2019/04/14 -三重・メッセウィングみえ- セミファイナル(中日本ボクシング観戦記) ボクシング選手名鑑ピックアップ!

2019/04/14 -三重・メッセウィングみえ- セミファイナル(中日本ボクシング観戦記) ボクシング選手名鑑ピックアップ!
 
 

 

【フェザー級8回戦】
菅原 秀馬(市野) vs ロリ・ガスカ(大阪帝拳)

菅原 秀馬 7戦6勝(4KO)1敗 サウスポー
ロリ・ガスカ 33戦24勝(8KO)8敗1分
 

どっしり構えるガスカに対し、遠い距離を回る菅原。
どちらがいつ入るか…フェイントをかけ合う緊張感の高い中、
まったく交錯しない二人の拳にレフリーがファイトを促す。

先に体制低く入り込んだのはガスカ…これをクリンチで抱きかかえる菅原。
ラウンド中盤を越えたころ、菅原の左ストレートが浅くヒット。
さらに入って来たガスカをクリンチで抱えると…その離れ際に右フックを浴びせる。

直後、ガスカはこの試合初めて思い切り踏み込んでワンツーを撃ち込む。
躱した菅原だったが、低く飛び込んできたガスカの頭が直撃する。

ラウンド終了間際、左フックを大きく振るって入り込んできたガスカ。
内側へ躱した菅原…さらにもう一度振るわれた大きな左フックは鼻先で躱してみせる。
ここで1R終了…緊張感の高過ぎる試合。
 

2R、身長はそれほど変わらないはずだが、低く構えるガスカが一回り小さく見える。
お互いにフェイントをかけ合い、パンチを外し合う中、
スルスルっと入り込んだガスカに左アッパーを浴びせる菅原。
一旦菅原にしがみついたガスカだが、そこを菅原の右フックが襲う。

菅原、順調な滑り出しか…
しかし、いきなり振るわれたガスカの左フックが強烈に菅原の顔面を襲う。
これはラビットブローとしてレフリーから注意が入るが、
まったく反応できていなかったことには変わりない…嫌な予感を感じてしまう。

また見合う展開の中で、今度はガスカの右ストレートに菅原は反応できずに被弾。
さらにガスカがすっと詰めて右ボディ、左フック、右ボディと菅原を襲う。

菅原も左ボディストレートを撃ち込み、
さらに距離が詰まったタイミングでまた左ボディを突き上げる。
さらにガスカが距離を縮めたところに強烈に右フックをぶつけてやり返すが…

このあたりからさらに低く構えるガスカ…
ボディを警戒してか、右腕はかなり低い位置に置かれている。

ガスカが低い位置から飛び込むため、頭の衝突の頻度が増えていく中、
飛び込みながら振るうガスカの大きなパンチを菅原が被弾してラウンドが終了。
 

3R、開始直後、お互いに踏み込んだところで頭が衝突。
両者ともに顔を苦痛に顔を歪める…。
再開後すぐ、短い距離に左ボディを滑り込ませた菅原。
お互いに相手のパンチを空転させる中で、今度はガスカが右ボディ。

上へのヒットが産まれず、ボディを叩き合う中、
菅原の強烈な左ボディに動きが止まるガスカ…菅原の武器は歴戦のガスカにも通用する…。

しかしラウンド中盤以降、ガスカがいきなり振るう右に菅原は反応できず、
ガスカの右を連続で被弾してしまう。

しかし完全にはペースは渡さず、終盤には右ストレートをボディに伸ばしたガスカを右フックで引っかけ、
いきなり振るったガスカの右オーパーハンドをサイドに躱して、左ボディを撃ち込む場面を作る菅原。
ボディをもらうたびに一瞬止まるガスカ…効いている。
 

4R、お互いにフェイントをかけ合う中、ガスカが入ってきたところに
撃ち込んだ菅原の左ボディが、ガスカの股間に入る。
苦痛に顔を歪めるガスカ…不安げにレフリーの顔色を伺う菅原。

レフリーが一旦ガスカを休ませ、試合が再開…

入って来るガスカに右を合わせさらに右を撃ち下ろした菅原。
クリンチに出たガスカが力を緩めたところで左フックを撃ち込む。

しかしその後、頭を衝突させながらボディを撃ち込んで反撃するガスカ。
お互いにパンチを外し合うシーンが続く中で、ラウンド中盤には
ガスカが右ストレートを撃ち込み、派手に顔を跳ね上げられた菅原がクリンチに逃れる。

左フックを空振りしたガスカがそのまま菅原の頭を抱えて締め上げ、レフリーに注意を受けると、
さらに別のシーンでは頭から飛び込んで、菅原が苦痛に顔を歪める。

ローブロー以降、明らかにラフになるガスカだが…
生存競争の最中ではよくあるレベルのもの。
レフリーは注意こそ与えるものの、減点には至らない。

菅原がそのキャリアで初めて直面する綺麗ごと抜きの世界。
そんな中、クリンチ際でガスカの腕をホールディングすると、
腕を引き抜こうと前のめりに体が伸び切ったガスカに左アッパーを撃ち込む。

さらに、頭に血が上ったように左右フックを振り回したガスカの攻撃を外し、
合間に左アッパーを差し込む。
A級初戦のノーランカーが、歴戦の老獪な兵法術に対してやり返してみせる。
 

5R、ガスカが飛び込んでくるところに左を合わせ、
サイドに飛びながら右フックを引っかける菅原。
しかし、このラウンドも、ガスカの頭をもらってしまう場面が頻発。
ラウンド中盤にはいきなりの右に腰を落とし、一気にガスカに攻め込まれる。

なんとかクリンチに逃れて仕切り直すと、またフェイント合戦になる中、
飛び込んでくるガスカに右を引っかける菅原だが…
スイッチしながらの左アッパーや離れ際の左フックなど…
ガスカの老獪な引出しに翻弄されてラウンド終了のゴング。
 

6R、開始早々いきなりのガスカのいきなりの右が炸裂。
その後、ガスカが踏み込んだタイミングで、また二人の頭が衝突するが…
この場面ではこの試合で始めて、菅原の方が頭が低い位置での衝突。

一瞬顔をしかめるガスカだが…クリンチに逃れると、それ以上のリアクションはない。
衝撃音が会場に響くほど激しく当たっているはずだが…。

ここからガスカが駆け引き合戦を常に制し続け、先手先手で菅原の顔面を捉え始める。
菅原の集中が疲弊とともに切れて来たのか…それとも、
ガスカがタイミングをつかみ始めたのか…。
菅原が腰を落としてクリンチに逃れる場面も複数回訪れる。
 

7R、見合った状況からタイミングをずらし、
幾重にもフェイントを織り交ぜて放たれるガスカのパンチ。
何が来るか予想のつかない老獪な攻撃に、菅原がまったく反応できず
ガスカが踏み込む度に菅原の顔面が跳ね上がる。
3分間…ただただ菅原が翻弄される。
 

8R、足を使って流し始めたガスカ。
最悪の逆転負けのリスクを排除する3分間、相手が攻め放題にならぬよう
時折強烈に撃ち込みながら、足を動かして無益な衝突を避けにまわる。

菅原がはっきりとったラウンドはここまで全くないだろう。
微妙なラウンドはいくつかあるが、それが全て菅原に流れたとしても
判定では届きそうもない。

ラウンド中盤に差し掛かろうかというころ、菅原が開き直ったように突っ込んでいく。
ガスカの低い頭に自らの鼻っ柱をぶつけるように突撃し、左ボディで急襲。
残り時間、猛烈な撃ち合いにガスカを巻き込んでいく。

そこにいるのは…これまで何度も見て来た”市野の戦士”。
スピードに溢れ、センスに溢れ…どこか市野ジムの選手としては
異色に見えていた菅原が、まるで濱口 人夢(市野)や伊藤 記道(市野)のように
遮二無二攻め込んでいく。

会場はこの日一番のヒートアップ…。
しかし、距離がつぶれて逆に綺麗なヒットは生まれず…そのままタイムアップ。
 
 

マイジャッジは78-74でガスカ
 

公式ジャッジ
78-74
79-73
80-73
 

3-0 ガスカ
 

ロリ・ガスカ、未だ強し。
大橋 弘政(HEIWA)からベルトを奪い去ったのはもう8年も前。
しかしその後、高いグレードで歴戦を重ね、重厚なキャリアを築き上げたガスカは
老獪で巧みで…より厄介な強豪へと変貌していた。

肉体的に衰えると言うにはまだ早い29歳。
経験を引出しとしてその強さに付随させ、高い高い壁となって立ちはだかった。
そしてまた、生存競争の厳しさも、その身を持って菅原に叩きつけた。
 

仮にこの試合、ガスカが星を失っていたとしたら、ガスカはどうなっていただろうか。
相手は戦績こそいいが、実績なしのノーランカー。
そして異国の地のジムに所属して戦う初戦…。
先を目指すどころの話ではなくなってしまっていただろう。

菅原が勝つということは、ガスカが人生を賭けて積み上げたものを、全て潰してしまうということ。
綺麗ごと抜きの抵抗があって当然の話だ。

この先待ち受けるのは、そんな相手ばかり…そして、
そんな相手に生き残り、様々なものを積み上げれば、奪われる側に回る。
登れば登るほど…そんな試合が増えていく。

この試合、負けた菅原が奪われたものは一体何だろうか。
ガスカは何度も、そんな局面に対峙し、奪われては積み上げての
繰り返しだったのではないだろうか。

ガスカが積み上げた経験はそのまま引出しとなり、菅原を翻弄した形だった。
しかし、逆説的に言えば、菅原に経験さえあれば…。
この試合を打開していた可能性は高いと感じる。
身体能力も技術的にも不足していたわけではないハズだ。

経験は当然、一朝一夕では得られない。
負けてなお、立ち上がったものだけが得られるものもある。
「たられば」はそのまま改善策になる。

あの時ああしていれば、この時こんなやり方があったんじゃないか。
そんな思いが頭を過るのであれば…それは自分が強くなれることを証明している。
これはボクシングに限らず、仕事をしていれば必ず当てはまること。
過去のたらればを、未来に実現できるように埋めていけば、物事の質は上がる。

アジアのトップ戦線で戦ってきたガスカに、菅原は叶わなかった。
しかし、前半時点で菅原のボディは明らかに効いていたし、
最終ラウンドに仕掛けた場面では、ガスカを飲み込みかけた。
まだ若く、アマ実績もない叩き上げのA級初戦の選手が、
このレベルの選手に通用する部分をいくつも見せた。
 

試合後、傷だらけの顔をした菅原と少し言葉を交わす。

「今回負けたのは、せきちゃんさんが僕からチケット買ってくれなかったからですよ」

冗談を飛ばす菅原の言葉に、笑わされてしまう。
負けてなお周りを気遣い、明るく務める菅原。
悔しくないわけがない…ビッグチャンスだったんだ。
 

その後、時間を置いて「自信ゼロになった」とSNSでこぼした菅原。
「これから頑張れるか、自分とお話しします。」とも。
 
 

強さに憧れ、戦いの道に身を置いてきた人間が、
強くなれる材料が目前にある状況を捨ててしまえるだろうか。

僕は菅原は必ず復活すると思っている。
必ず強くなって復活すると思っている。
そして、その拳はこの先、少なくともアジアのトップ戦線には届く。

きっと届く。
 
 

 

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