2024/6/16 -石川・石川県産業展示館2号館- ファイナル(中日本ボクシング観戦記)　ボクシング選手名鑑ピックアップ！

【フェザー級8回戦】
英洸貴(カシミ)　vs　ソンムサック・ヌオーエー(タイ)

お互いに手を出しながら探り合う立ち上がり。
時折英が強烈に捉える中、1R終了間際にはソンムサックがアッパーを叩き込む。

2Rも、高い緊張感の中、突如その空気を切り裂くような英の右ストレート。
美しい右でソンムサックがリングに沈み込む痛烈なダウンシーン。
立ち上がったソンムサック、攻め込む英だがソンムサックが耐えてラウンド終了。

ダメージ大のダウンに見えたが、回復早く、3Rには動きの戻ったソンムサック。
英がしっかりとタイミングを選んで強烈にボディを捉えていく中、
そのボディに合わせたソンムサックの硬い右ストレートが英を捉える。

4Rに攻勢を強めた英、ソンムサックも反撃の拳を突き刺してみせる。
試合が一気に好戦的となると、英がコンビネーションの中でスリークォーター気味に
左アッパーを撃ち込んで、痛烈なダウン。

再開に応じたソンムサックだが、再開後、今度は英の右ストレートが
テンプルに突き刺さり、この試合3度目のダウン。
レフリーはノーカウントで試合を止めた。

TKOタイムは4R 1分13秒

これまで日本人選手と2度対戦し、その硬すぎる拳で、
対戦相手に思うような戦いをさせて来なかったソンムサック。

英は持ち前のディフェンス力の高いボクシングで、
そのリスクを排除すると鮮やかに3度倒してのTKO勝ち。

クセモノのタイ人ボクサーを初めてリングに沈めその実力を誇示した。
次戦は海外でのWBOオリエンタル王座への挑戦が決まっているという。
国内ランキングがなかなか上がらない中、海外タイトルで実績を積む。

キャリア序盤から経験してきた海外のリング。
その強みが発揮されるときが来たようにも感じる。

デビュー直後から自然発生的につけられた異名「北陸の原石」
あの当時から随分と強くなった英だが、まだまだ原石。
まだまだ強くなっていく。

英洸貴　20戦13勝(5KO)2敗5分
ソンムサック・ヌオーエー　7戦4勝(3KO)3敗

興行が終わった翌日、樫見会長から電話があった。
嬉しそうに「うちはOBが頑張ってくれる」と。

カシミジムで育った人間が、それを誇りに興行をあれやこれやと手伝いに出る。
そしてそれを樫見会長が誇りに思う。

ボクシングはただの道具にすぎない。
ボクシングと言う道具を使って人間を育てていく。
人の人生の方がより重い。

「無視だけは絶対にいけない」

遠くから近くから、距離とタイミングを見定めながら、
そこにいる人間としっかりと向かい合い続ける。
樫見会長から感じる暖かさは、まるで家族のようだった。

この人が沢山の人を惹きつける理由が少し見えた気がした。

「尊敬なんかするんじゃない、そんなもんするから幻滅するんだ。
　勝手に尊敬されて、勝手に幻滅されるなんてたまったもんじゃない。」

そんなフレーズが耳に残っている。

「樫見会長は凄い人だよ」

そう聞いていた分、構えていた。
確かにそう思える…ただ、そこにいる”凄い人”は等身大にいてくれている。
偉ぶることなく、人と人として向かい合ってくれる。

もし、人生に行き詰ったとき、”カシミ”のボクシングに触れることは救いになると感じた。
誰かに無視され、一人になったような気持ちになったとき、
その痛みを抱えた人たちを何人も見て来た人がそこにいる。

金沢はいい街だった。
何がどうなったとして、最後にはボクシングがある。

いつか自分が一人きりになったように感じる時が来たら、金沢に行こうと思う。
この暖かさを浴びた人たちが沢山いる。
彼らもきっと、心の芯の暖かい人間たちだろうと。
勝手な空想だが、きっと間違いなく。

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