2018/4/1 -大阪天神興行- (中日本ボクシング観戦記番外編) ボクシング選手名鑑ピックアップ!
メインの試合が終わり、慌てて刈谷あいおいホールの階段を駆け下りる。
向かうはJBC管轄ではない…ABCジャパン管轄の大阪天神興行。
これもまたれっきとしたプロボクシングである。
開場が15:00。
この時点が15:00。
せめてメインだけでも間に合えば…。
この日、隣で観戦していた観戦仲間にABCジャパンの話をしていた。
…すると、「一緒に行ってみたい」と。
えげつないマニア魂。
急遽大阪行きを決めたそのマニアと一緒に大阪へ。
新幹線の切符を買い、ますは名古屋へ。
ABCジャパンとは何なのか、コミッションとは何なのか…そんな話をし
実際にJBC管轄のリングを離れて戦うボクサー達の話をする。
焦る気持ちを抑えながら、そんな話をしていると、あっという間に大阪へ。
新大阪駅からタクシーに乗ろうかと思ったが、混雑している。
地下鉄に切り替えて、少しでも近づいてからタクシーに乗ることに。
しかし…降りた駅でなかなかタクシーが捕まらずに時間を消費。
やっとの思いで捕まえたタクシー…。
慌てて会場に飛び込む。
すると…受付はがらんどう。
もしや…。
スルスルと中に入り込むと、メインの大阪天神タイトルマッチで松岡 高史(チーム侍)に勝利した
石角 悠起(大阪天神)が勝利者インタビューの真っ最中。
間に合わなかった…。
一緒に来てくれた仲間に申し訳ない思いを抱きながら、
すれ違った大阪天神ジム会長の山口 賢一(大阪天神)に、間に合わなかった旨を正直に伝える。
別に誰も悪くないのは明らかなのに「せっかく来てくれたのに申し訳ない…」を
繰り返す山口にその人柄を感じる。
せっかくだからと、しばらく待って、今日のヒーロー石角と写真を撮らせてもらう。
…と、下げられているのはラジャダムナンのベルト。
タイ国王者の証である。
これを獲って来れるだけでも凄いことだが、
ムエタイ興行に国際式(ボクシング)を必ず1試合混ぜることとされていた規定が
消えてしまったラジャダムナンのボクシング。
タイトル自体は生きているが、このベルトのレア度は上がってしまっていると聞いた。
このベルト…肉眼で見れるファンはそれほど多くないはずだ。
初めて見たラジャのベルトに大興奮。
さらに中村 優也(TOP STAR)にも写真を撮らせてもらう。
この日、1RTKOで勝ったらしい中村は、相変わらずの神対応。
間に合わなかったことで、チケットを買えなかったことを詫びる。
この興行の選手達は、心底ボクシングを楽しんでいるんだろうな…という感触を受ける。
同時に…やっぱり試合が見たかったという思いに駆られ、悔しい思いも。
落ち着いて改めて会場を眺める。
古い公民館のような造り…時折プロレスの興行などが行われているようだが、
あまり馴染みのない感覚を受ける。
岐阜のじゅうろくプラザは狭い中に客が密集する。
商工会議所は歴史を感じる古さがある。
この狭さと古さを併せたような感覚。
日本の第二都市大阪の興行…とはあまり思えない、もっと田舎の地方興行に近い感覚を受ける。
これはこれで味がある。
その後、山口から食事会の誘いを受ける。
普段なら選手や関係者との距離を縮めすぎないよう断っているが…。
この日は一緒に来てくれた仲間もおり、せっかくだからと誘いを受ける。
一緒に店に向かう際、場所を案内してくれたのは、かつてJBCのリングで活躍し、
その後ABCのリングに立った選手。
タクシーで向かうつもりだったが、時間があるということで、歩いて向かうことに。
30分程の道のり、その選手がどんな道を歩いたかを聞きながらになった。
フライ級でデビューしたが、撃たれ弱さもあり勝てなかったという。
しかし一気に5階級上げることで撃たれ弱さを克服し、自信を得る。
そんな折、所属ジムが分裂。
突然代役として決まった試合に出場したところ、4Rのリングで複数回の減点を食らう。
その中にはプロのリングではかなり珍しい「オープンブロー」の減点も。
普通ではないそんな試合…顛末の真因が大人の裏事情だと知ってしまったとき、引退を決める。
「これじゃあ…勝てるわけがない」
その後、リングから数年遠ざかるが、撃たれ弱さを克服して自信を得たばかりだったこともあり
どこかくすぶっていた思いから、大阪天神ジムで総合格闘技の練習に取り組む。
そんな折にちょうど大阪天神興行として、プロボクシングのリングが用意されることとなり
もう一度ボクシングのリングに上がることを決意する。
勝利を収めた彼はその試合を最後にリングに上がることはなくなった。
「最後はやってよかったと思いますか?」
「よかったですね、最後の試合をやったことで、すっきりリングを離れられました」
ジムとの揉め事、合理性のない規定…
そういったものでJBCからはじき出されてしまったボクサー達の救いともなっているABCジャパンのリング。
そういった意味で、存在価値は計り知れない。
日本にはJBC以外にもれっきとしたコミッションがある。
その事実を「盲目的に認めない」という行為こそ、事実を捻じ曲げた歪曲だと感じる。
食事会についてのことは、ここには記載しない。
元世界王者、偶然居合わせた有名人、日本の某英雄を育てた名トレーナーなど…。
様々な人々が盛り上がる。
真剣に今後のリングをどうしていくかの熱弁や
くだらない下ネタ話が混ざり合い、男達の夜が過ぎていく。
邪魔しないよう、聞き耳を立てながら静かに過ごしてみた。
胸の中では、あの人だ!この人だ!なんて興奮をしつつも、
あまり出しゃばらない方がいいだろう…なんて思い。
山口が突然、突拍子もないことを言い始める。
「今日泊まってくか?」
「海外行こうや!いつ行く!?」
僕は山口と顔を合わせて話すのは、これが2回目だ。
隣にいたボクヲタは、僕と山口が古い付き合いだと勘違いしていた。
人と人の間に敷居を作らない。
この人の魅力も、リングに人を集める要因なのだろうと思う。
帰りの電車もあり、少し早めに切り上げた名古屋のボクヲタ二人はタクシーを捕まえて新大阪に向かう。
大川沿いの満開の桜の下を走り抜けるタクシーで、「来てよかった」なんて話をする。
「今度は一緒に映画のアンチェインを見よう」
元ボクサーが黄色いペンキを頭からかぶって暴動を起こし、精神病院に入れられる実話。
これもまた、ボクシングの生々しい現実だったりする。
ワルからボクシングへ、しかしお涙頂戴の美談とはかけ離れ、
世間となじめないままもがき苦しんで生きたボクサーの生き様と人間関係。
世間が思っている以上にボクシングは脚色されている。
そして、その脚色を守るために時折、実際の悪者とは別のワルモノが創作される。
それは真実とかけ離れていることもシバシバ。
古い時代にさかのぼれば、真偽の怪しいものの数は増え続ける。
専門誌が言ったことが真実になった時代だったからそれで成り立ったのだろう。
これだけネットが発達し、情報が飛び交う中でもその手法は踏襲される。
しかし…脚色のしっぽをつかんで、この目で見てみれば、そこには書かれていることと違う真実がある。
ネットも専門誌も、メディアも…
アテにならないことが解ってきた時代だからこそ、その目で見ることに価値がある。
当事者の話を聞くことに意味がある。
一国一コミッション制の原則を唱える人もいるが、それは真っ赤な嘘か、認識誤りの二択でしかない。
世界王座が少なければ価値がある…これも、真偽は疑わしい。
世界王座一王座時代…そんな時代は無かったのだから、検証のしようがない。
脚色されたボクシングは人を寄せ集めるのにはいいかもしれないが…
それをどっぷりとボクシング漬けにしてしまうのは、生の…リアルなものだと感じるようになった。
何も週刊誌のような暴露ネタを楽しめと言っているのではない。
僕らがテレビで見て、「ボクサーってストイック!」なんて言っている以上に
様々なしがらみや苦しみの中でもがきながら戦っているボクサーの現実は壮絶な部分を併せ持つ。
そこと真っ向から向き合うボクサー達に、様々なドラマが産まれたりする。
リング上の数分間の前後に積み重ねられた、ファンに見えない長い時間。
そこにこそ濃厚な、ボクサーがボクサーたる時間がある。
選手との距離は簡単に縮まる。
縮まってしまえば…たった一つの前座の試合が、一本の映画ほどにドラマチックになる。
その魅力に触れてしまうと…。
名古屋駅でボクヲタと別れ家路。
JBCのリング、ABCのリング。
二つのリングは敵対勢力ではないと思っている。
クラブオーナー制度、マネージメント制度。
選ぶ仕組みが違うだけの話。
そこに用意されているリングも、戦うボクサーも、真っ当なプロだ。
翌週は、東京は後楽園ホールから倉敷へ飛んでの観戦旅行。
次の予定に胸を高鳴らせながら、わずかな疲れを引きずっての帰宅。
布団に入ると、昼間の刈谷での興行が頭の中でリピートされる。
あの選手も、この選手も…。
今日も命を懸けてリングで戦った。
シビアな戦いの敗者は、心のダメージをどう処理するのだろう。
長い一日の最後は、そんなことを考えながら就寝。
松浦 克貴(岡崎)…強くなって帰って来いよ。
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