2023/06/18 -愛知・刈谷あいおいホール- 前置き(中日本ボクシング観戦記) ボクシング選手名鑑ピックアップ!

2023/06/18 -愛知・刈谷あいおいホール- 前置き(中日本ボクシング観戦記) ボクシング選手名鑑ピックアップ!

 

前夜、突然メッセージが届く。
元日本スーパーフェザー級王者 杉田 竜平(畑中)
現在岐阜で杉田ジムを開いている杉田会長からだった。

「グローブを受け取って欲しい」


自分が初めての敗戦を喫したOPBF東洋太平洋スーパーフェザー級タイトルマッチ。
タイガー・アリ(比)と戦ったときのもの。
そして、世界に挑んだヨーサナン・3Kバッテリー(タイ)戦のときのもの。

 

どちらも、キャリアの中での大きな試合。
特別なものじゃないわけがない。
モノに無頓着なボクサーも多くいるが、そうであれば20年経った今、それは手元にはないだろう。

正直戸惑った。
自分はコレクターではない。
ボクシングファンにもジャンルがある。
パンフレットやグッズ、グローブを収集するファンもいる。

レコードマニアである自分は資料の収集には熱心だが、選手のグローブであったりは持っていない。
チャンスがあっても、自分よりそれを欲しがる人がいるだろうと言う思いで手を出さないでいる。

 

自分がボクシングを見始めたのは2000年頃。
感受性の一番強い時期に地元TVの画面の中で活躍していたのが杉田 竜平だった。
あの当時のボクサーはやっぱり一番強い。

スポーツ技術は発展していくもの。
現在のボクサーの方が強いのは明らかだ。
でも、感受性の強いころ、まだ競技を見ることに、
慣れきってしまう前に見たボクサーの輝きは塗り替えられることはない。

初めてボクシングを見たとき、初めて感動したとき…
初めてが沢山詰まった観戦初期の感情は、観戦歴が進むほど薄れていく。
それを埋めるように様々なものを知り、情報を集め、深い深いドラマに埋没していく。
気が付けば、人からマニアと呼ばれるようになっていた。

20年以上も前…薄れる記憶の中でも、まばゆかったその姿の記憶は刻み付けられている。

 

「もらって欲しい」

どういう感情で言っているのか、正直理解できない。
考える余裕もないほどに舞い上がる…。

会場でグローブを受け渡される。
杉田竜平が大好きだった人の目に触れるところに置きたいと思った。
そう伝えた…、ただ、何か違和感があった。


帰り道の電車の中でもグローブを見ながら思いを巡らせた。


誰かの目に触れる所に…が適切なら、杉田ジムの中に置くのがベストじゃないか。
杉田竜平が好きな人達なら、まずそこに行くだろう。
そうじゃない…杉田会長は自分にこのグローブを贈ってくれた。


自分に置き換えてみる。
お礼の品なら、相手に有益なもの。
このグローブは相手に有益なものというよりは、自分の思いがこもったもの。

これはお礼の品ではない…。
メッセージを読み返してみる。

「いつかボクシングが好きな人に受け取ってもらいたいと思っていた」

このグローブを渡す理由はたった一文だけだった。

 

自分が自分の大切なものを渡すとき。

「何か思いを託すとき」
「愛情を表現するとき」

 

それくらいしか思いつかなかった。

「人それぞれのボクシング愛がある」
僕のボクシング感を変えてくれた頂き物の金言。

ファンは選手を愛している。
関係者もファンを愛している。

人の感情や思いを言葉で表現するには限界がある。
外国語には「切ない」という言語がないものもある。
日本語にも、心を表現するのに足りない言語はきっとある。
文字に起こすと少し安っぽくなるかもしれない。


選手とファンがボクシングを通じて愛情をぶつけあう。
命や体を心配しながらも、その選手が「生きる意味」みたいなものにぶつかっていくのを応援する。

人を殴ること、自分の体を傷めることは、リングの外に出てしまえば悪だ。
リングの中で起こる特殊な状況を許し、受け入れ、それを応援する。
許すことも、受け入れることも、応援することも…その行動すべてが愛に近いもの。
日常では悪とされることを許す…この瞬間、ファンは選手の絶対的な味方だ。

そして選手は、その体を傷めつけながら、ファンに感動を返す。
その身を賭して、誰かを喜ばせる。


殴り合う野蛮なスポーツ。
そうなのかもしれない。
でも、自分が感じているのは、リングの中と外で愛情をぶつけ合っているスポーツ。

ボクシングは凄まじい愛情の渦の中にある。


引退し、リングに上がらなくなった杉田竜平が表現してくれた愛情、思い。
僕が受け取るべきは「プレミアグッズ」ではなく、「そこに乗せられた思い」だ。

試合を見るのと同じ。
リングから受け取る感動を、心の中で増殖させ、声援として返す。
グローブをもらうということを通じて感じた感動をより増殖させてリングに返していく。
もっと強く、もっと深く、ボクシングやボクサーを愛していく。


「舞い上がって色々言いましたが、自分のものにしちゃうことにしました。」

そう返答した。

 

さて、ここでいつもの前置き。

自分はファンではあるが、熱狂的なマニア程の肥えた目を持ってはいない。
自分より凄いと思えるファンはそこらじゅうに転がっている。同じ試合を見ていても、違う感想を持つファンもいるわけで…。
ここに書いたことが正解ではないと…。
それだけは認識した上で、読み進めていただきたい。

 

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