2024/3/16 -愛知・ポートメッセ名古屋・第3展示館- 前置き(中日本ボクシング観戦記) ボクシング選手名鑑ピックアップ!

2024/3/16 -愛知・ポートメッセ名古屋・第3展示館- 前置き(中日本ボクシング観戦記) ボクシング選手名鑑ピックアップ!

 

人は時間があると余計なことばかり考えるもの。
中日本ボクシングのオフシーズン、1月、2月は毎年だいたい確定申告に追われている。

離婚し、多少遊ぶようになった。
相変わらず時間には追われているが、集中する時間は減った。
確定申告が終わったとき、僕の一番苦手なモノ…暇が襲って来た。

やるべきことはたくさんある。
ただ、気持ちがノらない。

ボクシングの事に関しても、「家族の為」に繋がっていた。
少なくとも自分の中では、そこは繋がっていた。
だけど、その家族がいなくなった今、モチベーションの大きな部分を失った。

めっきり腰が重くなり、ボクシング選手名鑑の更新なども、
とりかかるまで時間がかかるようになった。
10年を迎えようとするボクシング選手名鑑、最大のピンチだった。

切り替える為にどうしたらいいのか、自分の心をどうコントロールすればいいのか。
僕の状況を察してくれる人たちが何人もいた。
彼ら、彼女らが、時に意図して、時に意図せず、支えてくれた。


自分の人生を見直したい。
今しかチャンスはない。
恐らく僕は再婚する。
「誰かのために」がない人生には耐えられない。


樋口 藍(一力)を見ると思い出す女性がいた。
約20年前に一緒に暮らした女の子だった。
僕のワガママな部分を一番知っている人のように思えていた。

生活を成り立たせるために、自分を抑えていた頃じゃない。
きっと前の家族より、僕のことを知っている。
彼女に会いに行こう…。

 

当時、彼女はまだ女子高生だった。
卒業したら中部美容専門学校に行く…。
春から名古屋で一人暮らしをするから少し不安なんて話をしていた。

僕はそのころ、金山総合駅南口の路上ミュージシャンたちとよく遊んでいた。
バンドマンだった僕は、自分でもライブイベントを企画していて、
出演してくれるミュージシャンを探し回っていた。
そんな中で出会ったレトロメロキックというバンドが人気で、
そのファンに中部美容に通う4人組がいた。

「中部美容なら知ってる子がいるよ!名古屋に来たら金山においでよ、紹介するわ」

そんなやりとりをかわしていた。


春が来て、そろそろその子が名古屋に越してきたかな…なんて日を見計らって連絡を入れた。

「今、金山にいるからおいでよ」

彼女は飛んできた。
初めての一人暮らしの不安や寂しさもあったと思う。
知り合いのいない名古屋で、初めてのイベント発生に
「よっしゃ!ほんとに連絡来た!」と思ったそうだ。


その日は確か、中部美容の女の子たちは来ず、空振りに終わった気がする。
ただ、自分の仲間たちを紹介し、彼女の状況を説明し、
「遊んであげてよ」なんて言って繋げていった。
単純に、この子が名古屋での生活を楽しく過ごせたらいいなって思いだった。

彼女と過ごす時間は思いのほか楽しく、気が付けば終電がなくなっていた。
「始発まで漫画喫茶でも行く?」

二人で個室に入った。
彼女は、知り合いの元カノだった。
だから恋愛対象でもなく、まったく意識もしてなかった。
向こうもそれはわかっていたと思う。
だから、ふざけて「キスしちゃおっか」なんて軽口も平気で叩けてた。

ただ、あまりにも楽しそうにする彼女と、狭い部屋で二人きり。
完全に雰囲気に流されていた。
密室での「キスしちゃおっか」の言葉に彼女が見せた顔は、それまでとは違った。

気が付けば、本当にキスしていた。止まらなかった。
始発に乗って、一緒に彼女の家に向かった。

 

その頃、家賃が払えずに住むところを失っていた自分。
バンド仲間の家を転々とし、寝床が見つからない日は公園で眠る。
ライブの打ち上げに呼ばれてはひたすらに場を盛り上げてタダ飯にありつく。
そんな生活をしていた。

彼女との関係は一回キリかな…なんて思っていた自分。
昼過ぎに目が覚め、そろそろ、どこかに行こうか…ライブハウスを巡るか、また金山に行くか…。
部屋を出る準備をし始めた僕に「うちで暮らせば?」と言った彼女。

準備を取りやめ、二人でまた、金山総合駅に向かった。
その日、中部美容の女の子たちと彼女をひき合わせることができた。
彼女の家に帰り、また彼女の部屋で眠った。
気が付けば同棲生活が始まっていた。

 

中部美容の女の子たちと彼女はみるみる仲良くなった。
自分がひきあわせた関係で、彼女の世界が広がっていくのが嬉しかった。

練習台としていつも僕の髪を切ってくれていた。
身なりに未頓着な僕の服をコーディネートしてくれた。
あの当時が一番モテていた気がする。
バンドの人気もその頃がピークだった。

僕を一番輝かせてくれたのが、彼女だった。

「私、せきちゃんの顔も性格も全部好き、でも肌が汚いのだけは許せない!」

無邪気なそんな台詞が耳に残っている。

自転車を二人乗りで走った大須商店街。
ケンカしながらもよく行ったパスタ屋。
好奇心旺盛な彼女がファッションショーのモデルとしてダイヤモンドホールに立った時の可愛さ。
バイト先のたこ焼き屋の前を通りがかったときに見かけたかいがいしく働く姿。
周りに自慢したくなる、明るくて可愛い彼女だった。

でも、二人の関係は秘密だった。
「バンドがあるから」と嘯いてはいたが、彼女の元彼が知り合いというところが引っ掛かっていた。
いつも二人で一緒にいる、だけどただの仲良し…そういう設定だった。
なんとなく周りには友達以上恋人未満と思わせる。
秘密にする限り満たされることのない独占欲をそうやって補っていた。


お互いに、自信がなかった。
可愛くてみんなにモテる彼女に対して、卑屈な気持ちを抱える自分。
「寂しがり屋の彼女にとって自分が一番都合のいい位置にいるだけ。」

ステージ上で人気者になっている自分に対して、彼女は「私はお飾り」と思っていたそうだ。


好きな気持ちを真っ直ぐぶつけることもなく。
皆の前のじゃれあいで、ふざけたふりをしながら
「愛してるよ!」なんて言うのが精一杯だった。


知り合いが元彼。
略奪愛ではなかったものの、関係が知られる前に別れた方がいい。
なんとなくそう思い込み、好きになればなるほど、いつか訪れる別れが頭をよぎり
好きじゃない…と自分に言い聞かせるような日々になっていった。


「私は寂しがりだから連絡がないとか耐えられない」

常々彼女はそう言っていた。
所用で三日ほど実家に帰ったとき、僕は連絡をさぼった。
いつか別れなければならない人と一緒にいるツラさから、
ひと時だけ、逃げたような感覚だったと思う。

怒った彼女から連絡がきた。

「私、今誰といると思う?」

元彼だった。
今なら何となく彼女の気持ちもわかる。
好きだったからこそ、振り向いて欲しくて、こちらに一番ダメージを与えることをした。

愛されていた。
僕は間違いなく愛されていた。

でも、当時の僕はそんな彼女の気持ちに気がまわるわけもなく…終わりを決めた。

荷物だけ取りに行く…。
そう言って訪れた彼女の部屋。
僕の荷物は、大サイズのゴミ袋1つに収まるだけしかなかった。

完全なヒモだった、ずっと依存していた。
好きだった…けど、それに対する努力は何もしなかった。


荷物を抱えて部屋を出ようとしたとき、ずっと怒った顔をしてた彼女の顔が崩れた。
ワンワン泣き出した彼女に、かける言葉もないまま玄関のドアを閉めた。

 

楽しかった思い出は、ずっと宝物のように胸にしまってあった。
リングで活躍する樋口を見て、当時をよく思い出すようになっていた。
彼女は今、美容師になっている。

何年かぶりに連絡して、趣旨を説明した。
離婚して、新しい人生を進みたい。
自分がどんな奴なのか、よくわからなくなっている。
当時の僕がどんなだったか教えて欲しい。

僕のワガママな頼みを、何でも受け入れてくれた当時と同じく、彼女は受け入れてくれた。
当時の思い出話、別れた後の話、今、彼女がどれだけ家族を愛しているかの話。
色んな話をした後、翌月に髪を切ってもらう約束をした。


1か月経ち、彼女の自宅に構えられた美容室に行った。
彼女が僕に触れるのは、あの頃、一緒に暮らしてた頃以来。
あの頃とは違って慣れた手つきで僕の頭を触り、髪の癖を確かめる。
どこか懐かしくも、新鮮でもあった。

焼けぼっくり…みたいな期待は微塵もない。
「夫は絶対に守ってくれる人」
そう言う彼女を見て、幸せになってくれて本当によかったと思った。

あの頃、叶えたい夢があった。
僕はあの頃からどう変わっているのだろうか。
衝動的に行動し、周りを驚かせ、人気者になっていた若かりし頃。
…今もそうたいして変わらない気がした。

もう夢なんてなくなったって思っていた。
でも、よくよく考えて見たら、自分はまだ夢に向かっている気がする。
あ…そっか。

頑張っていた彼女が今、幸せに生きる姿を見てよくわかった。

「頑張る奴らが報われる世界」

駆け出しのボクサー達を、結果がついて来ないボクサー達を、必死に応援している自分。
あの頃、この子を見ていたからだと。

一生懸命、明るく、毎日を頑張っていた彼女が幸せになることを願っていた。
だから、別れの時も少しほっとした…自分じゃだめだと思っていたから。
幸せにしてくれる人に出会って欲しい気持ちがあった。

僕は何も変わってない。
頑張る奴らが報われて欲しい…そればかりだ。

 

夢を叶えた彼女と、未だ夢半ばの自分。
切ってくれた髪は、自分によく似合っていた。
彼女がやっぱり僕を一番知ってくれている。

切ない別れのシーン、その20年後、別々の道を歩む二人が、鏡の前で少し照れくさそうに笑っている。
まるで映画の中のラストシーンにいるようだった。
やっと、僕の人生で一番の恋物語が終わりを告げた。

その後、近くに住んでいるという中部美容の4人のうちの一人を呼び出した。
あの頃繋げた二人の関係は未だに続いていた。
彼女の幸せに、少しだけ貢献できた気がした。

これだと思った。
自分の存在が、やったことが、少しだけでも誰かの幸せにつながればいい。
人間どうせ死ぬ、最後は何も残らない。それでいい。
自分の最後には何もいらない。
ただ、誰かが最後に思う「よかった」に自分の生きた意味を残したい。

「誰かのために生きる幸せを知ったら、もう自分の為になんて生きられないよね」
僕のその言葉に、母親になった彼女たちは「そうだよね、自分はもういいよね」と返した。

やっぱりそうか…そうだよね。
彼女たちの同調を得て、自分の感覚が決して特別なものではないことを確認した。


自分の夢が何なのか、はっきりと理解した僕は
その翌々日、 LASU BOMU Vol.2 の実況・解説席にいた。

今、目の前の頑張る奴らが少しでも報われるように。
僕がちゃんと見る、そしてちゃんと伝える。
こいつらすげー頑張ってんだぞ!
すんげー素敵な人生を生きてるんだぞ!って叫ぶ。


僕のボクシングに対する立ち振る舞いは、
自分がどう生きていくか、その表現でもある。

推し活なんかじゃない。
自分の為にやってる、報われる選手たちを自分が見たいからやってる。

そして、また、こんな自分を愛してくれる人に出会う。
どう大切にできるか、まだまだ悩みながら生きていく。
選手も友達も誰も彼も、愛しつくして生きていく。


不安定だった心がようやく、中日本のボクシング開幕二日前に固まった。
ちゃんと伝える、この選手たちを色んな人達に愛してもらう。
より覚悟を強くした自分が、選手たちを待ち受ける。

2024年の中日本のボクシングと、僕の新しい人生が開幕した。

 

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