濱口 人夢が嫌いだった(コラム) ボクシング選手名鑑ピックアップ! 2018/01/13

濱口 人夢が嫌いだった(コラム) ボクシング選手名鑑ピックアップ! 2018/01/13
 
 
 

濱口 人夢(市野) vs 深蔵 和希(HEIWA)

僕が勝手に昨年の年間最高試合に挙げた試合。
一年前の自分が見たら…
濱口の試合を褒め称えるなんて、もやもやがとても強くある気がする。
 

なんでもかんでも面白い、面白いと言っている自分にとっても、
やはりボクシングの好みはある。

僕は距離をとって戦う選手が好きだ。
これは青春時代に繰り返した空想が影響していると思う。
僕の当時の体重はデフォルトで50Kg。
身長は168cm。
 

ガリガリだった…。
力もないし、格闘技は好きだけど、喧嘩なんか勝った試しがない。
そんな自分がボクシングに傾倒していったのは階級制だったから。

もちろん憧れたのは47.6Kg以下…ミニマム級。
僕の身長ではかなりの長身になる。

前の手で相手を捌いていき、判定をモノにする…
もしくは入って来たところを斬って落とす。
そんな空想をしながら、誰も見ていない空間でオリジナリティあふれるシャドウを繰り返した。

当時は徳山 昌守(金沢)が全盛期。
彼は僕の空想のお手本だった。
ホールも徳山に憧れたような選手で溢れていた。
 
 

誰かに見られたら恥ずかしい…でも、ボクシング経験のないファンには
誰しもが身に思えのあるシャドウではないだろうか。

空想の中の自分は、ちょうど加賀 聖也(タキザワ)のように懐が深く…
だから、やはり魅力を感じるのは加賀のようなボクシング。
 

そことは対極にあったのが濱口のボクシング。
そして何より、濱口はディフェンスが良くない。
見ていて怖い…そして観客を意識した撃ち合いを繰り返す。

「カッコつけやがって…」
僕の濱口の印象だ。
 

ついでに言えば、ボクシングは一つの勝敗が重い。
だからこそ、撃ち合いをさけて塩試合になることもある。
泥試合になることもある。

両者が必死に勝ちにすがりついたときに生まれる”面白くない”と言われる試合。
それこそボクシングのリアリティであると思っている自分は、そういった試合を心から楽しめる。
試合自体を楽しむというより、選手の「負けたくない」を楽しむ。

だから、勝ちにすがるのであれば、足を踏んだり、頭をぶつけたりっていうのも許容できる。
賞賛するのは違うけれど…でも、実力差を感じてしまったとき、
最後のあがきを見せるのを非難する気にはなれない。

それを抑制するのはレフリーの仕事だ。
彼らさえしっかりしていればいい。

そんな僕のボクシング感からも濱口は対極にいたように思う。
 
 

濱口というボクサーは勝敗とは別のところでボクシングをしているように感じた。
もちろん勝ちたいんだろう。
しかし、それ以上に「魅せたい」という意思を感じた。

僕の肌には合わないボクサーだった。
 

濱口vs深蔵が面白い試合になることは分かっていたし、
この試合はイチオシだと言っていた。
 

ランカー挑戦を繰り返す中で、真っ向勝負に傾倒していた深蔵。
真っ向勝負が身上の濱口…。

ノーランカー同士の対戦、勝ってもランクが入るわけではない。
ただ、両者が意地をかけて、力と力をぶつけあう…面白くならないハズがない。
自分の肌には合わない試合だけれど…面白いと言われる試合になることは
7,8割の確率で確定しているカードだった。
 

だから、両者が撃ち合い始めたときも、まぁ…そうなるよね…と。
しかし…その撃ち合いは延々と止むことはなかった。
気がつけば叫び、涙と鼻水で顔がグシャグシャになり…。

詳しくはこの記事を…
2017/7/16 刈谷あいおいホール-9試合目(中日本ボクシング観戦記) ボクシング選手名鑑ピックアップ
 

僕が深蔵目線で試合を見ていることも解ると思う。
 

この試合が終わってから、頭の中はしばらく、この試合のリピートを繰り返していた。
肌に合わなかったハズの試合。
二人の生き様と呼ぶにふさわしい背中ばかりが浮かんでくる。
 

撃ち合い至上主義。
ボクサーは撃ち合わなければならない…なんて意見、僕はこれは受け付けない。

自分の能力、性格、体格…それぞれに合わせて、勝つための自分のボクシングを手に入れていく。
パンチ力に恵まれなくても、スピードに恵まれなくても…
様々なことを考え、試し、失敗しながら自分のボクシングを構築して強くなっていく。

そうして、いろんな種類のボクサーが産まれ、それがボクシングの奥深さを呼ぶ。
このタイプとやったら、あのタイプとやったら…そんな空想を豊かにしてくれるのも、
そんなボクサーたちの多様性である。
 
 

濱口vs深蔵の脳内リピートを繰り返しながら…ふと思う。
あの観客を煽る濱口の姿は、ボクサーらしい自己主張だったのではないか…と。
 

彼のことを「ハートが弱い」と言ったファンがいた。
確かに…そんな瞬間を垣間見せていた気もする。

“一人じゃ戦えなかった”
ボクサーにあるまじき弱さなのかもしれない。
そんなことを思って「あ!…」と声が出る。

それこそ濱口の魅力だったのではないか…。
観客に歓声を求め、その歓声を背中に撃ち合いに挑んでいく。
殴られる怖さも、相手を殴る怖さも、歓声の中でかき消しながら戦っていく…。

もしかして、そうだったんじゃないだろうか…。
 

ボクサーの腹の内なんか解らない。
でも、そんなドラマを重ねてみたら、濱口の魅力がとてつもなく膨らんだ気がした。
 

試合後、濱口と深蔵の両者ともに引退。
 

あぁ…もっと楽しめたはずだった。
悔やむばかりである。
 

濱口 人夢が嫌いだった。
 

彼は最後の試合、僕のボクシング感ごと捩じ伏せてリングを降りて行った。
多分、一生忘れられないボクサーの一人だ。

彼のボクシングを認めたくない思いは未だに抱きつつ、「あいつは凄かった」と言わざる得ない。
 
 

ボクシングファン…完敗。
 
 

もしいつか、もう一度リングに上がるようなことがあるなら…
ディフェンス磨いてくれよな…怖くて見てらんないから。
 
 
 

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