2019/04/21 -石川・石川県産業展示館2号館- セミファイナル~ファイナル(中日本ボクシング観戦記) ボクシング選手名鑑ピックアップ!

2019/04/21 -石川・石川県産業展示館2号館- セミファイナル~ファイナル(中日本ボクシング観戦記) ボクシング選手名鑑ピックアップ!
 
 
 

【スーパーバンタム級6回戦】
英 洸貴(カシミ) vs レイモンド・バサス(比)

日本スーパーバンタム級16位
英 洸貴 7戦5勝(2KO)2分

レイモンド・バサス 6戦4勝(3KO)2分
 

全日本新人王を獲得して凱旋のリングに立つ英。
各地の新人王との闘いを経たその姿は顔つきから変わっている。
背中にまとうオーラも一回り大きくして中日本のリングに帰って来た。

1R、どっしりと構えながら撃ち終わりに大きな右を合わせるバサス。
英は長い距離を維持しながら、ワンツーを撃ち込んでいく。
相手のパンチをサイドに飛んでしっかりと外しながら、自分の拳を突き刺していた英だったが
ラウンド中盤、バサスの強烈な右ストレートを被弾。
一旦ロープまで後退するも、体を入れ替えて強烈なワンツーを撃ち込んで見せる。

ラウンド終了直前、バサスは頭から飛び込んでボディをえぐる。
 

2R、グイグイ押し込んで来るバサスに対し、ジャブを強烈にヒットさせていく英。
しかし、被弾に全く怯まずに突っ込んで右フックを撃ち込むバサス、
さらに離れ際にも右フックをヒットさせる…。
ラウンド中盤には突っ込んで来るバサスの頭が強烈に衝突。
倒れてもおかしくない角度で英の右ストレートを浴びながら、
びくともしないバサス…圧力は衰えず。
ラウンド終盤に英が右フックから強烈な左アッパー2連打を突き刺す。
 

3R開始直後、ジャブを放った英に対して左右のボディを叩きつけたバサス。
ここは一旦クリンチで流れを止める英だが、かなり強烈。
英は右アッパーでバサスを揺らす場面を作ってやり返す。
さらにバサスが右ストレートの空振りで体が流れたところに強烈なワンツーを突き刺した英。
英の的確さ、タイミングは抜群だが…。
倒しに出ているのか、当たるが故にか攻撃偏重になっているようにも感じる。

ラウンド中盤にはお互いにジャブの相打ちを重ねたところ、
英の強烈な右を被弾しながら、その撃ち終わりに右フックを撃ち込むバサス。
英はそれでも怯むことなくジャブで次々と串刺しにしていく。

ラウンド終盤、英のジャブの撃ち終わりにバサスが右ストレートを返すと
英も右ストレートを突き刺し返し、スリリングなシーンを見せてラウンドが終了。
 

4R、頭の衝突する場面が増えてきたところで英がカット。
ドクターチェックが入るが、そのまま続行。
再開後、バサスの強烈な右フックを浴びる英…視界に影響があるか…。
試合は激しい撃ち合いになっていく…。

カット後足が止まったように見えた英だったが
ラウンド終了直前になって、またしっかり足を使って安全圏から拳を突き刺してみせる。
 

5R開始直後、一気に距離を詰めてボディをえぐるバサス。
しかし、その後は英が綺麗なワンツーを何度も何度も突き刺したラウンド。
バサスは揺れることなく、右のオーバーハンドで英の顔面を弾き飛ばす場面を作る。
あまりも…タフ過ぎる。
 

6R、このラウンドも英がワンツーを的確に、そして危険な角度で撃ち込んでいく。
しかし、バサスはもらいながらの左フックで英の顔面を弾く。
対オーソドックスにいきなりの右から入る…抜群のタイミング。
ラストは近い距離でのファイト。
バサスが猛烈な回転を見せるが、それをかいくぐりながら英がバサスを捉えていって終了のゴング。
 
 

マイジャッジ 60-54 英

公式ジャッジ
60-54×3

3-0 英
 
 

試合は終始、英のワンツーがバサスを捉え続けた形。
サイドに飛んで突き刺さる英の拳は、危険な角度で相手を捉え続けたが、バサスは倒れることはなく…
あまりにもタフ過ぎる…そして、肉を切らせて骨を断つがごとく、
もらいながらのスリリングなパンチを撃ち込んできた。

肩書なしのフィリピン人、4勝2敗。
これほどまでに厄介だとは…さすがのカシミを感じてしまう。
正面からまともに撃ち合えば、食われる可能性が充分にあった相手。
この相手をフルマークで制した英、本来、現段階ならば
よくやったと褒められるべき試合だと感じる。

しかし…英への大きな期待が、「もらいすぎた」印象を強くする。
倒せる時に倒すのは勝負の鉄則。
あれだけ強烈に捉え続けている中、攻撃に偏重したことは
選択肢として間違っていなかったと感じる。

では…英はどうすればよかったのか。
 

答えは…ない。

期待が大きければ大きいほど、完璧を求められる。
しかし、達成できることの中にその瞬間、その瞬間の「ベスト」以上のものは存在しない。

「こうすればよかった」「こうすべきだ」「こうあるべきだ」
期待される選手には様々な言葉が届くだろうと思う。
ただし、その言葉の責任をとれる人間は存在しない。

この先の英が、英らしくボクサーとして成熟していくことを願う。
ここからA級ボクサー…待ち受ける相手、進む道はさらに険しさを増す。

まだ…原石。
輝きを放ち、その名を轟かせるのはそう遠くない未来だとも感じた。
 
 

日本女子フェザー級王座決定戦
【女子フェザー級6回戦】
神成 麻美(カシミ) vs 満田 美紀(姫路木下)

OPBF東洋太平洋フェザー級2位
日本フェザー級1位
神成 麻美 10戦6勝(3KO)3敗1分

日本フェザー級2位
満田 美紀 7戦4勝(3KO)5敗
 

1R、ジャブを突きながらリングを回る神成。
徐々に徐々に圧力で満田をロープへ追い込んでいく。
距離が近づいたところ、神成が詰めると、満田は猛烈なスピードの左右フックで迎え撃つ。
 

2R、やはり詰めていく神成に対し、下がりながら迎え撃つ満田の構図。
ラウンド序盤、右をテンプルに撃ちおろした満田、神成が手を突くダウン。
再開後、前に出たのは神成の方…生粋のファイター、前に出るしか道はない。

コーナーまで追い込んでボディをパワフルに連打した神成。
しかし、体を入れ替えた満田は逆に神成をコーナーに押し付けて
強烈なハンドスピードで猛烈に襲い掛かるもラウンド終了のゴング。
 

3R、ラウンド開始と共に猛烈に撃ち合った二人。
満田の猛烈な回転の左右フックが目を引く。
神成ももらいながら右アッパーを突き刺す激しい攻防。

前回は離れていれば満田の弓を引くような右ストレートが刺さり、
近づけば神成の猛烈なパワーが勝るような展開だったが、
再戦に向けて満田は新しい武器を持ち込んだように思える。

ミドルレンジのあの右ストレートは捨てたか…と感じていたところ
撃ち合いの最中、崩れ落ちる神成…突き刺さったのは、その右ストレート。
2度目のダウン奪取…立ち上がった神成、残り10秒を
満田とさらに激しく撃ち合ってラウンド終了のゴング。

接近戦で猛烈な回転の手数を繰り出す満田。
もらいながらパワフルな一撃を放り込み続ける神成。
 

4R、2度のダウンで圧倒的劣勢へと陥っている神成だが…。
ここに来て満田の手数が減り始める…終始かけられる神成の圧力に削られて来たか。
しつこくしつこくボディを叩き、もらいながらの一撃を繰り出し続けた神成。
ハードパンチャーは、どんな窮地に陥っても、その拳に希望を残す。
ここに来て、満田を上回るラウンドを作ってみせる。
日本王座3度目の挑戦…悲願に向けた女の強さか…。
 

5R、猛烈にボディに連打を叩き込む神成。
しかし、リマッチに挑む意地はこちらも相当なものか…。
下がりながら繰り出す満田の手数が息を吹き返す。
もらいながらの攻撃を繰り返す神成だが…重なる被弾についにレフリーが割って入る。
 

5R 1分37秒 TKO
 
 

新チャンピオン誕生の歓喜に揺れる満田のコーナー。
離れた距離を制した前戦を踏まえ、不利に立った接近戦を補う方向でその拳を磨いた。
新たな武器を手に入れ、そして、試合を決定づけた2度目のダウンは、
1戦目でも目を引いた、弓を引くような美しい右ストレート。

積み重ねたもの、新しく手に入れたもの、それらが組み合わさってこの試合に集約された。
描いた物語の軌跡もまた、その右ストレートと同じく美しく完結した。
ここからまた、このボクサーの新しい物語がスタートするのだと思う。
西日本のボクサーであることもあり、この先の物語を続けて見ていくことができないのが残念だ。
 

試合後、リングを降りた神成は何か懐かしい場所を眺めるようにリングを眺め、
応援者たちが待つ入り口の方へと歩みを進めた。
その胸中を知ることのできる人間などいない。

前へ行くことしか知らぬファイターが、突き進み続け、跳ね返されたタイトルの壁。
挑み、散り、そしてまた立ち上がり…。
そこにあったのは男子の王座と同じく、ベルトを求め合うボクサー同士の熾烈な殴り合い。
そこを巡るボクサーの渇望に、優劣はない。

女子ボクシングという勝負の世界を、神成というボクサーが
その体を通じて示してくれたように感じた。
 
 

試合が終わり、お世話になった英パパに挨拶をして、会場を去る。
タクシーを呼び、西金沢駅へ。
そこから特急が止まる駅まで鈍行で移動し、特急で名古屋駅へ向かう。

帰路、亡くなった友人の元へ。
仕事の都合で通夜や葬儀に出れないことをご親族に詫び、
穏やかな顔をする友人に少しだけ喋りかける。
涙は出なかった。

友人の少ない自分にとって、無口なその友人は、居心地のいい存在だった。
滅多に会うこともなくなっていたが、会えばお互い黙ってなんとなく過ぎる時間を過ごす。
不思議な関係だった。

「久しぶり、またしばらく会えんくなるな。」

それだけ告げられれば充分だった。
枕もとで一本だけ煙草をくゆらせて、その場を後にした。
 
 

夜道を歩きながらこの日あったことに考えを巡らせる。
英パパに会うといつも「父親として」を考えることになる。
3人の男の子たちを立派な成人に育て上げた先駆者。
どうしたら、あんなことができるんだろう。
自分は家族に何ができているだろう…。
ボクシングにばかりかまけている自分がなんとなく申し訳ないような気持ちになる。

ふと…視界に「売り物件」の文字が目に入る。
そういえば英パパに「築20年の2DKに暮らしている」という話をして驚かれた。
(後から確認してみたら実は築40年だったのだが…)

元々はかみさんが一人暮らしをしてい所に、
借金まみれだった自分が転がり込み、そのままその場所に暮らしている。
自分の仕事が軌道に乗った後も、住居は変わらぬまま。

子供が産まれてからは、マンションの住人たちが子供たちを可愛がってくれていることもあり
引っ越して騒音だとかの苦情をもらったり…を想像するとなかなか引っ越すのもおっくうになっている。
 

ただ…やはり家族5人が暮らすのに2DKは手狭で、かみさんがいつも狭い狭いとボヤいている。
家に帰りつき、布団から重たい声で「おかえり」と声をかけてきたかみさんに
ボソッと言ってみる。

「家でも買う?」

元々思い付きのような初対面のプロポーズで結婚した自分たち夫婦。
寝ぼけまなこのかみさんは、何だそんなことか…とでも言いたげに「うん」とだけ答えて眠りについた。

想定の範囲内ではあったそのリアクションに少しだけため息をつき…。
頑張るしかないか…と、腹を括る。
自分より頑張っている奴らはたくさん知っている。
この日も、そんな奴らが殴り合うシーンを見て来たばかり。
 

また…ボクシングで人生が一歩前に進む。
 
 
 

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