遠い初勝利 北川 仁暉(唯心)① ボクシング選手名鑑ピックアップ! 2020/03/31
2017年6月11日。
3戦3敗の児玉 宏紀(タキザワ)が初勝利を目指したリング。
対角のリングにいたのがデビュー戦の北川 仁暉(唯心)だった。
序盤、突進する児玉をアウトボクシングで捌いた北川。
がむしゃらに詰める児玉に対し、丁寧に丁寧に足を使ってジャブを突き、
しっかりとパンチを合わせていく。
はっきりと北川が主導権を握ったように見えた3R…。
児玉の起死回生の右ストレートが突き刺さる。
フットワークを怪しくした北川…勢いに乗った児玉を抑えきれない。
最終ラウンドには北川のジャブに対してクロスのタイミングをつかんだ児玉。
児玉の接近を止める武器を失った北川は、後半2Rを失ってのドロー。
あと僅かに迫ったデビュー戦勝利を、一瞬の攻防でスルりと獲り逃す。
リングの上で、もがきながら、あがきながら、勝つことに挑み続ける…
そんな北川のボクサーズロードの幕が開けた試合だった。
それから4ヶ月。
岐阜でプロ2戦目のリングに挑んだ北川。
対戦相手は加藤 道哉(岐阜ヨコゼキ)。
戦績は1戦1敗、がっちりとした体の強さに特徴のある選手だった。
この試合も前半、綺麗なアウトボクシングを見せた北川。
2Rを終えた時点でポイント的には互角か…しかし、ペースとしては優勢に見えていた状況。
後半に入った3R…北川は突如撃ち合いに身を投じる。
丁寧なアウトボクシングとは裏腹に、撃ち合いの回転はそれほど良くないように見えた北川。
展開は劣勢となる中…最後には意地のワンツーで加藤を揺らすものの…。
後半2Rをはっきりと失っての敗戦となった。
翌年の2018年4月15日。
北川と加藤は再戦のリングに上がる。
この試合…。
アウトボクサーだと思っていた北川がラウンド開始とともに撃って出る。
過去2戦はいずれも撃ち合った場面で不用意なパンチを貰い、流れを持っていかれてしまった。
近い距離に課題がある…そう感じていただけに、
北川がいきなり仕掛けることは全く想像していなかった。
思わぬ試合の幕開けに驚きを隠せない。
北川が見せたのは、体に刻んだようなコンビネーション。
どれだけ繰り返したのだろうか…前の試合でも片鱗は見せたが、前回とは明らかに見違える。
しかし…まだまだ成熟していない北川のファイト。
狙いすました加藤の強烈なパンチをもらうシーンも目立つ。
そんな中…1R終盤間際、加藤の肩越しのオーバーハンドを痛烈にもらってしまい北川が膝を着くダウン。
立ち上がってなんとかこのラウンドを乗り切る。
2R開始直後も一気に撃って出た北川。
意地の再戦はド突き合いになっていく。
加藤はデビュー戦でもろさを見せている…決して撃たれ強い選手ではない。
北川は強烈な右の撃ち下ろしをきっかけにコンビネーションで加藤を捉えたが、
力を込めて振るう加藤のパンチが北川を捉える場面も多い。
残り20秒を切ったころだろうか、加藤の強烈なボディをきっかけに北川が失速を見せる。
3R開始直後から、一気に前進して北川を押し込んでいった加藤。
ロープに詰まって防戦一方になる北川だが、左フックをひっかけてロープを脱出。
さらにコンビネーションを叩きつけた北川だったが…
加藤がロープに追い詰め、北川が脱出する流れが繰り返された後…
コーナーに詰まった北川を、加藤が攻め立て…ここでレフリーが試合をストップ。
デビュー当初、僕が北川に惹かれたのはその丁寧さだった。
足を使いジャブを撃ち、練習で積み上げたものをそのままリングで
吐き出すようなボクシングに強く強く魅力を感じた。
3度目のリングで北川が見せた撃ち合い…。
近い距離が苦手に見えていたこともあり、その選択には驚いた。
しかし、やはり撃ち合いの場面でも丁寧に体に刻んだものをそのままリング上で吐き出した北川。
決して器用ではない、タフさもない、沢山のものが足りない選手。
それを補うように、試合の度に、一つ一つ何かを得てリングに上がってくる。
届かなかった初勝利…コーナーに戻り、人目はばからず涙を流す北川。
きっといつか届くはず…どうか心を折らないで欲しい。
この頃から、北川の姿を思い浮かべるたびにそんな思いに駆られるようになった。
この年の秋、2018年11月23日。
北陸は富山のリングで北川の試合が組まれた。
スーパーウェルター級…誤植だろうか、北川はスーパーフェザー級の選手。
…しかし、対戦相手の坂本 慎介(タキザワ)はウェルター近辺が主戦場の選手。
まさか…目を疑う。
足を使っても、撃ち合っても届かなかった初勝利。
試行錯誤の末、辿り着いた判断は4階級の増量。
体重を増やしたとき、一般的にはパンチ力が増すと言われるが、
それ以上に耐久性を増す選手が多いと感じることが多い。
一撃で試合展開をひっくり返されることも多かった北川。
理には適っているようにも思えるが…これほどの思い切った決断には驚いた。
試合開始のゴングが鳴ると、ベタ足で坂本と対峙する北川。
慎重な攻防の中、1R終盤…北川が強烈な左ボディで坂本を捉える。
効いた素振りの見えた坂本に対し、2R、3R…徹底的なボディ攻めを繰り返していく北川。
愚直にひたすらに、勝ち筋を徹底的に貫き…ついに坂本がリングに膝を着く。
数え上げられるテンカウント…
大博打とも思える決断で、ついに遠かった初勝利を手に入れた。
初勝利が選手に与えるものは大きい。
自信やモチベーション、そういったものから、一気に実力と勢いを得る選手もいる。
着々と力を付けて来た北川が、ここからジャンプアップする予感も充分に感じることができた。
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