが可能だと思う。
強く強く愛されるボクサー。
強烈な左ストレートが、いつか大きな舞台で炸裂音を響き渡らせる。
そう信じている。
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