2018/9/24 -武田テバオーシャンアリーナ- ファイナル(中日本ボクシング観戦記) ボクシング選手名鑑ピックアップ!
■WBO世界フライ級タイトルマッチ
【フライ級12回戦】
木村 翔(青木) vs 田中 恒成(畑中)
WBO世界フライ級王者
木村 翔 20戦17勝(10KO)1敗2分
WBO世界フライ級1位
田中 恒成 11戦11勝(7KO)
いよいよこの日のメイン。
全国から集まったファンの中、挑戦者の田中が先に入場。
「I was born to love you」が流れ、轟くようなファンの声援が響く中の入場。
田中の地元開催、応援で負けられないなんて空気もあり、その熱はこれまでの田中の入場で一番にも思える。
続いて木村が竹原ピストルの「Forever Young」で入場。
こちらも東京から駆け付けた応援団の声援は大きい。
ゴングが鳴る前にリング外の熱の高まりは激しい。
会場の高揚の中、国家の斉唱があったと思うが、起立を求められ立ったことは覚えているものの
僕自身が高揚し過ぎて、これを書いている今となってはその記憶さえ曖昧になっている。
1R、ゴングが鳴ると試合は二人のジャブの刺し合いから始まる。
ブルファイターのイメージの強い木村だが、スピードもすさまじく、田中にひけをとらない。
田中が左ジャブから左ボディを突き刺せば、木村は右ボディを突き刺し、
ヒヤリとするアッパーをガードの上に打ち込む。
木村を中心に弧を描く田中のステップだがその距離は近く、お互いにコンビネーションを叩き込む。
右ストレートを突き刺した木村、木村の飛び込みに左フックを合わせた田中…強烈なKOシーンも頭を過ぎる。
ラウンド後半はジャブを中心に手数で上回る田中、強烈にボディを突き刺す木村…
最初の3分から試合は際どく、スリル満点の展開。
2R、ジャブからのコンビネーションで一気に手数を増やしていく田中。
木村のガードは固く、そのほとんどを弾くも全ては防ぎきれず、
連打で崩したガードの隙間に田中がパンチを差し込んでいく。
しかし中盤、田中の連打が一旦落ち着いたタイミングで木村が左フックで田中を捉えると
続けて強烈な右ストレート、さらにボディからの左フックで田中の顔面が弾け飛ぶ。
ここからビッグパンチの応酬となる二人…一歩も譲らぬ中、
木村の左フックの撃ち出しに合わせた田中の鋭い左のショートフックで木村が膝を折る。
ロープに詰めて襲い掛かる、田中…木村の顔面が田中のパンチに襲われる。
木村はガードを固めながらも手を返し、ラウンド終了のゴング。
木村…あわやの窮地を脱出。
3R、明らかにペースをつかんだ田中が木村のパンチを外しつつ、コンビネーション豊かに木村を捉え、
強烈なカウンターを交えながら木村の顔面を襲っていく…。
しかし、木村は足を前に進め続け…ラウンド中盤には左フックをカウンターで浴びせてペースを引き戻す。
お互いに強烈なヒットを奪い合いながらではあるが、木村の圧力は増し続け、
ラウンド終盤、前のラウンドのピンチが嘘のように、まくる勢いでこのラウンドを終了。
4R、木村が固いガードから田中のボディを襲うシーンが目立つ。
田中も右ストレートからスイッチして左ストレートを叩き込むなど、世界最高峰の技術を見せる。
二人は頭を付けて、力のこもったパンチの応酬…木村の土俵で田中が押し返すシーンさえある。
ペースは五分五分の展開に引き戻される。
5R、頭を付けて撃ち合う二人…序盤、田中がグイグイ木村を押し込んでいく。
木村が最も得意とする場所でも田中が上回るか…しかし、ラウンド中盤に差し掛かると
木村がどんどん手数を増して田中を捉えていく…田中は合間合間に強烈なボディを差し込んで対抗。
しかし、ペースは木村のモノ…やはり、撃ち合いになれば木村もまた世界最高峰の技術者の一人。
ラウンドの最中に主導権はコロコロと入れ替わる…この時点でさえ、見ている者の採点はバラバラだろう。
6R、このラウンドも真っ向から撃ち合う二人。
木村のボディが強烈に田中を捉え、どんどん手数を増していく…。
逆に田中はこれまでと比較して手数が減ったか…カウンターで木村を襲う田中だが…
ペースが木村に傾いてきたようにも感じる。
7R、頭を付けての撃ち合いは続いていくが、サイドに動く頻度が増えた田中。
互角以上に木村と撃ち合っていく…しかし、ラウンド中盤、木村の右フックにグラつく田中。
下がらずにそのまま撃ち合っていくも…またもや木村の右フックで崩れた田中。
キャンバスに手を突いたか…レフリーは割って入りスリップのポーズ…。
何が起こったか…会場では安堵とどよめきがまじりあった声が上がる。
ダウン…スリップ…二人の速過ぎる攻防に何が起こったか判断がつかない。
8R、ステップを踏みながら、木村の周りを旋回しながらパンチを突き刺し始めた田中。
激しい出入りを見せながら、撃ち合う所ではしっかり撃ち合う。
ラウンド終了間際には木村の連打をことごとく外していく田中…。
リングの上でダンスを踊るような美しさを魅せる。
9R、木村の撃ちたいタイミングにそこにはいない田中。
近い距離でもサイドに動きながら、強烈にパンチを撃ち込んでいく。
木村は手数を減らしてしまう…腫れて塞がった右目…距離もつか
みづらい状況か。
それでもラウンド終盤には力のこもったコンビネーションで田中を捉える。
10R、序盤から一気に圧力を強めた木村が田中の顔面を跳ね上げ続ける。
このラウンドは木村が手数でもヒット数でも田中を上回るか…。
田中のサイドの動きについて来れていなかったように見えた木村がここに来て逆襲に…。
11R、今度は田中が足を前に進める…。頭を付けての真っ向ファイト。
シーソーゲームはボクシングから殴り合いへ発展…。
撃ち合い身上の木村を田中がグイグイ押し込み、ボディを効かせて攻め立てる。
木村もラウンド後半に向かうにつれ強烈に田中を襲い試合の流れを引き戻す。
12R、最終ラウンド、抜群のスタミナと馬力を誇る木村が前に出る。
お互いに右クロスを連続で合わせあう
田中の右に木村の右ストレートが突き刺さり、崩れ落ちそうになる田中。
しかしその数秒後にはアッパーを空振りした木村が、ヨタヨタとふらつく。
両者限界に近い状況…くっつき、最後の力を振り絞ってボディに連打を繰り出す木村。
込めれる限りの力を込めても、弱弱しくさえなってしまったそのボディブロー。
田中も限界か…手がなかなか出なくなる。
しかし試合終了間際には、お互いの顔面が弾け飛ぶような撃ち合いを見せてラウンド終了のゴング。
どのラウンドをどうとるか…。
全く判定が読めない…。
マイジャッジは114-114でドロー。
採点が発表される。
「114-114…」
会場がどよめく…。
「115-113…」
「116-112…」
ドローではない…2-0か…
どっちだ…。
「勝者…」
「WBO世界フライ級新チャンピオン…」
周りの席、みんなで立ち上がり両手を突き上げる。
歓喜の叫び声の中、田中恒成の名が読み上げられる。
その直後…恒成サイドの観客席から「木村コールするぞ!」の声が上がる。
ここでは数人の木村コールに終わってしまったが…
勝利者インタビューの中、田中の「木村チャンピオンに最高の拍手を送ってください」で
改めて木村への拍手が送られた。
地元で田中恒成を応援するファン、みんなが試合の最中には木村の偉大さに気付いていたことだと思う。
木村翔と言う偉大なチャンピオン、そして、そんなチャンピオンと真っ向から撃ち合った田中。
試合中、田中ファンから何度も「どや!田中恒成どや!」なんて嬉しそうな顔で言われる。
“俺たちの恒成がすげぇ試合をしているぞ”なんていう嬉しさが抑えきれないその言葉に羨ましくなる。
ずっと身近で応援してきたファンの言葉。
この試合の素晴らしさについては、各方面で叫ばれているので、ここであえて書くこともないだろう。
試合の素晴らしさにただただ震えた。
試合後、全国から集まったファン10名ほどでお酒の席。
とにかく楽しくお酒を飲んだ。
ファンそれぞれが独自の世界観を持つボクシング。
多様性が奥深さを産み、幅広さから見ている角度もバラバラ。
見ている者も、戦っている者も人間であり、どこか生臭い部分を抱え、そしてそれぞれの美学もある。
たまにはぶつけ合ったり、全部忘れ去って笑ったり。
混沌としたボクシングという競技を見つめる中で、ただただ目の前の試合に一喜一憂する面々。
違える意見はあれど、最高の理解者同士でもある。
久々の泥酔をぶちかまし、帰宅したときにはなぜかズボンを履いていなかった…。
翌日、エレベーターの中で発見されたズボン…玄関を入る前に脱いでしまったようだ。
とにかく楽しかった。
翌日の酒の残った頭でボーっとする頭の中、この試合が年間最高試合候補として挙げられているが…。
太田 アレックス(西遠)vsマンモス 和則(薬師寺)と…
激戦と言う意味ではどちらが上だっただろうか…なんて考える。
ボクシングのクオリティなんかで行けば、世界最高峰の田中vs木村が当然上回るが…
そこを排除して純粋に激戦として見た場合…。
まさかあの試合に匹敵する激戦が、年内に中日本であるなんて…。
世界戦のひのき舞台として語り継がれていく試合、
しかし、ノンタイトルがメインに据えられた地方興行でも。
毎年毎年素晴らしい激戦が繰り広げられている。
この試合を経て、刈谷やセンチュリーホールの現地観戦のファンが増えてくれればと願う。
生で見るボクシング…本当に最高。
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