2025/03/29 -愛知・愛知県国際展示場- 前置き(中日本ボクシング観戦記) ボクシング選手名鑑ピックアップ!

2025/03/29 -愛知・愛知県国際展示場- 前置き(中日本ボクシング観戦記) ボクシング選手名鑑ピックアップ!

 

この春、ある選手の引退の報を聞いた。
九州からやって来る選手が多くいる中日本。
この選手もまた、そんな選手の一人だった。

未経験のまま名古屋のジムの門を叩き、ボクサーとしての基礎から全てをこの地で構築していった。
既にアマチュアや他格闘技などで下地を持ってプロの世界にやって来る選手も多い昨今。
全くの未経験から…いわゆる叩き上げの生存権は確実に狭くなっている。

スパーをやれば、自分の力のなさを思い知り、それでも続けていける選手しか残らない。
この選手もおそらく、そういった場面を何度も乗り越えたことだろう。
時間はかかったがプロテストに合格。

いざプロのリングへ…の場面で、怪我でチャンスをフイにした。
しかし、その時の対戦相手は復帰を待ってくれた。

仕切り直しの一戦がデビュー戦となった。
技巧派選手を12分間追いかけ続けたが…届かなかった。
相手が足を使う選手だからと言って、ダメージが軽いわけではない。
切って落とすタイミングを狙いながら、強烈なプロの拳が襲い掛かる。
練習したディフェンスを巧みにすり抜けて拳が飛んでくる。
そんな中を、猪突猛進で追いかけ続けた。


ボクサーはゲームのキャラクターでも機械でもない。
彼らにも人生がある。
我々と同じく、日常生活を過ごしながら、並行してプロボクサーとしての日々がある。

何年も支えてくれた女性と結婚しようとしたが、
成功の可能性の低いプロボクサーであることがネックになったそうだ。
相手両親の反対を受け、彼は結婚を選び、故郷へ帰ることになった。

ジムの会長は彼をかわいがっていた。
職のあてもなくやってきた彼に職を与え、ボクシングを全うできる環境を作った。
「最後に1勝させてやりたい」
引退の意志を聞いて、なんとか試合を組もうとしたが、かなわなかった。
最後、会長は「追放」という言葉を使って彼を帰した。
会長らしいと思った。

人間として優れた人物ではないかもしれないし、僕は彼の人間を知らない。
ただ、いつも不器用な優しさを感じる。
うまくやれない人、拳闘の世界に生きる人。

 

本当に結婚が理由なのかはわからない。
辞め時がわからなくなるのがボクシング。
何かしらの言い訳や嘘に背中を押してもらって、
プロとしての過酷な日々を脱するのはよくあること。
そうでもしなければ、離れるに離れられないなんていうのは普通のことだ。
プロとしての気持ちが強ければ強いほどそうなったりもする。
人生を賭けたものを手放すのだ。
正攻法でいかないこともある。


人の気持ちのこと、真相はどこまで行ってもわからない。
場合によっては本人にさえわからない。
自分の気持ちが自分でよくわからない、振り返ってみて、こうだったと気付いたりするものだ。

だからこそ、彼が引退の理由とした内容をまっすぐ受け止めて考える。
そうすると、僕は彼がいつか戻ってくるような気がしてならない。
もちろん遠くなってしまった中日本のリングに…ではない。
数年後、地元のリングに…プロのリングに戻ってくるような気がしている。

理由から行けば、ボクシングに燃焼しきった訳ではない。
どちらかしか選べない、人生の大切なものを天秤にかけるしかなく、
ボクシングでない方を選択した。
あきらめはついただろうか…消化しきらないまま辞めて、引きずったまま生きていく。
それはそれはつらいものだったりもする。
ボクシングではないが、僕自身が経験したものだ。


「ボクシングは成功する可能性が低い」

何をもって成功とするのだろうか。
世界王者になったとて、その後の人生を満ち足りて過ごすわけではない。
夢をかなえることと、幸せに生きることはまた別軸だ。

たった1戦、未勝利のまま終わった選手。
ただ、僕はその1戦に心を動かされて、今この内容を書いている。
書かずにはいられなかった。

彼は生涯一度きりの試合で、プロとしての仕事をした。
全てのアスリートは、結果を出し、有名になり、多くの人々に感動を与える。
未勝利ボクサーは多くの人々ではなかったが、その試合を見ていた人に感動を与えた。
少なくとも、僕の心は震わせた。

彼は成功者だ。
プロの世界で、その至高の目的である、人に感動を与えるという仕事をやってのけた。
誰が何と言おうと、僕は彼が成功者だと思っている。


だいぶ勝手なことを書いたが、この先の彼の人生がどう動いていくかはわからない。
僕が伝えられることは「期待せずに待っている」ということ。
何よりも、彼と彼の家族が幸せに生きてくれることが一番の願い。
ただもし、その幸せにボクシングが必要となる日が来たら…
遠慮なくプロのリングに戻ってくればいい。
僕は待っている。いつまでも、待っている。


さて、ここでいつもの前置き。

自分はファンではあるが、熱狂的なマニア程の肥えた目を持ってはいない。
自分より凄いと思えるファンはそこらじゅうに転がっている。
ここに書く内容に誤りが多分に含まれることもある。

先に言い訳をしておきたいわけではなく、そういうものだと言っておきたい。
同じ試合を見ていても、違う感想を持つファンもいるわけで…。
ここに書いたことが正解ではないと…。
それだけは認識した上で、読み進めていただきたい。

 

この日のメインイベントは矢吹 正道(LUSH緑)の世界タイトルマッチ。
彼と初めて会ったときに言った言葉。

「強いだけじゃチャンピオンになれない」

タイトル戦をやるにはそれなりのお金がかかる。
それを出してくれる人がいる、夢を乗せてくれる人がいる。
そもそも、ボクシングをやることを許してくれる家族の理解もいる。
様々な人を、日々の姿やその拳で”その気”にさせていかねばならない。

上述の彼がいつか戻りたくなった時、まわりをその気にさせることができるか…
きっと厳しい道のりだろうと思えた。
ただ、あの日、プロの鍛え抜かれた拳に向かって飛び込んでいった彼の姿を思い起こせば、
その気にさえなれば、成してしまうような気がした。

この日、前座に多くの選手が登場する。
そのうち、世界を獲れるのはいったい何人か。
厳しい世界のこと、0%と言った方が、正解率は上がるだろう。
ただ、それじゃあ夢がない。

叶うか叶わないかの彼らの夢に乗っかり、全身全霊で応援し、ダメなときは一緒に悔しがる。
矢吹だって、世界王者になれるかなれないか…紙一重だったはず。
ボタン一つ違えば、プロボクサーにさえなれなかった可能性もある。

ボクシングは世界タイトルマッチだけじゃない。
ボクサーはチャンピオンたちだけじゃない。
頂点から末端まで、それぞれがそれぞれの夢や目的をもってリングに上がり、
客席にいる人々の胸をうち震わせる。


愛知国際展示場…地方ボクシング興行としては大型のホールで、それぞれの決戦が幕をあける。

 

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