2026/5/17 -三重・メッセウイングみえ- 前置き(中日本ボクシング観戦記) ボクシング選手名鑑ピックアップ!
10年ほど前のことだった。
岐阜のじゅうろくプラザで初めて興行が行われたときだったと思う。
岐阜駅の吉野家で腹ごしらえを済ませて
ボクシング会場に向かおうとしていたところ、突然声をかけられた。
僕のカバンからボクシングマガジンがはみ出ていたのを見て話しかけたそうだ。
試合会場までの道がわからないということで、
じゃあ一緒に行きましょうと…会場まで一緒に歩いた。
今や、中日本のトップレフリーとも言える井上レフリーだった。
歩きながらの会話で色々教えてもらった。
静岡の平石ジム所属として戦った元プロ選手であること。
リングアナウンサーの眞野さんにレフリーをやらないかと誘われ、
この日は見学に岐阜を訪れたそうだ。
僕自身、過去に本橋レフリーから誘われた経験があった。
今はもう亡くなられているが、当時はまだ悪くなった足をひきずりながら
ジャッジ席に座っているベテランジャッジだった。
まだ顔出しもしていなかったころ、
毎回試合会場にいる僕を見つけた本橋レフリーが僕を呼び出した。
名古屋国際会議場で「君…ちょっと…」と。
ただの一般客がレフリーに連れられ外の人気のない場所へ。
僕は何かしら怒られるのではないかと恐々としながらついていく。
「君、いつもいるよね?そんなに好きならレフリーをやってみないか。
自分はもう足がダメでジャッジしかできない。
中部でやれる人を探しているんだ。」
考えたこともないし、荷が重いとお伝えし、その場から逃げるように去った。
技術も気持ちもいること…仮にやれるようになったとして、
当時の仕事に追われている状況では土日を塗りつぶすように
各地を飛び回るレフリーの過酷なスケジュールについていける自信はなかった。
数回JBCの服を着てその場にいるものの、
気が付くといなくなっている人もよくいるように思う。
レフリーで飯が食えるわけではない。
皆それぞれ本業を抱えながら、その合間でJBCスタッフをやっている。
気軽にチャレンジできないハードルはハードなスケジュールにもあるように思う。
その日、岐阜に見学に来ていた方は、その後も試合会場で顔を合わせることになった。
熱心に毎回訪れては、「採点は難しい」と厳しい顔をしていたのを思い出す。
数か月後にはJBCの制服を着て、リングサイドに座っていた。
やがてリングに上がって試合をさばくようになり…
さばく試合は前座から、徐々に後ろの試合へ。
気が付けばメインイベントのレフリーも務めるようになっていた。
帰路が一緒になれば会話を交わすこともあった。
「命だけを守ればいいわけじゃない。
あの選手は先もある。傷がクセになればリングに上がれなくなる」
試合開始直後のバッティングで、試合を負傷ドローとした試合の直後だった。
元選手だからこそ、ボクシングを奪われる選手の苦しみにも寄り添おうとする。
ドクターは続行できると判断したが、レフリーとしてはNGとその試合を終わらせた。
この試合はやり切れるかもしれない…だけど、そのレフリーは選手の未来をとった。
ドクターに預けず、自らの責任で試合終了を宣言した試合だった。
中日本はJBCの管轄としては東日本に属している。
過去には中日本にも事務局があったが、不正が発覚して東日本に統合された経緯がある。
中日本の興行では、地元JBCスタッフは半数くらいだろうか。
普段は後楽園ホールで試合に携わる職員たちが多く訪れる。
その東のレフリーたちから、そのレフリングを高く評価する声がよく聞こえるようになった。
特徴的な部分としては、予防的な注意と、警告的な注意の使い分け。
序盤から細かめに注意を入れて、試合が荒れるのを未然に防ぐ。
選手が熱くなっての反則まがいの行為には厳しめに注意を与える。
最初からそうだったわけではない。
徐々に徐々にそうなっていった。
井上レフリーのレフリングというものが出来上がっていた。
ボクシングと同じく、基礎ができあがると、その上に自然に彩がのり始める。
会話をすると、どれだけ自分の時間をボクシングに費やしているのか…と驚かされる。
配信を始めたころ、「自分のレフリングがチェックできる」と大喜びだった。
その大喜びの勢いそのまま、膨大な時間をレフリングのチェックに費やしているようだ。
本人がそう言ったわけではない。
会話の内容が、「明らかに見ている」それなのだ。
各アングルで細かく、自分のさばいた試合をチェックし、まさに「研鑽」している。
選手だったからこそ…を強く感じるレフリー。
うまくやれた試合、やれなかった試合はあろうが、
常に選手にとっての一試合の重みと、ボクサー人生の重みが意識にあるようにも感じる。
命を守ることが一番なのは大前提な上で、「それだけではない」ことを教えてくれる。
ここにも、選手たちを取り囲む愛情がしっかりある。
ここでいつもの前置き
自分はファンではあるが、熱狂的なマニア程の肥えた目を持ってはいない。
自分より凄いと思えるファンはそこらじゅうに転がっている。
ここに書く内容に誤りが多分に含まれることもある。
先に言い訳をしておきたいわけではなく、そういうものだと言っておきたい。
同じ試合を見ていても、違う感想を持つファンもいるわけで…。
ここに書いたことが正解ではないと…。
それだけは認識した上で、読み進めていただきたい。
この日の興行でメインイベントのレフリングを務めた井上レフリー。
鳥肌が立つようなレフリングを見せている。
選手が倒れる前に飛び込み試合を止めると同時に選手が崩れ落ちる。
お互いダメージのある中、ダウンもない。
地元判定疑惑に躊躇すればイケないだろうタイミング。
自分の体裁や見え方など何も意識せず、ただ目の前の試合に集中した結果に思える。
選手のためのレフリングでなければできないはずのストップ。
これを読んだ方々に、ぜひ映像を見てほしい。
井上レフリーが「どれだけ凄いか」を感じてほしいわけではない。
プロのリングを、選手たちを取り囲む、愛情の深さを知ってほしいと思う。
僕たちの愛する人、愛する者を、ともに愛する裏方の存在。
きっと、よりボクシングが好きになれるはずだ。
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