2021/06/27 -名古屋・名古屋国際会議場- ファイナル(中日本ボクシング観戦記)　ボクシング選手名鑑ピックアップ！

■日本スーパーバンタム級ユースタイトルマッチ
【スーパーバンタム級8回戦】
溝越斗夢(緑)　vs　石川春樹(RK蒲田)

溝越斗夢　11戦8勝(4KO)2敗1分
石川春樹　11戦8勝(6KO)3敗

静かな立ち上がり、溝越は終始足を使ってパンチを差し込んで行く。
石川は中盤からプレスをかけ始めるが、距離は遠く手を出す場面も少ない。
まだまだ静かな石川…1Rは溝越が先取か…。

2R、プレスはかけるもののなかなか手を出さない石川。
カウンターパンチャーの溝越が、リングを飛び回りながらパンチを刺していく。
後半に入って石川がジャブを出しながら攻め始めたと思った矢先、
二人が密着したところで突然溝越が崩れ落ちる。

当たったパンチは死角で見えず…レフリーがカウントを数え始める。
立ち上がった溝越、明らかに平衡感覚を失っているが、レフリーは続行。
ラウンド残り10秒を切っている状況…、最下位と共に一気に攻め込んだ石川。
溝越は力なくリングに転がる…レフリーはそのまま試合をストップ。

TKOタイムは2R 2分58秒。

石川が日本ユース王座のベルトを手にした。
カウンターパンチャーの溝越を相手に、半端な距離でのパンチは出さず。
そして、試合を決めた一撃は至近距離でのもの…。

あまりにもおとなしかったそれまでの姿から、どうしても狙っていたように思えてしまう。
少なくとも、偶然のラッキーパンチではないハズだ。

どのボクサーも、毎試合、自分の人生を賭けるようにして試合に挑んで来る。
この試合に賭けて来た…なんていうのは当然のことなんだろうが、
それでも、この試合に費やした周到な準備や積み重ねを感じずにはいられない。

見事…それしか言葉が出ない。

後楽園ホールで見かけた4回戦ボーイが、大きくなって中日本のリングに乗り込んで来た。
相手が自分の応援しているボクサーでなければ、小躍りして喜んでいたハズの石川の戴冠劇。
まさか、こんな感情で目に焼き付けることになるとは…。

結婚し、父親にもなった。
大会場でのメインイベント、応援者も沢山駆け付けていた。
コロナで入場者数に制限がかかる中だが、
一席飛びで設けられた客席はかなりの率で埋まっていた。
堂々の入場、この日、地元のリングでヒーローになるはずだった溝越は、
涙に暮れながらリングを降りた。

怪我もしたようで、ここから少しブランクが空くかもしれない。
ただ、どうしてもリングに帰ってきて欲しい…それもメインイベンターの舞台へ。
この日の自分を忘れることなんてできないハズだ。

体を引きずるように引き上げていく溝越の姿を見て、ボロボロボロボロ泣けてきた。
椅子に張り付いたように重くなった腰。
ただボーっとすることしかできない。

そんな中で…試合開始前に挨拶に来てくれた粟田祐之(KG大和)がまた、声をかけに来てくれた。
泣いているのを隠すこともできず、
どう言葉を返せばいいのかもわからない感じで、またしどろもどろ。

ただ、声をかけてくれたおかげで現実に戻ることができた感覚。
コロナ以降恒例となった、指示されての順番の退場。
会場の外に出たはいいが、気が付いたときには知らない景色。

そういえば、名古屋国際会議場の緑興行のメインは3連敗じゃないだろうか。
落ち込んで帰る記憶ばかりだ。

自ジムの選手と同等かそれ以上か、それが叶わないなら呼べる中で最高の選手。
そんな方針で試合を組んでいるように思える緑ジム。
リスキーな試合を提供する分、カードの魅力は膨らむ。
その分、こういったことも起こり得る。

SNSを見てみると「あわちゃん」に号泣していたことをバラされている。
試合後に泣いてるなんてよくあることだけど、人に言われると恥ずかしいもので…。
誰か中日本のボクサー、戦ってくれないかななんて思ったりする。

好きな選手と好きな選手が戦うことはもう日常茶飯事。
優しさを感じ、少しだけ縁のできた「あわちゃん」の試合を楽しみたいと思った。
それには、大好きな中日本のボクサーが戦ってくれることが一番手っ取り早い。

先のカードに思いを馳せることで、落ちた気分をごまかしつつ…。
溝越の復活を信じていようと心に決めつつ…。
地下鉄に乗って家路を急ぐ。

負けが選手の魅力を色濃くしたりする。
こんな日が、この先の自分のボクシング観戦をより面白くしたりもする。
わかっちゃいるけど…溝越の勝つところが見たかったなぁ…と、そればかり。

また、次、きっと見れる。
そう信じていようと思う。

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