2016/03/13 刈谷あいおいホール-ファイナル(中日本ボクシング観戦記) ボクシング選手名鑑ピックアップ!
さて、いよいよこの日のファイナル。
一気に会場の空気が変わる。
みんなが知っている。
昨年の全日本新人王である市村が強い選手であることを。
自分たち期待の水野が…凄まじく高い壁にぶつかろうとしていることを…
■11試合目
【56.0kg契約6回戦】
水野 拓哉(松田) vs 市村 蓮司(RK蒲田)
水野 拓哉…9戦7勝(7KO)1敗1分。
昨年のバンタム級中日本新人王。西軍代表戦で敗北するも、ハードパンチャーの名は鳴り轟いている。
後楽園に行った時、名古屋から来た…というと、「水野ってどうなの?」と聞かれることもある。
唯一負けた西軍代表戦も、水野が勝っていた…という人がいるほど拮抗した試合。
わずかな差で後楽園の舞台への切符を獲り逃していた。
市村 蓮司…8戦6勝2敗 22歳
昨年のスーパーバンタム級全日本新人王。
日本スーパーバンタム級15位。
ボクシングの名門、南京都高校出身。
村田 涼太(帝拳)ら、日本のトップシーンで活躍する選手たちの後輩にあたる。
インターハイ2位の実績は充分アマエリートと言って差し支えない。
全日本新人王MVP…全階級通じて、昨年度、最も優れた新人の評価を得たボクサーである。
来月のボクシングマガジンに堂々と詳細が記載されるだろう、注目のホープ同士が激突するこの試合…。
1R、市村が抜群のスピードを見せつける。
ジャブの3連打は、このレベルのスーパーバンタム級では段違い。
スピード負けする水野だが、ならばとボディを標的に抜群の強打を叩き込んでいく。
勝った試合のKO率100%という数字からは、振り回す姿もイメージしたが、
実際にリングに立った水野は、振りもシャープ。
攻撃偏重ではあるものの、コンビネーションを武器に、着実に相手を崩していく。
2Rには既に市村はボディを効かされたか、市村の腰が浮いてしまう。
しかしそれでも3R、市村が盛り返す。
スピードで水野のパンチの隙間を埋めるように差し込んでいき、何度も水野の頭が揺れる。
技術とスピードでは市村の方が一枚上手。
水野はとにかくボディに重きを置いているように見える。
4R、市村はボディのダメージが隠しきれなくなり、苦しそうな表情。
ガードが下がり、意識が下に行っているところに…
水野の豪快なストレートが市村のテンプルを捉える。
その場に膝から崩れてしまった市村。
レフリーは即座に試合をストップ。
「我らが水野が強い相手に勝った。」
会場は熱狂、目の前の観衆のほとんどが歓声とともに両手を天に突き出す様は圧巻だった。
1Rが終わった時点で市村の強さは、会場にいる誰もが感じていた。
「水野はこの強い相手に勝てるのか?」
ボディで崩しにかかっていた水野だったが、1Rのポイント自体は市村が持って行っていたように見える。
そんな不安を、行けるんじゃないかという空気に変えた、2Rの市村の苦悶の表情。
そして3Rに盛り返された時の、“やはり市村強し”の空気。
そんなやりとりの全てを切り裂いた4Rの豪快なストレート。
まさにそこに立っている水野の姿はヒーローだった。
敗れた市村が、たった3Rと少しで、その強さを知らしめるようなボクサーであったからこそ、
それを倒した水野の姿は際立ってカッコよく見えた。
後から知ったのだが…市村はこの日、1.6kgのウェイトオーバー。
「水野は体重差で不利な試合を勝ち取った」
…っていうのが真実だとは思うんですが。
逆に市村は調整に失敗していたわけで…そんな時のボディはめちゃくちゃ効くわけです。
単純にどっちが有利、不利とは言えず…ただただ水を差されてしまった感が…。
体重超過は批判されてしかるべき失態ではあるけれど…。
全快の二人の戦いが見たかった残念さはあるけれど…。
市村はこの失敗を挽回してほしい。
もしかすると、今回を踏まえてFeにあげたりとかあるのかな…?
もう一度、この二人が戦う姿を見てみたいという思いとは裏腹に…
そうなれば、この二人の戦いは二度と見れない可能性が高い。
市村選手…僕悔しいです。
仕方ないことだとは思うけど…二人の試合が素晴らしかっただけ、余計に…。
僕は試合の余韻に浸りながら、リングを片づけるスタッフの姿を見るのが好きだ。
横で一緒に観戦していた松本 一也(松田)が色々教えてくれる。
「あの人が○○ジムの会長さんで…この人が○○ジムのトレーナーさん…」
自分が好きだったボクサーが隣で解説してくれながら、
様々なこぼれ話を聞き、素晴らしい熱戦が繰り広げられた…なんとも贅沢な一日だった。
松本氏と並んで歩く帰り際、本日のヒーローがファンに囲まれて記念撮影していた。
「これで松田ジムにランクが帰ってきた…」
老舗名門ジムの松田ジムには常に一人はランカーがいた…。
それがつい最近途切れてしまっていたのである。
後輩の素晴らしい戦いにどこか誇らしげな松本氏。
「そうか…こういった目線で感じる感動もあるのか…。」なんて呟いてみる。
少し歩みを進めると日本ライトフライ級王座に挑戦したかつての日本ランカー、
滝澤 卓(タキザワ)が、松本氏に向かって「お疲れさまでーす」とさわやかな笑顔で走り去っていく。
あんなあどけない少年が、後の第22代WBA世界ミニマム級王者、宮崎 亮(井岡)を
殴り倒したなんて誰が信じられるだろう…。
飛びきりの笑顔で対応した松本氏がボソッと…。
「彼…網膜剥離で引退したんですけど…最後のスパーリングパートナー…自分なんですよ。」
…松本さん、僕、なんて言えばいいか解んなかったです。
そして松本氏を家に送り届ける車の中でも、元ボクサーと、
ちんけなボクシングヲタクのボクシング談義は、熱を帯びましたとさ。
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