2020/09/27 -静岡・ふじサンメッセ- 第3試合、セミファイナル(中日本ボクシング観戦記) ボクシング選手名鑑ピックアップ!

2020/09/27 -静岡・ふじサンメッセ- 第3試合、セミファイナル(中日本ボクシング観戦記) ボクシング選手名鑑ピックアップ!
 
 

 

【62.5Kg契約】
麻生 興一(三迫) vs 山口 祥吾(唯心)

[日本スーパーライト級16位/OPBF東洋太平洋スーパーライト級10位]
麻生 興一 33戦23勝(15KO)9敗1分
山口 祥吾 20戦12勝(7KO)5敗3分
 

上のガード固く低く低く入り込んで来る麻生。
ボディを叩いてはサイドにまわる山口。
時折ガードを回り込んで捻じ込むような右フックを撃ち込みながら、頻繁に手数を出していく山口。
インファイトのスペシャリスト、麻生はガード越しに山口を見据えながら前に前に出てくるがまだまだ静か…。

ラウンド終盤、偶然のバッティングにより、麻生がカット。
ドクターチェックが入るが無事続行。
 

2R、麻生が1Rより手数を増すものの、山口の方がまだまだ手数で上回り、麻生のボディを捉える場面が目立つ。
上は固く、まともに直撃する場面は見られないが、捻じ込むように山口が拳をヒットさせる。
しかし、ラウンド中盤を過ぎると、頭の付く距離で麻生が小さく細かいコンビネーションをヒットさせ始める。
山口のパンチが、ガードに当たってからねじ込まれることが多いのに対し、
麻生のそれは的確なクリーンヒット…その異名にたがわぬ巧みさを見せつける。
 

3R、圧力強く押し込んで来る麻生に対し、下がりながらの戦いになる山口。
強烈にボディを叩きながら下がる山口だが…徐々に麻生のペースが上がり始める。
中盤には麻生の的確なパンチが山口を何度もヒット。

ボディは山口の方が叩いているがそれをどれだけ採ってもらえるか…。
ガードを割って届いている山口のパンチがどれほど採ってもらえるか…。
ジャッジの難しそうなラウンド。
 

4R、足を止めて麻生のインファイトに応じる山口。
下から強烈に叩いて行く…。
相変わらず上は固いが、撃ち合う最中、麻生の顔面を捉えるシーンも出始める。
しかし、やはりスペシャリストと言われるだけあり、麻生のパンチは無駄撃ちが少なく、
上も下も的確過ぎるほどに的確に山口を襲う。
 

5R、的確な麻生と、手数の山口…二人の熱いファイトが変わらず展開される。
中盤、山口がねじ込んだ右フックでよろめいたように見えた麻生だったが、
その後、山口がまとめた場面では固いガードでそれを退ける。
 

6R、試合は後半に入り…お互いに疲れを見せ始める…はずのラウンド。
ここに来て一気に麻生がペースを上げる。

押し合い、ボディを削り合い…頭を着けてのインファイトは体力を消耗するもの。
山口にも当然疲弊の色は見えてくる。
この場面でまるで力を蓄えていたかのように…試合展開まで巧みに計算していたように見える。

山口もこれまで通りに撃ち返しているが、的確さに加えて手数も増えた麻生。
このラウンドの3分間に渡る撃ち合いは、麻生にペースが渡ったように感じる。
 

7R、ペースの上がった麻生と真っ向から撃ち合う山口。
しっかりと撃ち合い、これまで同様強烈に麻生を捉えるものの
それ以上に麻生が山口を捉えて行く…やはりこの3分間も、主導権は麻生。
 

ここまでのマイジャッジは麻生の1Pリード。
後半捲られてはいるが、前半には際どいラウンドもあった。
最終ラウンドを取ればまだわからない…。
 

8R、泣いても笑っても最後の3分…勢いと手数を取り戻した山口。
麻生と山口が互角の撃ち合いを展開していき…麻生を押し込んで行く。
これなら…そう思ったのも束の間だった。
ラスト20秒の声が響くとともに、ここからもうワンギア上げた麻生が一気にまくり上げる。
激しく応戦する山口だが、麻生の回転が上回る中…試合終了のゴング。
 
 

マイジャッジ 77-75 麻生
 

公式ジャッジ
76-76
77-75
77-75
 

2-0 麻生
 
 

何故麻生がスペシャリストと言われるのか…その凄さをまざまざと見せつけられたように感じた。
近距離でのテクニックしかり、試合展開さえもコントロールしてしまったように見えた。
僅かに1Rの差…この差をしっかりと着けた麻生。
日本王者にまで辿り着いた男の凄さを見せつけられた。

あと、僅かに届かなかった山口…元日本王者の連続撃破は成らず。
しかし、対抗する実力はしっかり見せた。
 

この試合、もし観客が通常通りに入り、歓声が許されたのであれば、
大声援が飛び交う試合になっていたように思える。
少なくとも自分は何度も叫びそうになった熱い熱い試合だった。

「ファンの声援が力になる」
ボクサーがよく口にする言葉…それが本当ならば…。
この会場でもし、山口に声援を送れていたならば…そんなことを考えてしまう。

熱い熱い大熱戦。
スペシャリストと呼ばれる男がその力を見せつけ、
そして、我らが中日本の山口が、そんな相手にあと僅かにまでせまった。
現時点、今年の中日本ベストバウトに挙げたい試合だと思っている。
 
 

 

【58.0Kg契約6回戦】
木村 蓮太朗(駿河男児) vs 岩屋 卓史(寝屋川石田)

木村 蓮太朗 1戦1勝(1KO) サウスポー
岩屋 卓史 7戦4勝3敗
 

1R、ゴングと共に顔面のガードを固め、頭を下げてジリジリと近づいていく岩屋。
上への撃ち所を制限される木村だが、冷静にボディを強烈にえぐる。
これだけ頭を下げられればバッティングも怖いところだが、そこもしっかりと回避。
足を使って右から左から強烈にボディを襲い続ける木村。
岩屋は近付くだけで精一杯…。
 

2R、前のラウンドと同じくガードを固め、頭を下げてジリジリと近づいていく岩屋。
木村は強烈なボディを撃ちつけ、ガードの脇からフックを突き刺し、隙間にアッパーを通す。
ラウンド中盤には岩屋が揺れる場面も…。
近付いて細かく撃とうとする岩屋だが、そのほとんどを外されてしまう。
 

3R開始直後、サイドに回ろうとした木村の顎を、岩屋の左フックが捉える。
強い一撃には見えない…コツンと…それでも当たった。

相変わらず、低く低く近づいていく岩屋。
ボクシングの勝敗は一瞬で決まる…それまでどれだけ劣勢でも一瞬あれば充分なのがボクシングだ。
手数が出なくなった場面でも、セコンドからの「手を出せ」という声にきっちり反応してジャブを飛ばす。
愚直に素直にひたむきに…。

木村にとって決してやり易い展開ではないはず…。
中盤、木村の左ショートが強烈に岩屋の顎を捉える…確実に効いた強烈な一撃。
ここでまとめにかかる木村だが、ガードを固め、頭を振り、基本に忠実にこらえきる岩屋。
 

4R、これまでなかなか手が出なかった岩屋だが、開始直後にコンビネーションを出して見せる。
木村に悠々と外されるが、その後、これまで見せなかった大きな右フックや右オーバーを見せる。
その間も、木村の強烈なボディは岩屋を襲い続けている。
必死に歯を食いしばって耐えながらの岩屋。
鬼の形相の中で、左フックが二つヒット、後続は続かないが…当たる。

その後、撃ち終わりを狙った木村の強烈な一撃が何度も振るわれるが、
しっかりと上げたガードと、しっかりと頭を振り続ける…基本的な動きで致命打には至らず。
 

5R、愚直に前に出続ける岩屋…思い切って振るう右フックは木村がすいすいとかわしていく。
ラウンド中盤、木村の右ストレートが岩屋の顎を捉えると、足元を怪しくした岩屋に
木村がすかさずラッシュをかける…ガードを固めて頭を振り…
これまでと同じくなんとかこの窮地を脱出しようとする岩屋だが…
木村の勢いは止まらず、しかしなんとか木村に組み付いた…ところでタオルが投入。

試合はストップされた。
 

TKOタイムは 5R 2分31秒
 
 

実力差は歴然…そもそもアマチュア日本一にまでなった木村に太刀打ちできる6回戦がどこにいるというのか。
しかも、木村が獲得したのは、大学生や社会人のトップ選手が集結する、全日本選手権での栄冠だ。

白羽の矢が立った岩屋はその実力差を承知の上でリングに上がっている。
「勝つ確率は大きく見積もって1%。でも、思い切りいきます」
 

顔を上げれば簡単にやられてしまっただろう…。
全く当たらない、ボディを襲われ続ける…それでも、岩屋はできる最善の手段を打ち続けたようにも見える。
そうして、その僅か1%にかけ、何度も思い切り振った…そしてその全てをかわされた。

僅か1%をリングの上で信じ続け、セコンドの指示に忠実に、
日々の練習で体得してきた基本の動きに忠実に…。
決してセンスに恵まれたとは思えない男が、
世界王者候補と言われる相手と15分近い時間を殴り合った。
 

この試合を経て、木村を応援する思いがより強くなった。
木村がいつか世界王者となるとき、きっとこの試合を思い出すだろうと思う。
どうか、ひたむきに挑んで行く感動をくれた岩屋というボクサーを、
のちの世界王者と殴り合った男にしてやって欲しい。
 
 

 
 

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