2017/7/16 刈谷あいおいホール-9試合目(中日本ボクシング観戦記) ボクシング選手名鑑ピックアップ!
【56Kg契約8回戦】
濱口 人夢(市野) vs 深蔵 和希(HEIWA)
・濱口 人夢 10戦5勝3敗2分
・深蔵 和希 24戦10勝(4KO)12敗2分
僕は試合前、このカードをいたるところで今日イチ!と発言していた。
しかし…その予想は大きく外れる。
今日イチどころか、僕の人生イチ…だったかもしれない。
刈谷という地方で行われた、ノーランカー同士の一戦。
二人を知る、中日本の熱心なファンだけが期待しただろうカード。
ランカー挑戦に3連続で失敗していた深蔵。
しかしその内容は、延々と相手に飛びかかって行き、
撃たれても撃たれてもただ愚直に、ひたすらに攻め続ける…。
その姿に胸を熱くしたファンは多いハズ。
対して濱口は…KO勝ちはないものの真っ向勝負が身上の選手。
パンチ力がありながら、なぜKOがないか不思議なほど。
好戦的な二人の戦いは、戦前から面白くなること間違いなしと予想できる一戦だった。
1Rが始まる…お互いに様子を見合う静かな立ち上がり。
先手を取ったのは深蔵で、ボディから顔面へジャブを撃つ。
このパターンを2度ほど繰り返す。
しかし、濱口は強烈な右を、深蔵のガードの脇からねじ込んで反撃。
思わず声が出てしまうほど。
ガードの上からでも迫力が伝わる大きな濱口の強打。
しかし、深蔵は恐れることなく入って行きラウンド終盤には右ストレートで濱口の顔面を跳ね上げる。
2Rは濱口が前に出てくるが、深蔵は下がらずに濱口の顎をえぐるような強烈なヒットを奪う。
その後も幾度も深蔵の右ストレートがヒット。
しかし、濱口はガードの上からでも衝撃が伝わるような左右のフックを叩きつけて反撃。
3R、濱口の強打が火を噴く。
深蔵の飛び込みに、濱口の大きなフックが重なる。
威力が伝わるには少し距離が短いが、それでも揺れる深蔵。
さらに強烈なストレートを撃ち込み、そこから攻め込んだ濱口…。
しかし、ここを絶えた深蔵は、濱口の右ストレートに合わせた右ストレートを振り抜く。
強烈にヒットし、明らかに一瞬意識を飛ばした濱口…このチャンスに深蔵は一気にラッシュを仕掛ける。
延々と顔面を跳ね上げられる濱口。
濱口はガードを固めるも、深蔵はベテランらしく、ガードの隙間を通していく。
いつまでも止まない深蔵のラッシュ。
どこまで続くのか、スタミナが持つのか…ここを逃せば、ガス欠に陥る可能性もある。
その時間、正確には計測していないが、30秒程は続いたのではないだろうか…。
無呼吸でひたすらにコンビネーションを繰り出し続ける。
…こいつ、どれだけ走ってるんだ…ほんとに8回戦か…そんな言葉が突いて出る。
この窮地を濱口は耐えきってしまう。
そして撃ち疲れた深蔵に対し、力を込めた右フックを撃ち込む。
明らかに効かされてしまい、バランスが崩れた状態ながら、力を込めて振り抜いた一撃…
今度は深蔵が揺れる。
一発一発、力を込めて撃ち返していく濱口。
ラウンド終盤、両者が右フックを相討ちし…二人とも棒立ち。
ダメージの深い濱口が不利か、撃ち疲れた深蔵が不利か…
このラウンド、深蔵が左目上をカット。
4R、既に疲弊した二人。
短期勝負と見たか…両者リング中央で、殴り合いの開始。
あれほどのラッシュを繰り出した深蔵…さすがに直後は撃ち疲れを見せたが
このラウンドに入ると、回復したかのように手数を出していく。
コンパクトで的確なパンチがいくつもいくつも濱口を襲う。
しかし、濱口は圧倒的な数のパンチを浴びながら、
時折放つ強打は確実に深蔵を捉える…その度に揺れる深蔵。
1発で不利をひっくり返す濱口。
深蔵は…いったいどれだけ走り込んでいるのだろう。
あれだけのラッシュを仕掛けた次のラウンドで、なぜこれほど手数を出せるのか。
しかし、濱口のパンチ力は、積み上げたヒットを帳消しにしてしまうよう。
「神様…なんでもうちょっと深蔵にパンチ力を与えてくれんかったんや…」
そんな言葉が口をついて出ると、涙がボロボロ出てきた。
ボクシングの無情さや、努力が才能に打ちのめされる悲しさ。
そしてただただ、深蔵という男の偉大さへの感動。
濱口という男の純粋さ…自分の拳を信じているからこそ、あのラッシュを耐えきったんだろう。
そして、そこからの大逆転を信じて疑わないからこそ、どれだけ殴られても真っ向から行くんだろう。
言葉にすればいろいろ言えるけど…よくわからない。
とにかくリングで殴り合う二人の男に泣けた。
5R、両コーナーのセコンドが出るのが遅れる。
両者ダメージは深いと思われる。
ラウンドが開始されると、二人の真っ向勝負は過激さを増す。
深蔵は効かされた瞬間、目の前の濱口に抱きついてしまうことは容易に思えるが…
決してクリンチに逃れることはなく、自分の拳を撃ち込むことで窮地を逃れる。
そして一気に濱口を連打の渦に巻き込んでいく。
しかし、濱口はもらいながら深蔵に強打を叩き込み…。
効かされた深蔵は、倒れかけるのを踏み止まって、また連打で濱口を捉えていく。
深蔵はどれだけ効かされても休まない。
ランカー挑戦の時もそうだった。
休まずに、ひたすらアタックを続ける。
今日の深蔵もまた、一切休まず、相手の顔面をコンパクトに捉えていく。
レフリーが割って入ろうとしても、手を出し合う二人。
一旦試合が中断されるが、お互いその場で睨みあう。
バチバチの興奮状態。
深蔵のカットに対してドクターチェック。
…止めるな…最後までやらせてやれ…。
そんな思いで見守る。
結果は続行…胸を撫で下ろす半面…もしこのままこの試合が続いたら。
最悪の結果さえ思い浮かんでしまう激戦。
6R、両者変わらず撃ち合う中、両者ともにフラフラに…
一度ダウンしてしまえば、きっとそこで試合はストップだろう。
それどころか、レフリーにストップをかけるタイミングを与えてしまえば、
そこでTKOが宣告されるかもしれない。
両者ともにダメージが深過ぎる。
しかし…お互いの手は止まることはない。
7Rもまた、前のラウンドがリピートされるような展開。
幾度も幾度も深蔵のパンチが濱口を捉えながら…一撃で濱口が深蔵をふらつかせる。
「これ判定になったら難しいぞ…」
「こんなの前座でやられたらセミもメインもやりづれぇだろうな」
そんな声が近くから漏れてくる。
会場は大熱狂。
両者のファンが叫び倒す。
気がつけば自分も叫んでいた…。
濱口は撃ち合いの最中、客席に対して”コイコイ!”と煽りを入れる。
観衆は答えるように大歓声を送る。
ここまで揺れる刈谷を見たのは初めて…いや、後楽園でも見たことはないと思う。
両者肉体の限界は超えているだろう。
濱口は観客の歓声を、倒れずに戦う為の原動力にしたのかもしれない。
もっと歓声を…もっともっと歓声を…。
7Rが終わり、8R開始前。
コーナーにもたれるレフリーが、2段目のロープを強く強く握りしめる。
危ない試合…それは誰の目にも明らかだが…。
止めて欲しくない…会場の誰もがそう願っていたのではないだろうか。
この試合を、最後まで見ていたい。
どちらかが倒れるか、制限時間を迎えるまで。
しかし、選手の命を優先すべきレフリー。
その姿は止めるべき時に備えて覚悟を作っているようにも見えた。
8R開始のゴングが鳴る。
ここで両者ともに疲れが噴き出したか…
これまでのスピードが嘘のように…力強さが嘘のように…
試合はドロドロになっていく…
しかしそれでも最後の力を振り絞った両者。
これまで同様、深蔵の細かいパンチが濱口を捉え続け、
濱口が大きなフックで深蔵を揺らす。
深蔵は膝をガクガクさせながら、また的確なコンビネーションを叩き込む。
両者のスピードがスローモーになっただけで、内容は全く変わらない。
何度も何度も倒れそうになりながら撃ちあった両者。
試合終了のゴングは、二人の雄姿を讃えるように鳴り響いた。
マイジャッジは78-76で深蔵。
ダメージが深いのは深蔵だが、有効打の数が違い過ぎる。
そんな思いだった。
判定が発表される。
77-75、77-76、76-76…
2-0の判定で…
勝者は濱口。
「嘘やぁぁぁぁぁ!!!!」
そう叫びながらその場にへたり込んだ。
まったく、不可解な判定ではない。
充分にあり得る妥当な判定。
だけど…深蔵の勝ちでもおかしくない試合。
…神様は、どこまで深蔵に意地悪なんだ。
判定の結果に一瞬茫然としたあと、そそくさとリングを降りる深蔵。
悔しさがありありのその姿。
この日のヒーロー、濱口に贈られる大歓声。
ちきしょう…なんてすげぇ奴らなんだ。
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