2019/02/10 -静岡・本川根B&G海洋センター- セミファイナル、ファイナル(中日本ボクシング観戦記) ボクシング選手名鑑ピックアップ!

2019/02/10 -静岡・本川根B&G海洋センター- セミファイナル、ファイナル(中日本ボクシング観戦記) ボクシング選手名鑑ピックアップ!
 
 

 

【女子ミニマム級4回戦】
近藤 佐知子(駿河) vs 安久 夏実(唯心)

近藤 佐知子 5戦1勝3敗1分 日本フライ級4位
安久 夏実 デビュー戦 サウスポー
 

同じ静岡が地元の二人の試合。
大きな声援を受けながら、入場する女子ボクサー二人。
5戦のキャリアのある近藤の方が、声援が大きいか…。

普段は小学校教師の近藤。
生徒やその保護者と思われる客も多い。

距離を測り合う二人。
ジャブを刺し合う中、前の手が絡まった状態からの安久の左ストレートがオープニングヒット。
密着した状態でボディへ拳を叩き付ける近藤

もみ合いのようになる中、お互いのストレートが捉え合うが、
その数はわずかに安久が上回ったか…。
 

2R、前に出る近藤、足を使って周ろうとする安久。
距離が縮まった場面、ガチャガチャとした展開になる中、離れ際を制するのは安久。
ラウンド終了間際、離れ際の安久の右フックが綺麗に決まる。
しかし、直後、近藤が強烈に右をぶつけ返す。

距離が潰れた場面では、泥臭く捉える近藤のボディが目を引く。
 

3R、開始直後から試合は密着した展開へ。
お互いに自由を制限された絡まり合いの中、ボディを叩いていく近藤。
距離が空けば綺麗にストレートを突き刺す安久。
距離が潰れると近藤のガチャガチャした手数が上回る。
ラウンド終盤にはわずかにできた距離に左ストレートを滑り込ませた安久だが
密着した時間が長くなった分、印象は不利か…。
 

4R、全ラウンドがどちらに転んでもおかしくない試合。
最終ラウンドはお互いがフィジカルの押し合いになる。
安久が推し勝って隙間ができれば、安久がヒットを奪う。
近藤が押し込んでいる間は、近藤の手数が展開を制する。
下がれば負け…、女同士の根性戦が展開される中、試合終了のゴングが鳴る。
 
 

マイジャッジ 38-38 ドロー
 
 

公式ジャッジが発表される。
39-37 近藤
39-38 安久
 
 

判定が割れた…
どちらの名前が読み上げられた瞬間も、客席は大きな歓声。
 
 

39-38 …
 

ドローはなし…スプリット…どちらだ…。
 
 

 
 
 

勝者:近藤
 
 

大きな歓声に包まれる会場。
拮抗した試合に、女子の4回戦が大きく盛り上がる。
 
 

選手数が少ない女子ボクシングで、安久がプロ5戦目の相手と
デビュー戦を戦わざる得ないのは仕方ないことだと思う。
しかし…安久はその試合で拮抗した試合をして見せた。
正直、驚かされたというのが本音。

ボクシングが綺麗だったのは安久の方…。
しかし、その差を密着戦で潰されてしまった。
どちらが勝ってもおかしくなかった試合の判定が、近藤に倒れた。
最後は神様に委ねられた試合。

ナイスファイト!
そんなありきたりな言葉がふさわしく思えた。
 

教え子たちも多く開場を訪れ、大きな声援の中を戦った近藤。
試合が始まった直後は、安久有利にも感じた試合。
しかし、それを”根性”の密着戦に持ち込み、寄り切るように勝ち星を手に入れた。
1R2分の短い女子ボクシングで不利な状況を打開した近藤。
判断の速さも、そしてガムシャラに勝ち切った姿も見事。
 

勝利者インタビューで飛び跳ねて喜び、大歓声を受ける近藤。
肩を落としてリングを降りる安久。

たったわずかな差…この二人にライバル関係のドラマが産まれないだろうか。
そんな期待を抱いてしまう。

技術的に目を見張る試合でもない、痛快なKO劇でもない。
だけど、熱量に満ちた、汗臭いぐちゃぐちゃなファイト…この試合に燃えた。
凄く燃えた。
 
 

 
 

【女子フライ級8回戦】
池本 夢実(琉球) vs グレテル・デパス(比)

池本 夢実 7戦6勝1敗 元日本女子フライ級王者/OPBF東洋太平洋女子フライ級1位
グレテル・デパス 9戦5勝(2KO)4敗 OPBF東洋太平洋女子フライ級3位
 

1R、スピードに乗った池本のワンツー、しかしそれをしっかりと距離で外すデパズ。
OPBF東洋太平洋王者に善戦し、アジアトップクラスの実力を証明済みのフィリピン人。
そのパンチは重量感に満ち溢れるが、池本はがっちりとガードしてはじき返す。
ラウンド中盤に、池本の右ストレートがクリーンヒット。
デパズは距離が詰まったところで右アッパーを叩き込んでやり返す。
ラウンド終盤には池本が鋭いジャブと右ストレートでデパズを弾き飛ばすシーンを作り出す。

女子のトップクラスはこれほどのレベルなのかと目玉が飛び出る思い。
どちらも、強い…痺れるほどに強い。
 

2R開始とともに攻めていった池本。
池本の猛烈な攻撃を上体柔らかく外していたデパズだが、強烈な右フックを被弾。
しかし、デパズも池本の入り際を捉えるシーンを作り出す。
 

インターバルの間、池本の応援サイドから沖縄の歌が響く。
歌の響きに乗って開場中に池本への期待が広がっていくようにも感じる。

3R、近い距離で撃ち合う二人。
芯を外し合う中、池本の強烈な右ストレートがデパズの顔面を捉えるが
デパズはダメージをおくびにも出さない。

コンビネーションで捉える池本、手数、ヒット数ではっきりと上回るが
池本の打ち終わりを襲う重量感のあるデパズのパンチ…。
1発での逆転も匂わせるスリリングな代物。
 

4R開始のゴングが鳴るが、デパズの陣営の指示が長引き、セコンドアウトが遅れる。
デパズサイドも、なりふり構わず勝ちに来ていることを感じる…。
このラウンド、デパズの左フックが強烈に池本を捉えるシーンが2度。
まだ試合は中盤…倒されずとも、致命的なダメージがあれば、試合を持っていかれる時間帯。
冷やりとするシーンだったが、池本は落ち着いてコンビネーションで攻めて行き、
左フックを効かせてラウンド終了のゴング。
 

5R、先に先に手を出していくデパズ。
池本のパンチをうまく外しながら、デパズが左右のフックで池本を捉えるシーンが目立ち始める。
手数が落ちた池本だったが、ラウンド終了直前、強烈な左アッパーでデパズが腰砕けになる。
 

6R、攻めの姿勢を強めるデパズから続々とカウンターを取る池本。
デパズは全く怯まないものの…主導権は完全に池本に流れたか。
しかし…その重そうなパンチは衰えないまま。
 

7R、強打のカウンターの取り合いとなる。
スリリングな展開だが…時間が経つごとに池本の強烈な右がデパズを捉える。
何度も何度も池本の硬質なパンチに顔面を襲われながら…それでも攻めて出る。
 

8R、池本に判定に逃げ込む選択肢はなし。
強烈な池本の左ボディが何度も何度もデパズを襲う。
手が出なくなっていくデパズ…ここに来て、初めて効いた素振りを見せたデパズ。
池本がはっきりと力の差を誇示し試合終了のゴング。
 
 

マイジャッジ 79-73 池本
 

78-74×2、80-74
 
 

3-0

勝者:池本
 
 
 

この日のフィリピン人は女子ボクシングをよく知らない自分でさえ断言できるほどに強かった。
距離感は抜群、パンチも脅威、ダメージを一切見せないメンタル、日本人にはない柔らかさ。
デパスは純粋なボクシング畑でその力を磨いた選手だろうと思う。

そしてそれを上回る池本のスピード、硬質なパンチ…。
リスクを恐れず、最後まで攻めていった池本の姿とハイクオリティの駆け引きに
ボクシングの魅力を濃厚に詰め込んだ試合だったと感じる。

カッコ良過ぎる…女子ボクシングはカッコ良過ぎるくらいにカッコいい。
 

空手上がり特有の硬質に思えるパンチ。
反面、こちらも空手上がり特有である、「上体の固さ」が欠点として垣間見える。
このレベルでまだ伸び代を持ち合わせているように見える池本。

世界前哨戦として銘打たれた試合。
鳥肌がたつようなスリリングな試合、そしてその強さ。
さらに、ここからまたさらに強さを手に入れそうに感じる池本のポテンシャル。

これほどまでに面白いか女子ボクシング。
 

「すんげぇもん見た」

そんな時に包まれる特有の浮遊感で千頭駅に向かうシャトルバスに乗り込む。
駅では、共通の知人を持つ後楽園ホールのマニア二名と遭遇。
長い長い帰りの電車の道のりを、マニア達とともにボクシング談義で過ごす。

初対面のお二人だったが、とにかく楽しい時間を過ごさせてもらった。
応援している選手がいて、そのいい時も、悪い時も同じ時間を過ごす。
そんなファンが選手を思いやる気持ちは、どんな知識より、どんな技術論より凄いと感じることがある。

ボクシングや、リングに対して”神聖”なんて言葉が使われることがあるが、
きっと神聖という言葉は、そういった物理的なものよりも、そんなファンの思いにこそ
相応しい言葉なんじゃないかと感じたりすることがある。
 

この日、会場に詰め掛けたファンの多くは、地元から出て頑張る池本を応援しに来たファンだったと思う。
杖をついたお年寄りも多く、池本の母親のような年齢の女性も多く…。
「ボクシング」以上に、自分たちが応援する池本を見に来た…。

そんなファンたちは、第一試合前から会場前に長蛇の列を作り、
第一試合の選手の入場の音楽に合わせて手拍子を叩き。
全ての試合に暖かい拍手を送り…遠くフィリピンから挑んできたデパズにもその暖かさを注いだ。

寒さ厳しい冬の静岡の山間部は、ボクシングに対する高い熱量に包まれた。
しかしそれは、格闘技の持つ火傷を負うような熱さとは少し違う。
戦いの道に身を置くボクサーたちに、寄り添うような暖かみを帯びた熱量。
 

本川根町。
静岡の山奥には、池本 夢見という女子ボクサーを取り囲む、神聖なファンたちがいる。
この町で、もう一度ボクシングが見たい。
いや…何度でも見たい。

あの熱は、きっとボクシングに擦れてしまった自分たちマニアの心にも何かを与えるはずだ。
 

中日本外からのボクサーも多かった興行。
素晴らしいボクサーたちに沢山出会えた。
素晴らしいファンたちの姿もたくさん見れた。
そして、女子ボクシングのぐうの音も出ないほどの凄さを体感した。
 
 

また、自分のボクシング感が変わる。

すげぇもん見た。
ほんとに…すげぇもん見た。
 
 

 

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