丸木 凌介(天熊丸木) 【ボクシング選手名鑑生配信表彰 KO賞】(選手紹介) ボクシング選手名鑑ピックアップ! 2022/03/03

丸木 凌介(天熊丸木) 【ボクシング選手名鑑生配信表彰 KO賞】(選手紹介) ボクシング選手名鑑ピックアップ! 2022/03/03

 

違う!そうじゃないだろう!
リングで戦う丸木 凌介(天熊丸木)に向かって、そう叫んでしまったことがある。

イ・ジュンヨン(韓)との一戦。
緑プロモーション主催の日韓対抗戦だった。

緑ジム主催の興行では、よっぽど試合が決まらないとき以外は、
その選手と同等か格上選手が呼ばれるのが常。

アジアから呼ぶ選手も強豪ぞろいだ。
事実この日の日韓対抗は1勝2敗で韓国側に軍配があがっている。
直前の試合では兄の丸木 和也(天熊丸木)が辛酸を舐めていた。

昭和の時代、南米のテクニシャンを泥沼に沈め、日本人ホープの壁となり続けたコリアンファイター。
相手はまさにその時代を彷彿させるような突貫型ファイターで
斧のようなフックを振りながらガンガン前に詰めて来る。

そんな相手をいなしながら、タイミングをずらして撃ち込む
「いかにも性格の悪そうなジャブ」でポイントを集めていた凌介。
このまま行けば、着実に試合を制することができる。

試合中盤、凌介がどこか退屈そうな表情をしたように感じた直後だった。
ぶんぶんと振るう相手の左右フックの弾幕に、凌介が飛び込んで行く。
沸き上がる観客、会場の空気は一気に熱量を帯びていく。

見るからに威力のある相手のパンチ。
凌介が戦うスーパーウェルター級は国内では上から2番目に重い階級。
体重が増えれば増える程、一撃で試合が決まる確率も上がる。

何度も危ないと思えるパンチを浴びながら、
相手の一番得意な土俵に立ち、そのうえでそれを上回ろうとする。
「名門丸木」の看板を背負う男のプライドがリング上で体現されていた。

 

父は中部地区所属のボクサーとして、初めて世界挑戦を叶えた丸木 孝雄(常滑)
この地域のレジェンドの一人だ。

兄の和也は、丸木家の長男として、大きな期待にそぐう才を
持ち合わせたものの、腰の怪我でブランクを作った。

「運がなければチャンピオンにはなれない」

よく言われる言葉でもあり、自分も見ていて心底そう感じることが多い。
様々なものが嚙み合ってこそチャンピオンは産まれる。

逆に運さえあればチャンピオンになれた逸材は沢山いる。
兄 和也もその一人だったと思っている。


そんな強い父と兄だが、無冠。
丸木家にはベルトがなかった。

丸木家最後の砦となった凌介。
家族一丸となってWBCユース王座のチャンスを手に入れ、
凌介は2度目でその期待に応えてベルトを獲得。

名実ともに名門、天熊丸木ジムのエースとなっていた。

 

ジュンヨンとの試合は、後半、一進一退の激しい撃ち合いの末、凌介の判定勝利。
勝利者インタビューで「身内はヒヤヒヤ」と語ったのが印象的だった。

その後、日本王座に3度挑戦。
初挑戦では完敗を喫するも、2度目、3度目は紙一重の戦いを繰り広げた。

 

ボクシング選手名鑑がプロボクシングの生配信を開始した2020/11/29。
奇しくも凌介の父が世界挑戦を叶えた日と同じ日付。

相徳 恒彦(橋口)を迎えてセミファイナルのリングに立った凌介は
「負ければボクサー定年」のしつこく果敢なボクシングを弾き返した。

試合後の勝利者インタビューではその試合に挑んだ胸中を赤裸々にさらした。
3度目の日本王座挑戦で戦った渡部 あきのり(角海老宝石)との再戦を目指して来たこと。
しかし、渡部の引退により、モチベーションを失ってしまったこと。

そんな凌介をもう一度リングに向かわせたのは
「天熊丸木ジムの若いボクサーにカッコいいところを見せたい」という思いだった。

勝利者インタビューの最後、「だからお前らも頑張れ!」と後輩にメッセージを発した凌介。
この映像をYoutubeで見ていたのが、加藤 駿希(天熊丸木)だった。
溢れ出さんばかりのセンスの持ち主だが、デビューから2連敗。
失意の中、引退を表明していたが、凌介の言葉をきっかけに復帰を決意。
現在、4戦2勝2敗まで戦績を引き戻している。
次の時代の天熊丸木の真ん中に立つべき選手だ。

ジムの後輩たちにとっても凌介の存在が大きなものとなっていることが伺える。

 

畑上 昌輝(長崎ハヤシダ)を迎えた2021/07/18。
九州から凌介との対戦を望んで乗り込んで来た。

新人王の同期となる二人。
西部日本新人王決勝で敗退した畑上に対し
凌介は全日本新人王戦まで勝ち上がっている。

この試合、果敢に攻め込む畑上。
勝てば凌介の持つランキングが手に入る。
その畑上を受け止めるように撃たせながら時折反撃を返す凌介。

足を使い、得意のジャブで抑えれば確実に勝利を得られるようにも思える。
しかし、相手の土俵に立ち続ける凌介。
脳裏には6年前のイ・ジュンヨン戦がよぎる。

ただし、あの日と違うのは…凌介に確実にダメージが蓄積されているように見える。
いつの間にか畑上はペースに乗り、凌介をどんどん飲み込んで行く。
絶体絶命の3R、あわやTKO負けかとさえ思えた場面をなんとか乗り切ったインターバル。

兄の和也から「フックを下目に」の指示が出る。
4R、変わらず攻め込む畑上、アッパーでぐらつかされながら
コーナーに下がった凌介がそのフックを一閃。

畑上は背中からリングに倒れ込みそのまま試合は終了した。

 

畑上戦はYoutubeでの投票の結果、ボクシング選手名鑑生配信表彰 KO賞に選出。
2021年に配信された11興行のうち、最も衝撃的なKOシーンと認められた。

 

相手を受け止め、さらにその上を行く。
そんな試合を見せることがある凌介。

この試合がそうだったかと言われれば、
試合後のインタビューからは、相手を格下に見すぎたようにも感じ取れる。

ただし、少なくとも中部圏での試合で、凌介は退屈な試合をしない。
その日、会場に訪れた観客を視界に入れた戦いを見せる。

それを自分は、看板としてのプライドを言葉の端々に感じさせる凌介らしい振る舞いと感じている。

 

看板が地元を出る試合は、勝負の試合。
そんな試合では、凌介は別のボクサーになる。
名トレーナーとしても名を馳せた父のボクシングを全身に注入された男。
背負うものが大きくなれば、モチベーションの心配もない。

蛇足だが、兄の話をするときの凌介は、まるで少年のような表情になる。
勝負の世界でヒリヒリとした空気を醸し出す姿が信じられなくなるほどだ。
セコンドとして入る兄とは心の距離も近い。

そんな兄も、現役を退き、会長職に専念。
セコンド経験は年を追うごとに蓄積されていくもの。
畑上戦は兄とのタッグで演出されたKO劇。
チームとして力を増している。

 

次のチャンスが訪れたときが、最も強い凌介が見れるとき。
凌介の物語が、近い将来訪れるだろう、その日に向かって進んで行っている。

 

2021年度 ボクシング選手名鑑生配信表彰 KO賞受賞試合

 

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