狂気に生き(雑) ボクシング選手名鑑ピックアップ! 2018/07/07

狂気に生き(雑) ボクシング選手名鑑ピックアップ! 2018/07/07
 
 
 

ノンフィクションの名作、「狂気に生き」を読んだ。
 

この作品、一時期は禁書に近い扱いになったとも聞く。
楽天では見つからず、アマゾンでは中古品で¥5,887の金額がついている。
 

日本人初の世界王者、白井 義男(フリー)からベルトを奪ったパスカル・ペレス(亜)の半生を追いかける南米の旅と、昭和のボクシング界を揺るがした毒入りオレンジ事件の真実に迫っていく、全く違う二つのストーリーが並行して展開されている。

この作品の中で毒入りオレンジ事件について明確な結論は出ない。
なぜなら、小説や創作ではないから。

取材対象の食い違う意見をそのまま載せてあり、
誰がウソつきで、誰が本当のことを言っているのか…読みながら錯綜してしまう。
誰がどこまで本当のことを話しているのか、100%を知ることはできない。
それがこの作品がノンフィクションであることをしっかりと知らせてくれている。
 

ボクシングにはノンフィクションが少ない。
専門誌でさえ、半フィクションだと思っている。
都合の悪い内容に触れないこともたくさんある。

2000年代以前はそれでよかった。
他にソースがないから、書いたことが真実になる。
幻想にまみれたスター達が、本当にスターになった。

現在はインターネットがある。
いろんな情報が漏れ伝わる。
「八百長」という言葉が使われるネタの類は100%ではないにしろ、ほとんど嘘だと思っているし
真実ほど、インターネットの世界には出回らない。

ただ…中には本当のことも紛れている。

「ボクシングの闇」という現実を目にし
ボクシングに失望するファンも多いことだろうと思う。
特に…幻想にまみれた真実を鵜呑みにし続けた世代にとっては。
 

ボクシングは元々そういう世界だったと思う。
なんなら昔よりは断然よくなっているハズだ。
そして、真実が明るみになるケースも増えてきている。

そんな「何となく知っていること」を現実として痛烈に認識させてくれるのがこの作品。
 
 

最初に発覚した薬物事件の対象となったいくつかの試合がある。
週刊文春がスクープしたものだ。
しかしそれとは別の試合も薬物にまみれた試合だった…。

「狂気に生き」の作者がPLAYBOYに掲載しようとしたそんな追加報道。
作者の友人の一人だったジョー小泉氏が、その掲載中止を迫るシーンも描かれている。
作者が断ると、ジョー小泉氏は薬物を盛った実行犯の味方をすると宣言し、作者と絶交している。

彼の神格化された存在さえ揺らいでしまう。
 

ちなみにPLAYBOYに掲載された内容は一般紙にはスルーされたようだ。
 

~引用~
今度の事件が『週刊文春』に続いて一般紙でも報道されると、コミッションは評論家の川本信正氏を長とする「ボクシング健全化対策特別委員会」なるものを設置した。ところが、この委員会はどのような調査をしたのかわからないが、初会合を開いたその日のうちに、金平を「限りなく黒に近い灰色」の人物としてボクシング界からの永久追放を決め、これですべてが終ったかのようにして事件の解明にピリオドを打ったのだ。つまり、一人の人物にすべての責任を負わせ、悪の土壌にメスを入れることはやめたのである。
 
 

 
 
 

内容は違えど、近年これと同じ問題点を抱える事件が発生したと思っている。
 

亀田追放事件である。
亀田が悪いで全てを片づけて、亀田家を追放した事件。

しかしこれにはその後がある。

JBC職員が亀田家から受けたと語った暴行は、それがねつ造だったことが発覚。
亀田家は日本ボクシング界から、冤罪で追放されたことになる。
その裁判の内容までしっかり追ったのは、専門誌でも、週刊誌でもなく
単なるファンの集団…ブログ「ハードブロー」だった。

悪者を作って追放することでおしまいにしようとした経緯…
一般紙も専門誌も詳細を書かない点…
問題点のいくつかは重複する。
 
 
 

この作品が発表されて30年ほど…。
この30年、解決されていない問題は山積みである。
真実を隠すことは、問題の先送りに他ならない。

マシになったとはいえ、とっくに解決していていいはずの問題が、
慣例として延々と残り続けている。

問題を先に送りに送られ、現代のボクシングはそのツケを払わされている。
さらにもっと先にまで、そのツケを払わせる気だろうか。
 

ボクシングの闇に胸を痛めたことがあるファンには、一度読んでみてもらいたい。
決してただの暴露本ではない。

薬物の犠牲となったボクサーを愛し、戦う男達を愛した作者が
胸を大きく傷つけ、友人に失望し、絶縁され…そうして真実に迫って行ったお話。

ボクシングのノンフィクションの最高峰の一つだと感じている。
 
 

 
 
 

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