2025/09/07 -静岡・グランシップ静岡大ホール- 第4試合~第6試合(中日本ボクシング観戦記) ボクシング選手名鑑ピックアップ!
【フェザー級8回戦】
岩下 千紘(駿河男児) vs 英 洸貴(カシミ)
プレスをかける英の圧力を足でかわしながらジャブを突き
撃ち出しにカウンターを合わせる岩下。
なかなか手の出てこない英に対して、テンポよくパンチを放つ岩下。
ラウンド終盤には猛烈に攻め立てる。
ヒッティングで左目上から出血する英。
お互いにワンツーを撃ち合う中、岩下の左ストレートが突き刺さり鼻血を吹き出す英。
踏み込んで強烈に襲う英だがボディが低く入りローブローの注意を頻繁に受ける。
ワンテンポ早い岩下に攻めあぐねているようにも見える。
3R早々に攻め込んだ英の右ストレートに左ストレートをカウンターで撃ち込んだ岩下。
動きを止めた英に追撃の右フックを突き刺すとワンテンポ遅れて崩れ落ちた英に
レフリーは試合をストップ。
TKOタイムは3R 9秒。
岩下の圧倒劇だった。
ジャブにも右ストレートにもカウンターを浴びせ、一方的に痛めつけた上だった。
数々の強豪と拳を合わせ、アジアのトップランカーとも互角だった英。
地域タイトルに2度も挑戦している選手を相手にこの結果は驚愕だ。
全日本新人王まであと僅かだった、日本ランキング、WBO-APランキングも末尾に名前が入る。
強い選手なのは周知の事実だったがまさかここまでの試合を見せるとは…。
大きすぎるインパクトを残し、「タイトルを狙える選手」へのその名を浮上させたように思えた。
対して連敗が続いていた中で完敗を喫した英。
続く敗戦の中でたまったダメージもあるだろう。
しばらく休むとコメントしたが…。
北陸の原石が北陸の大エースへと成長し、そしてさらなる強豪に挑み続けた。
輝かしく駆け上る姿、屈辱的なボディでの敗戦、そこからの急成長。
そして強者へ挑み続ける背中。
ボクサーズロードを物語とするなら、仮にここでエンディングとなったとしても名作中の名作。
ここからさらに物語を紡ぐとして、それもまた物語に厚みを添えてくれることだと思える。
中日本の時代を彩った名ボクサーには既になっている。
どういう形になっても、英の物語は美しい。
休むとのコメントには「後悔のない選択をするために」との言葉が添えられた。
安心して、自分自身だけのための選択をしてくれることを願っている。
岩下 千紘 12戦9勝(6KO)1敗1分1無効試合
英 洸貴 24戦14勝(6KO)6敗5分
【フライ級8回戦】
マーク・ビセレス(駿河男児) vs 富岡 浩介(RE:BOOT)
見合いながら始まったサウスポー同士の一戦。
フェイントを掛け合う中で仕掛け始めたのはビセレスの方。
積極的に踏み込んでヒットを奪っていく。
後半、富岡もヒットを奪うものの、離れ際など巧みなタイミングでビセレスが捉える。
2R、ビセレスが一瞬のスキを突くような強烈な左ストレートでダウンを奪う。
立ち上がった富岡は撃ち終わりを叩いて反撃を魅せるが…。
鋭く踏み込むビセレスに対し、まだ対応できていないように見える富岡。
3R、踏み込むタイミングの増える富岡。
ヒットは増えるが撃ち終わりに強烈な被弾も。
しかしラウンド終盤、慣れてきたか動きが上がる富岡。
ビセレスの入り際、撃ち終わりを捉え、ジャブも出るようになる。
4R、待ちながら撃ち終わり狙いへシフトするビセレス。
富岡はテンポよく拳を繰り出して強烈なヒットを重ねていく。
ビセレスが踏み込んでもバックステップで届かせない。
途中富岡がヒッティングカット…展開を有利にし始めたところで不利な傷を負う。
再開後、ビセレスは積極的に…カットでのTKOも狙いに含めたか。
5R、ビセレスが入ってくるところや撃ち終わりをコンビネーションで襲う富岡。
ビセレスの一発に対し3つ4つと拳を返す。
主導権は富岡に見えるが、時折刺さるビセレスの鋭いパンチはまだまだ脅威。
6R、ダッキングなど富岡の頭が低くなったところにビセレスがパンチを刺す。
富岡はスピード豊かにコンビネーションで捉える。
富岡がバックステップし距離で外す場面も多く、ビセレスのヒット数は上がらず。
7R、お互いタイミングを測り合う緊張感の高い戦いの中、
ビセレスが踏み込んで放ったワンツーの左に、富岡が左を合わせ、ビセレスが前のめりのダウン。
立ち上がったビセレスはクリンチに逃れようとするが、
強引に振りほどいてパンチをまとめる富岡。
なんとか手を返しているビセレスだったが、重なる被弾にレフリーがストップ。
TKOタイムは7R 1分38秒
2Rまでは圧倒的にビセレスが制し、ダウンまで奪った。
しかし、慣れてくるとビセレスに攻めを許さず、主導権を握って盛り返した富岡。
体でタイミングと距離感を覚えて適応していった。
優位に立とうとする中で、今度はヒッティングカットのピンチ。
しかし、落ち着いて展開を渡さず、狙いすましたカウンターで決着をつけた。
世界上位ランカーへ挑戦した日本下位ランカー。
困難な局面をすべてはじき返した姿には「実力勝ち」と感じた。
富岡がその実力をこの場面で証明した。
逆転KOだったが、一発でひっくりかえした試合ではない。
デビュー戦からすさまじいオーラを持った選手だった。
彼のボクシングそのものにカリスマ的な魅力を感じた。
つけられた「悪童ピーターパン」の異名がとにかく似合った。
しかし、逆転でのKO負けもあり、想像以上に時間がかかった。
ようやく、ようやく、この選手が相応しい場所に登ってきたようにも感じる。
そして、世界上位につけながら肩書的には格下に不覚をとった格好のビセレス。
強い選手たちは世界中にゴロゴロいる…。
世界を獲れずとも、挑戦するだけでも、険しすぎるほどに険しい世界。
1度目の敗戦では引退も考えたというビセレス。
2敗目となるこの試合から、ビセレスは再び立ち上がれるだろうか。
あと少しのところで遠ざかった世界挑戦。
中日本にやって来た大型助っ人…彼がどんな物語を描くか。
負けに負けるな、負けてからがボクシングです。
マーク・ビセレス 23戦20勝(11KO)2敗1分
富岡 浩介 14戦10勝(8KO)4敗
■WBOアジアパシフィック女子ライトフライ級タイトルマッチ
【女子ライトフライ級8回戦】
池本 夢実(琉球) vs ナタナン・サギアムチット(タイ)
重たく伸びるジャブを刺していく池本だが、
ナタナンは上体柔らかく、ほぼヒットは食わない。
距離でしっかり外し、まずは様子見とばかりにほとんど手を出さずにラウンドを終了。
2Rも見合う展開から池本がジャブを刺しながら踏み込んでいく。
ナタナンはじっくりと待ち構えながらタイミングを測っているよう。
ロープまで詰めてパンチをまとめる池本だが、はっきりしたダメージブローには至らない。
3R、入って来るところ、撃ち終わりに拳を飛ばし始めるナタナン。
しかし、池本が素早いで入りでヒットを奪いながら被弾を回避。
ラウンド終盤にはナタナンが連続でカウンターを合わせる場面。
4R、入って来る池本を左右フックで叩くナタナンだが、
お構いなしに潜り込んだ池本は
コンビネーションを浴びせて押しつぶすようにダウンを奪取。
立ち上がって仕切りなおす二人だが、ラウンド終盤のには
撃ち合いの中で池本の右ストレートがテンプルを貫いて2度目のダウン奪取。
5R、劣勢のナタナンは足を止めて撃ち合い始める。
池本の右が強烈に入り、クリンチに行きながら力なく膝をついたナタナン。
レフリーは続行を許さず、TKOが宣告された。
TKOタイムは5R 45秒。
上体が柔らかく目もよく手ごたえのなさそうなナタナンに対し、
重量感たっぷりに攻め込んだ池本。
力感はないがふわふわと捉えさせてくれない、
特殊な相手から3度のダウンを奪っての王座防衛となった。
過去、静岡のリングで見たころの印象は「硬質な拳」と「スピード」。
あれから月日がたち、そのボクシングははっきりと色を変えていた。
「重量感」あふれるどっしりとした戦いぶり。
現在世界ランキングにも名を連ねる池本。
この先、今日以上の強敵がゴロゴロと存在する領域へと入っていく。
変貌していた彼女がどこまで登っていくか、楽しみにしていたい。
池本 夢実 12戦10勝(2KO)2敗
ナタナン・サギアムチット 10戦7勝(7KO)4敗
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