2019/03/31 -愛知・刈谷市あいおいホール- 戸谷 彰宏 引退式(中日本ボクシング観戦記) ボクシング選手名鑑ピックアップ!

2019/03/31 -愛知・刈谷市あいおいホール- 戸谷 彰宏 引退式(中日本ボクシング観戦記) ボクシング選手名鑑ピックアップ!
 
 

この日の4回戦が全て終了し、5分間の休憩が取られる。
わずかな時間に喫煙室に駆け込んでニコチンを補充。
仲良くしていただいてるファンの方と顔を合わせ、少し談笑。
慌ただしく客席に戻ったところで、元日本ランカーの引退式が執り行われる。
 

戸谷 彰宏(蟹江)

デビュー戦は大阪から遠征してきた曽根 健嗣(堺東ミツキ)に3RKO負け。
試合中に足を痛め、いきなり1年以上のブランクを作った。

デビュー戦での大怪我、ボクシングを離れてしまってもおかしくない状況で、
約1年半後の2015年、中日本新人王戦にエントリー。

初戦となった準決勝では、現在日本ランカーとして活躍する冨田 真(HEIWA)
素早い出入りで1Rからダウンを奪取し、はっきりとした判定でプロ初勝利。
のちに日本ランキングを手に入れることとなる二人だが、この当時は地方のいち4回戦。
二人とも、日本ランカーになるような選手だとは思えない選手だった。

中日本新人王決勝ではデビュー4連敗で、この頃、2勝5敗の矢島 大樹(松田)
後半に向かって撃ち合いになっていった試合を、スプリットの判定で落として、
戸谷の初めての新人王トーナメントは幕を閉じた。

この後、矢島は中日本・西部日本新人王対抗戦で
ドローの敗者扱いでその先には進めなかったが、
ここから無敗で引分けを挟みながらの6連勝。
A級に駆け上がっていく。
 

中日本新人王決勝でトーナメントを脱落した戸谷は、秋に冨田との再戦に挑むこととなる。
この試合は戸谷圧勝に終わった1戦目とは異なり、勝利がどちらに転んでもおかしくない接戦となる。
結果こそ2-1の判定勝利だったが、2度目ののちの日本ランカー対決は、冨田がグッと戸谷との距離を詰めた姿を見せた。
 

翌年、2度目の中日本新人王トーナメントにライトフライ級でエントリーした戸谷。
シードとして決勝から登場し、ファイターの十河 正人(MSG平石)を相手にダウンを奪う快勝。
いきなり倒れた十河だったが、しつこくしつこく攻め続け…しかし、それを寄せ付けずに完勝。
中日本新人王として、各地の新人王とのサバイバルに踏み出す。

中日本・西部日本新人王対抗戦でチャンス 望月(関門JAPAN)を、
西軍代表決定戦で坂田 健太(エディタウンゼント)を破って駒を進めた全日本新人王決定戦。
アマ時代に高校選抜を制してプロにやってきた郡司 勇也(帝拳)を破り
この年、中日本新人王から唯一の全日本新人王に輝いた。

この年、中日本から全日本新人王に出場した選手としては矢吹 正道(緑)が大きな注目を集めていた。
既に世界を期待する声さえ上がっていた矢吹が全日本新人王を獲り逃す中、
戸谷がダークホース的に全日本新人王の肩書と、日本ランカーの栄冠を勝ち取った。
矢吹と戸谷、どちらも驚きの声が聞こえる結果だった。
 

翌年、日本ランカーとして中日本のリングに帰って来た戸谷。
この時点でトーナメント中に5回戦の試合で1勝を挙げていた為、A級まであと1勝。

6回戦のリングで待ち受けていたのは冨田との3度目の対戦だった。
10戦5勝3敗2分…4回戦で10試合を消費し、この日が初めての6回戦となった冨田。
前の戸谷vs冨田の二試合を知らなければ、
戸谷に首尾よくA級の資格を得させる試合のようにも見えたかもしれない。

試合は2Rにダウンを奪った戸谷が明確な判定勝利。
しかし、後半に追い上げた冨田…マイジャッジは57-56の1P差。
二人の差はほんのわずか…
そのわずかな差が日本ランカーとB級ボクサーの立場を隔てていた。

とは言え、これで戸谷は冨田に3勝。
完全決着となった形で、戸谷と冨田のライバル関係に終止符が打たれたように見えた。
 

次戦に組まれたのは、2015年の中日本新人王戦で敗北していた矢島とのリマッチ。
デビュー4連敗からスタートした矢島だったが、戸谷との試合を含んで引分を挟みながらの6連勝。
A級ボクサーへと駆け上がっていた。

初戦は4回戦の負け越しボクサー対決だった二人が、お互いに大きく出世してリングで相まみえる。
この試合は、ひたすらに距離を潰した矢島が判定をさらっていく…。
あまりにも際どい試合、「戸谷が勝っていた」という声も多く聞こえた。

判定の瞬間、勝利を確信していた戸谷コーナーは、戸谷の腕を上げてリングを一周。
勝者は戸谷だとアピールしてリングを降りた。

反面、矢島は判定の瞬間、崩れるように歓喜の号泣。
「デビュー4連敗しても、日本ランカーに勝てるってことを証明できました。」と
こちらも自身の勝利を疑わず。

マイジャッジは戸谷。
しかし、どうとるかで割れるべくして割れた試合…。
ジャッジ席に誰が座るかの運に委ねられた試合だったと思っている。
 

二人は、4か月後の2017年12月に再戦のリングに上がる。
日本ランカーの戸谷に勝利し、日本ランキングを手に入れた矢島。
負けはしたもののランク落ちは免れた戸谷。

二人のリマッチは日本ランカー対決として行われた。
この試合、2-0ながらはっきりとした勝利を収めた戸谷。
矢島との3度目の対決でようやく勝利を挙げる。

当時は矢吹がまだフライ級にいた頃。
中日本の二人のライバル、矢島と冨田を下し、
中日本の国内戦線のライトフライ級ではトップに立った形。
 

満を持して2018年、戸谷が敵地へ飛び出していく。
相手は元世界ランカーの榮 拓海(折尾)
中日本のトップと西部日本のトップが雌雄を決する試合。
0-3の判定で落とすが、この試合もまた、「戸谷勝利だった」との声が聞こえる接戦。

ミニマム/ライトフライでの実績豊かでネームバリューのある榮に善戦し、戸谷が一気に知名度を得た。
全日本新人王の時と同じく、敵地でその名を上げる。
 

そんな戸谷に千載一遇のチャンスが転がり込む。
日本ライトフライ級王者久田 哲也(ハラダ)への挑戦。

「久田がKO勝利が欲しくて戸谷を呼んだ」
そんなふうにも囁かれた試合だった。

これまで、そういった予想を裏切り続けた戸谷だったが…
ダウンを奪われての大差判定負け。
KOこそ免れたが、日本王座の頂の高さを痛感させる試合だった。
 

戸谷はホープと言われる存在ではなかった。
試合が派手なわけでもなく、戸谷が日本ランカーとなったことに驚きの声もあった。

全日本新人王決定戦では試合中に相手が怪我をしたこともあり、
たまたま取れた日本ランキングなどと言う人もいたし、
全日本新人王のあとは中日本の低いレベルで戦っているだけ…等と言う辛辣な言葉も聞いた。

しかし、九州で榮との善戦を演じた後、そんな言葉は一切聞かなくなった。
戸谷がその力を、日本ランカーとしての立ち位置を、相応しいものとして自分自身の拳で認めさせた試合だったと思う。

最初からそんな選手だったわけではない。
コツコツ来た戸谷だからこそ…。
最初のタイトル挑戦は叶わなかったが、この先きっと…。
 

そんな中、戸谷引退の報が入る。
まさか…コツコツ型の戸谷が、タイトル挑戦失敗でリングを去るとは想像がつかなかった。

「硬膜下出血」

日本タイトル戦後にそう診断され、もうプロのリングに上がることが叶わなくなった末だった。
 

引退式では、母と、彼女と、蟹江ジムの女性マネージャーがリングに上がり、最初に女性マネージャーがマイクを取る。

チームワークを掲げる蟹江ジム。
それぞれの結びつきは強く、その中心に彼女がいるように思う。
自分のジムが蟹江みたいだったらいいのに…そんな選手の愚痴もよく聞く。

戸谷の歩いた道のりは、チームで歩いた道のりだった。
引退する戸谷に向けた手紙を読み上げるマネージャーに、それを強く実感する。

マネージャーのマイクが終わり、戸谷にそのマイクが渡る。
 

戸谷 彰宏 引退式挨拶 –全文–

蟹江ジム所属の戸谷 彰宏です。
本日はこのような場所に皆様来ていただきありがとうございます。
自分は中学生の1年生の時から蟹江ジムにお世話になっており、10年ほどボクシングをやって来ました。
そんな中、会長をはじめ、美紀マネージャーなどの方々に色んなアドバイスをいただき、
ここまでやって来れました。

美紀マネージャーは毎日毎日練習をサポートしてくれ、その後の体のケアも…
いろんなことをサポートしていただき本当に感謝しかないです。
本来であれば、もっと続け、ベルトを獲って恩返しする予定でしたが、
急にこのような症状になってしまい、本当に申し訳ないと思っています。

ここまで支えていただいたことに感謝しています。
本当にありがとうございました。

そして、お母さんは、お父さんが亡くなり、一人で自分をここまで育てていただき
試合前の減量食など大変なことも、何も言わず…
ご飯など作っていただいたことに本当にありがとうございます。

それに、他にも、試合があるたびに皆さんスパーリングなどを支えていただいたり
周りの方が試合を見に来ていただいたり、本当に周りの人には感謝しかないです。

これからはボクサーとしては終わることになったんですけど
次の第二の人生にも、皆さんの応援の声を忘れずにいます。
本当に今までありがとうございました。

——
 
 

戸谷が日本ランカー。
未だに何かしっくり来ない。
いいとこは全部敵地でやった選手。

僕の節穴のような眼は、戸谷が日本ランカーになるなんて見抜くことはできなかった。
だからこそ今、4回で戦う全ての選手に夢を見れている。

この選手はきっと日本ランクだとかには届かないだろう…なんて思いを、
「いや…戸谷がいた、冨田がいた、矢島がいた」
そんな思いがかき消していく。
 

戸谷とそれを取り囲んだライバルたちが、全ての4回戦を輝かしく見せてくれる。
戸谷が残した結果は、僕のボクシングへの価値観のコアの部分を強く支えてくれることになった。
彼がいなかったら、僕の中のボクシングはこれほど輝いていない。
 

テンカウントゴングは嗚咽を我慢するのが精いっぱいで…
その場にうずくまってしまい、その姿を目に焼き付けることはできず。

でも、冨田との…矢島との戦いは、目に焼き付いている。
だから、充分。
 
 

戸谷 彰宏へ

ありがとう。
あなたのお陰で、ボクシングがこれまでの何倍も何倍も面白くなりました。
ボクサー達がこれまで以上に好きになりました。
僕の中のボクシングを輝かせてくれたボクサーです。

お疲れさまでした。
 
 

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