2019/11/24 -愛知・刈谷あいおいホール- セミファイナル、ファイナル(中日本ボクシング観戦記) ボクシング選手名鑑ピックアップ!

2019/11/24 -愛知・刈谷あいおいホール- セミファイナル、ファイナル(中日本ボクシング観戦記) ボクシング選手名鑑ピックアップ!
 
 

【50.0kg契約8回戦】
ジェイアール・エスティリモス(六島) vs 冨田 真(HEIWA)

ジェイアール・エスティリモス 28戦11勝(7KO)16敗5分
冨田 真 19戦9勝8敗2分 サウスポー
 

静かな立ち上がり、時折ダイレクトの右を強烈に撃ち込んで来るエスティリモス。
空振りも威力は充分、ヒリつくような緊張感が会場内に一気に広がる。
ラウンド終盤、ダイレクトの右で強烈に冨田の顔面を捉える。

冨田もしっかり出入りするが、右フックが交錯した瞬間、
両者の頭が強烈に衝突…カコッ…と生々しい音が響き渡る。
 

2R、先に入り込んで左ボディを突き刺したのは冨田。
大きく振るうエスティリモス、ガードの上からの被弾でも冨田のバランスを崩す。
これは見栄えが悪いか…ラウンド中盤、冨田が右ストレートをまともに被弾。
強烈な威力に、後ろに吹っ飛ぶように後退。
 

3R、緊張感高く、距離を取る冨田だが…。
追いかけたエスティリモスの右ストレートが突き刺さり、冨田が膝を着くダウン。

冷静にカウント8まで休み、再開に応じる冨田。
足に来ているか…攻め込む強打のエスティリモスに対し、撃ち合いに応じる。
当然被弾も増える中…2つ3つと連打を食って冨田がのけぞったところでレフリーが試合をストップ。
 
 

エスティリモスの迫力ある一撃は、会場全体を凍り付かせるような代物。
しかし、冨田は若干大きいエスティリモスの強打をしっかりと見て、
際どいタイミングで躱し、防ぎ、臆せず入って自分のパンチをぶつけるタイミングを作った。

しかし、2Rからより強引にエスティリモスが攻めた結果、
ガードごと冨田のバランスは崩され、強烈な一撃をまともに浴びる場面ができてしまった。

パンチ力はボクシングにおける絶対的な武器。
明らかに軽量級に似つ躱しくないそれを24分間、防ぎきることはできなかった。

出入りが身上の冨田…タイミングに慣れてさえしまえば、
そこまで試合をもつれさせることができれば…。
ダウンを奪われた後も、まだ、希望は残されたままだったが…。

少し早めにも思えるストップ。
冨田の試合を見て来た身としては、「ここからだったのに…」の思いも湧くが…致し方ないか。
あれが続けば間違いなく危険、冨田の足は止まっていた。
 

地域王者を頻繁に抱え、近年の世界挑戦も実現させた西の有力ジムが
負け越し戦績のフィリピン人をなぜ呼び寄せたのか…。
その理由は、この日の試合を見たファンにははっきりと刻み込まれただろうと感じる。
 

冨田は…これで3連敗。
A級昇格直後には2連勝を飾ったが、ここに来て、壁に当たっているか…。
しかし過去、冨田はB級昇格時にも壁に当たったように見えた。
そこを乗り越え、一時は日本ランキングに載るところまで伸びていった。

成功体験がある人間は強い。
きっともうワンランク上で勝負できるようになるはず。
そう信じて、冨田がまた、勝ち始める日を待とうと思う。

青コーナー側の熱い声援に乗って、小気味いい出入りを繰り返す冨田。
刈谷のバルコニーから見るその光景は、
刈谷あいおいホールの魅力を凝縮しているようにさえ見える。

冨田の戦う姿が好きだ…冨田復活を信じるにはそれだけの理由で充分だ。
 
 

 

【フライ級8回戦】
村上 勝也(薬師寺) vs 井上 夕雅(尼崎亀谷)

日本フライ級10位
村上 勝也 10戦8勝(2KO)1敗1分

日本ミニマム級8位
井上 夕雅 10戦8勝(1KO)1敗1分
 

入場とともに、辺りをキョロキョロ見回す井上。
「あれ?全然客入ってへんやん?」とでも言いたげな表情。
「ま、えっか…。」なんて顔をして肩にバスタオルを引っ掛けてリングに上がる。

対して、軽快でポップな音楽に乗って、
ファンで作られた花道を踊りながら入場してくる村上。

入場から対照的な二人。
 

ゴングが鳴ると軽快にジャブを飛ばしていく井上。
対して、その撃ち終わりにワンツーを放つ村上。
オープニングヒットはフレームで頭一つ近く上回る村上か。

入り込むタイミングを伺う井上に対し、村上の長い左フック、右ストレートが刺さる。
しかし、井上も村上のジャブに合わせた左フックでやり返す。

ラウンド後半に入ると、踏み込んで、右ボディ、右フックを撃ち込み始める井上。
離れ際には左フックを引っ掛ける。

村上も近い距離では弧を描くような右フックでやり返す。
 

2R、軽快にフットワークを刻む井上、出入りでジャブをヒットさせると
村上のジャブに合わせてクロスカウンターを叩き込む。
さらに踏み込んで左ボディを撃ちつけた井上に対し、
村上は離れ際に強烈な左フックを叩きこむ。

ラウンド中盤には距離が長いはずの村上の方から踏み込んでボディから顔面へと返す。
井上は左フックのカウンターで村上のアゴをえぐって対抗。

後半に入ると、村上のパンチを外しながら、ジャブに合わせたクロスカウンター。
村上が踏み込んだシーンで、井上の左フックのカウンターが目立ち始める。
村上は近い距離で、鋭利にアッパーで井上の顔面を叩く。

井上は細かい出入りと、クロスカウンターでジャブを潰すことで
村上にとってのアドバンテージである、フレーム差を感じさせない。
 

3R、井上が村上の肩越しに右ストレートを突き刺せば、
村上はワンツーの右ストレートで井上の顔面を弾く。
中盤、お互いにジャブを刺し合いながら距離が縮まった局面では
井上の左フックが痛烈にヒット。
さらにスッと踏み込んで左アッパーで村上の顔面を突き上げる。

村上はジャブの数を増やし、今度は村上が井上のジャブに合わせて
クロスカウンターを叩き込む。

ここから、井上が距離を詰めると、村上が応じるように二人は近い距離での攻防に。
井上のカウンターが、村上の鋭利なアッパーが…ボディを…顔面を捉え合う。
 

4R、ラウンド開始からジャブを突いていく村上。
距離が近づくと右アッパー連打…。
井上は貰いながら右フックをボディから顔面へダブルで撃ち込む。
試合が熱量を増し始めたところで、二人の強烈な左フックが相打ち。

中盤には井上の左ボディに対して村上の右アッパー…ここも強烈な相撃ち。
村上がボディジャブを多用しながら右ストレートを突き刺すと、
井上は村上が踏み込んだ所に左フックを突き刺す。

終盤、村上が強烈に左ボディをえぐる場面を続ければ、
井上は密着した場面で左右フックを撃ち込んでみせる。

さらにコーナー付近での攻防では攻め込む村上の攻撃を外しながら
井上が左フックを強烈にヒット。
しかし、次のシーンでは村上が井上の左フックに合わせて、
右フックのカウンターを強烈にヒットさせて反撃。
 

5R、お互いにジャブを刺し合いながら、強烈なパンチでボディを叩き合う。
村上の左に合わせた井上の右がヒットするシーンが目立つ中、
井上が強烈に腹をえぐると、一旦村上が距離を置く。

次のシーンでは、井上が腹からのコンビネーションで顔面を襲う。
一気に流れは井上か…そう思った矢先、
今度は村上が井上のボディをえぐるシーンを連続で作る。

お互いに頻繁にポジションを変えながら、激しく撃ち合う二人。
途中井上は、両手のグローブをパチンと叩く…スイッチが入ったような仕草。
 

6R、ラウンド開始から強烈にボディを撃ち込んで行った井上に対し、
左フックをカウンターで撃ち込んだ村上。
お互いに好戦的にパンチを交わし合う中、井上の右ストレートが強烈にヒット。
確実に効いた一撃に、井上がコンビネーションで攻め立てていく。

いつもなら軽快なフットワークで躱すはずの村上が、ズルズルと下がる…。
ここで決着か…そう感じた瞬間、村上がボディから左右フックを撃ち込んで前に出る。

いつも涼しい顔をして、自分のボクシングを崩さない…
そんなスマートなボクシングをしてきた村上が…
べた足で、井上の拳と向かい合う…、頭を着けての撃ち合い。

井上にはまだ足が残っている…。
足が効かない村上を置いて出入りで打ちのめすこともできるように思える。
しかし、井上もここでほぼ足を止める。

そして…村上に対して「来い!」と合図を送る。
ボクシングが…殴り合いへと変貌していく。
いつも冷静なはずの村上が、感情をあらわにしていくようにも見える。
きつい状況に顔を歪めながら、それはそれは楽しそうに、殴り合う。

強烈にアッパーを浴びながら、右フックを突き刺し、
右ストレートを浴びながら右アッパーを突き刺す村上。

連続でアッパーを被弾した井上は、またも「来い!」の仕草。
細かいことがどうでもよくなるような殴り合いが展開される。
 

7R、開始から出入りしながら拳を撃ち込んで行く井上。
村上は愚直なワンツーからアッパーで井上の顔面を捉えるも、
井上は強烈なクロスカウンターで村上の顔面を跳ね上げる。

足の死んだ村上は普段のボクシングとは程遠い姿となりながら
愚直に前に出ながら、貰っても殴り返す…殴り合いを求めて足を前に進める。
それに呼応するように井上も足を止め始め、また二人は殴り合いへ。

手が出るのは井上の方だが、村上も一発一発に力のこもったカウンターで捉え返す。
 

最終ラウンド開始から殴り合う二人。
まだ元気が残っているのは井上の方で、強烈に腹をえぐる場面が目立つ。
中盤には殴り合いの中、井上の右ストレートが強烈にヒット。
いったん距離を取ろうとした村上を追いかけて行った井上は右フックを追加。

ここで、村上が崩れ落ちるようにダウン。
ダメージが噴出したかのような倒れ方…激戦に幕が下りた。
そう感じた場面…村上は立ち上がる。

残り一分、勝負をまだあきらめていないか…それとも…。
追ってくる井上に対し、下がりながら応戦する村上だが、
突如グッと足を止めて強烈な左フックをカウンターで突き刺す。

足を使いながら、カウンターを狙い続ける村上。
判定は固い状況で追いかけ続ける井上。

試合は村上の奇跡の一撃も、井上のトドメの一撃も見ることなく終了のゴング。
 
 

マイジャッジ 77-74 井上
 

公式ジャッジ

78-74
78-73
76-75
 

3-0
 

勝者:井上
 
 

試合が終わるとともに、全身が酸欠気味の痺れに襲われる。
ひどく興奮した試合に出会うとこうなる。

判定が出た後、井上に対して、名残惜しそうに話しかける村上。

選手の気持ちなんて見ている側にはわからない。
自分の気持ちでさえわからないことの方が多いのに、
他人の気持ちがどうしてわかると言うのか…。

それでも、村上が立ち上がった最終ラウンドの気持ちを想像せずにはいられない。
シレっと強くてシレっと勝つ…いつも飄々と自分のボクシングを崩さない村上が、
まるで不器用な選手のように殴り合いに身をうずめていった。
試合終盤のしんどい場面、村上の姿はそれはそれは楽しそうに見えた。

残り一分だった試合、勝ち負けだけならあきらめてもおかしくない。
倒れ方も、一気にダメージが出てしまったような倒れ方…。

わずかな時間でも、まだ戦いたかったのではないかと…それだけだったようにも見えた。

試合後、顔を腫らせることなんて珍しい村上…この日は目の付近が変色している。
それでも、どこか誇らしげに、そして満足気な笑みを浮かべている。
この村上を見せてくれた井上に、感謝の思いが強く湧く。
 

試合後、顔見知りに挨拶を済ませていると、尼崎亀谷の関係者の方に、
会長と井上に会って欲しいと言われ、リングサイドへ。
インターネット上で、井上 夕雅をカリスマ!カリスマ!と騒いでいたせいだろう。
会長さんから「いつもありがとう」と一言いただく。

素直に受け取るものの…村上を応援していたので相当気まずいのは内緒。
 

その後、井上と少しだけ話をさせて貰う。
 

試合後の興奮そのままに…

「今年の中日本ベストバウトでした!」と声をかけると…

「え?中日本てそんな試合してんの?」

思わず、「失礼でしょそれ!!」と言いながら吹き出してしまう。
 

「もっとクリンチとかやらしいことしてくるかと思ってたけど
 撃ち合って来たからびっくりしたわぁ…。」

なにか炭酸の抜けたコーラのようにスカスカな雰囲気で返答する。
まるで、自宅のリビングで「今日こんなんあったわぁ…」なんて
自分の親に言うような口調…自然体にも度が過ぎる…。
 

そんな口調そのままに、別れ際、一言だけ言い残す。

「矢吹って強いらしいな?戦りたいわ。言うといて。」
 

矢吹 正道(緑) 日本ライトフライ級1位。
中日本の軽量級では世界王者の田中 恒成(畑中)に次ぐ存在。

矢吹は…対戦相手が見つからなくて苦労し続けた選手だ。
そんな矢吹に遠慮なく、ふわっと宣戦布告して去っていく…。

中日本で、矢吹と戦りたいなんていう言葉は聞いた事が無い。
そして、口調から察するに、多分、井上は矢吹がどれだけ強いかは知らない。
むしろ、そんなことは関係なさそうだ…。

ただ、強いと聞くから、やりたい…それだけ。
嘘のない真っ直ぐな井上の言葉に、度肝を抜かれてしまう。
 

紫のトレーナーとスウェットで帰って行った井上。
刈谷にやってきて大激闘を演じた後は、
尼崎の兄ちゃんが、コンビニに行くような感じで帰って行く。

自然体で、決して小馬鹿にしたり、見下したりするわけではないにも関わらず、
放たれる言葉はイキのいい言葉ばかり…そしてその一つ一つに強烈に惹きつけられる。

これで二度目の刈谷あいおいホール。
またも、この男は対戦相手の魅力を何倍も膨らました上で
自身の強烈な魅力をまき散らしていった。
 
 

西のカリスマ 井上 夕雅。
勝手につけたその異名に、まったく劣ることなし。
 
 

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